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隣の席の子と突然休日に会うことになった話

作者: 光井 雪平


「明日、暇?」


 放課後、突然僕は隣の席の佐々木さんに尋ねられた。僕は驚いてしまったがゆえに、頷いた。実際暇ではあったのだが。


「じゃあ○○駅前に10時に来て」


 彼女はそういうと、じゃあねとだけ言って急いで立ち去ってしまった。取り残された僕は頭に疑問符を浮かべながら呆然としていた。


 佐々木さんとは先月隣の席になってから話すようになった。同じクラスになってから半年の間、ろくに話すこともなかったものが、ほぼ毎日、話すようになったのだ。時折時間が合えば、一緒に話しながら帰ることもあった。


 だけど、先ほどの突然のことには驚いた。そもそも学校ではよく話すが、学校以外ではほぼ話さないのだ。時折メッセージをかわすこともあるが、ほんの少しだけで、大抵学校の課題とか持ち物についてだ。ある種業務連絡というような、別に相手が誰でもよいものであった。


 僕と彼女の関係は決して深いものでもない。だから、突然休日に会うことになるとは思いもしなかった。そんなことがあること自体が個人的にはあり得なかった。


「なんで?」


 僕はぽつりとつぶやいてしまう。実際なんで?という思いしかでてこないのだ。唐突に佐々木さんに誘われるとは思えない。


 メッセージで佐々木さんに真意を聞けばいいのでは?と思うが先ほどの急いで立ち去った様子を思い出すと、それはよい選択ではない気がした。


 僕はとりあえず、明日彼女に会えばわかるだろうと思うことにした。特に明日用があるわけでもないのだ。

 実は彼女に何か嫌がらせとか弄ばれているだけかも知れないが、彼女にそんな気持ちが毛ほどもないとしたら申し訳ない気がしたのだ。


 そして、僕は明日駅前に10時に行くことにした。明日起こることに若干の恐怖を感じたとしても、いくしかないと思えたのだった。


 翌日、○○駅の前に僕は9時50分についた。駅前のよくみんなが待ち合わせ場所に使う場所のところをぐるりと見渡す。佐々木さんはまだ来ていないようであった。着いたよとメッセージを送るのは何か彼女をせかしているかのように思えて、送ることはしないでいいかと思えた。10時になるかならないかぐらいで遅ればいいだろうと思って、とりあえず、しばらくぼーっと待つことにした。


 5分後。


「ごめん、待たせたね」


 彼女はそう言って現れた。いつもと雰囲気が大きく違った。ただ見慣れている制服から私服に変わっただけだというのに、僕の心はいつもより高鳴っているように感じた。


「いや、僕が早く来ただけだし」


 その高鳴りを誤魔化すことを意識しながら、言葉を綴った。若干かんでしまったというか詰まってしまった。彼女はそれに気づいたのかなんなのかはわからなかった。


「で、今日は何するの?」

「ついてきて」


 彼女は僕の質問にそれだけ告げると駅内へと向かっていった。僕は結局わけがわからないなと思いながら彼女についていくことにした。


 別に彼女に今日振り回されることになっても構わないと思ったからだ。なぜそう思ったのかは正直わからないが。


 改札を通り、駅のホームで待つことになる。彼女はスマホと駅の電車の表示やらなんやらを交互に真剣に見ていた。どこかに連れていかれるようであった。


「どこ行くの?」


 僕は一応聞いてみた。彼女は「秘密」とだけ答えた。僕はよくわからないまま彼女についていくことになりそうだと思いながらも、そのことに抵抗感を感じなくなっていた。


 乗った電車の行く先は大きな街につながるほうとは逆方向であった。これにより、どこか観光地でも行くのか?と思った。電車の行く先の観光地やらを頭の中にリストアップする。彼女と一緒に突然行くことになると思える場所はなかった。


 乗り換えをしながら、ざっと一時間ほどの時間がたち、彼女は目的地についたようであった。知らない駅であった。


駅の改札を出ると彼女は周りを見渡し、地図のほうへと近寄って行った。スマホをちらちらと見ながら、何かを彼女は確認した。


「こっちついてきて」


 しばらくして、彼女はそういうと、歩き出した。僕はわけもわからずについていった。


 駅を出て10分後、彼女はある場所の前で立ち止まった。どうやらここが目的地であったようであった。そのときの彼女はなぜかとても嬉しそうであった。


 そこは少し古い感じがするカフェであった。彼女がなぜここにきたがったのかはわからなかった。


彼女はそのカフェに入っていく。僕はわけもわからず彼女についてカフェの中に入る。カフェは少し古めの何の変哲もないカフェであった。カフェにいる客は僕たちだけだったようであった。


 渋めなマスターのような人に促され、テーブル席に案内される。彼は、メニューを渡してくる。とりあえず、よくわからないので、佐々木さんのほうを見る。


「私がおごるから気にしないで」


 彼女はそれだけ言うと、マスターを呼び、エスプレッソを二杯頼んだ。彼女はいいよねこれで?というような視線を送ってきた。僕は頷くほかはなかった。よくわからないし、なんでもよかったのだ。


 彼女は何も話さなかった。ここに来た目的も理由も。僕から聞こうかと思ったが、何かそれは憚られた。しばらくして、エスプレッソが来た。僕はそのまま飲む。コクがあってとてもおいしかった。苦味ももちろんあったが、それほど気にはならなかった。彼女もおいしそうに飲んでいた。


 飲み終わると、彼女は僕のほうを真っ直ぐ見てくる。僕はなぜか姿勢をただす。


「今日はごめんね、いきなり連れてきて」


 突然の謝罪に驚きながらも、僕は「気にしないで」と言う。


「ありがとね、でねこれ読んで欲しいの」


 彼女はそういうと、バッグから封筒を取り出して渡してくる。僕はなんだろうと思いながら、それを受け取り、封筒の封を開ける。中身は手紙のようであった。


 僕はそれを読み始めた。


 そして、すぐにこの手紙がどんなものかに気づく。これはラブレターであった。しかも僕宛の。


 僕は驚きの表情で彼女を見る。彼女は顔を伏せていて、こちらから表情は伺えなかった。僕は困惑しながらもとりあえず、最後まで読み切った。


 僕は手紙を机の上に置く。僕はどうしたらいいのだろうと思っていた。彼女は黙り込んでいた。


 恐らく彼女は返事を求めている。僕はその返事をどうすべきか悩んでいた。


 彼女の気持ちは大変嬉しい。だからこそ、どう返事をすればいいのかを迷っていた。僕は彼女の気持ちに応えればいい、それだけだ。そうわかっていた。だが、こんな経験は初め手の僕にはどういえばいいのかがわからなかった。


 そのとき、マスターのような人と目が合う。その瞬間、なぜだかわからないけど、自信のようなものが芽生え始めた。ただ思ったことを言えばいいのだ、と。

 深呼吸をして、僕は言った。ただ一言。


「好きです」


 彼女はばっと顔をあげる。僕はもう一度好きですといった彼女は嬉しそうにしながら「付き合ってくれる?」と聞いてきた。僕は「もちろん」と答えた。


 彼女は嬉しそうに笑った。


「大好き」


 とも言ってくれた。僕の顔はそのとき真っ赤になったように感じた。

 

 帰り道、彼女に聞いてみる。あのカフェのことを。彼女は恥ずかしそうにしながら答えてくれた。


「あそこで告白すると絶対上手くいくってネットで見たの」

「そうなんだ」


 それでなんとなく合点がいった。彼女が行く先を伝えなかったのは、告白することがばれないようにという配慮だったのだろう、と。


「本当にあのカフェに行けてよかった、色々噂があったし」

「噂?」

「うん、あのね。両思いじゃないと辿り着けないって噂があったの」


 僕はそれを聞いて、彼女がカフェについたとき嬉しそうにしていたことを思い出す。そういう理由があったからあそこに行けて嬉しそうだったのだろうと僕は納得する。


「また今度来ようね」

「ええ、また今度、一緒に。その」


 彼女は歯切れが悪そうにしながら、こう続けた。


「恋人同士として」


 僕はそれを聞いて、恥ずかしくなる。そのため、そっけなく「そうだね」とだけしか言葉が出てこなかった。


 僕と彼女は二人でしばらく、赤い顔のまま黙りながら駅へと進んでいった…


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