冬童話2023・そのぬいぐるみは星を航(わた)る
毎年恒例の冬童話参加作品です。小さなお子さんが読めるように噛み砕いたSFになっています。ルビが読めないお子さんにはいっしょに読んであげてください。
【もっとSFに光を!!】
ずーっと、ずーーっと昔の昔。
まだ地球にたくさんの人がいて、色々な国がありました。でも、だんだん人がふえて、国と国がたたかって、たくさんの人がしんでしまいました。
このままだと、みんないなくなってしまう。そう思った人たちは、宇宙をめざして旅だちました。たくさんの、宇宙をとべる船に乗って。
……それから、長い長いじかんがすぎ、たくさんの人が宇宙で暮らすようになりました。そしてたくさんの人が、宇宙でしんでいきました。宇宙はとてもさむく、そして星と星のあいだは、ずーっとずーっと遠くにあり、人が行ききするのはたいへんだったのです。でも、みんなゆめをみながら、宇宙をめざして地球をはなれたのです。
そして、今。
星と星のあいだは遠くなくなり、かんたんに行けるようになりました。でも、それにはひみつがあったのです。
「やー、よーくねたなぁ……ふわあああぁ……」
人が宇宙をわたるのに必要な冬眠カプセルがぱかりと開くと、中から誰かが起きました。
うーんとひと伸び、ついでにまん丸でフサフサな耳をピョンと立て、中にいた誰かはふるふると顔を振り、たとんと足を床におろします。
「えーっと……ここは何時で今はどこなんだろ……んー、あれ? 何だか何だかおかしいな……今と何時とこことどこ、組み合わせって、そんな感じだっけ??」
その誰かはキチンと起きたけど、お顔をあらってないからか、何だかおかしなことを言いながらキョロキョロクルッとまわりを見て、うむむむふむ……と首をひねります。
【……おめざめですね、おはようございます 】
「……んぁ? あ、おはようございます」
と、頭の上から声が聞こえ、誰かさんはそっちを見ながらあいさつします。でも、上には誰もいなかったんですけどね。
【……私のことがわかりますか? 】
「……うん? はて……何となくわかるんだけど……」
【……長くねすぎて忘れましたか? しかたないですね。ちょっと頭をはずして中がからっぽになってないか見てみましょう 】
「……あーーっ!? 思い出したし中はからっぽじゃないからカンベンしてほしーなっ!! ……えーっと……そうそうアルだよねアル!!」
誰かさんはあたふたしながら両手をふって、ようやっと思い出して誰かの名前をさけびます。アルって呼ばれた人は、ちょっぴりガッカリしたみたい。
【 ……アル、たしかに私はアルですが……正確にはアルキメデス・アルベルト・アステラス=円滑化推進維持システムで、つまり…… 】
「あーーっ! そーだ顔あらってくるよ! アル、戻ったらご飯食べるからよろしくー!!」
アルがどこかでブツブツと言い出して、誰かさんはポンと手をたたいてピョンとはねてから、たたたたたっとあわてて走っていきました。
「……そーそー、アルっておはなし長かったんだよね。うんうん、だっておはなしする相手が居ないから、ついつい長くなるんだよ……きっと」
誰かさんは顔をあらいに行きながら、長い長ーいろうかを歩いていくと、よこにたくさん窓があります。窓のむこうには、いっぱい、いーっぱい、冬眠カプセルがありました。ずーっと、ずーーーっと、ずずずずーーーーっと、むこうまで……たくさんたくさん、ありました。
「……アル、みんなまだ起きないよね?」
誰かさんがポツリと言うと、アルがやっぱり上から答えます。きっと、アルって名前を呼ぶと、かならず答えることになってるみたい。
【 はい、まだまだ冬眠カプセルはあきませんよ。あなただけで確認していただきます。もちろん、私も確認しますから、あんしんしてください、リトルベア 】
「……あー、ひさしぶりに名前きいたなぁ。リトルベア……ちーさなクマ……ねぇ?」
リトルベア、と呼ばれた誰かさんは、窓にうつった顔を見ます。確かにクマさんそっくりな、まん丸耳とフサフサおひげ、ついでにモコモコ顔のリトルベア。でも、ちょっとだけ『小さなクマ』じゃありません。だってリトルベアは……
「……よいしょ、よいしょ……んんぅ~!!」
ぐいぐいと顔とからだを押し込んで、顔をあらう所にきたリトルベア。えーっと、何してるかって言いますと……リトルベアって、とーっても大きかったんです。そんな大きなリトルベアが、まず顔をぐにーっとせまーい所におしつけて、ぐいぐい、ぐいぐい動かすと、きゅぽんと入ってひと安心。それからからだをおしこんで、やっぱりぐいぐい、ぐいぐいと動かして……きゅーーっ、ぽん!!
「ふー、ようやっとぬけたよ……まあ、しょーがないけどね」
リトルベアはリトルベアなんですが、とーっても大きなぬいぐるみ。でも、フワフワでやわらかいから、せまい所もスルッと……あー、うん……ギューギューすれば、やっとこ何とか通れます。
それで、顔をあらって(まあ、水をつかうことはないんですが)でなおしてきたリトルベア。戻ってきてさいしょにしたのは、ひさーしぶりのご飯!
……えっ? どうしてぬいぐるみのリトルベアが、ご飯をたべるのかって?
「……うんうん、やっぱりハンバーグはホロッとくちのなかでほどけて、ジュワッとしないとダメだよね」
【 なるほど、つまり噛んだ時のフワッとするのが大事なんですね…… 】
「そーそー、こればっかりはアルも判らないよねー!」
モキュモキュと小さなハンバーグをかんでから、リトルベアは口のまわりのソースを拭きます。フワフワな毛並みは、冬眠カプセルから出てきた子供たちをきずつけないため。そして、やわらかいからだは、子供たちが抱きついても大丈夫だからなんです。
リトルベアは、冬眠カプセルからみんなが起きてくるまで、ちゃんと準備して、みんなをまってます。リトルベアが、人のみんなと同じように考えるのは、アルみたいにからだがないと、ハンバーグやジュースの味がわからないから、なんです。……くいしんぼうだから、じゃないんですよ?
だから、リトルベアは……みんなが起きてくるまで、ひとりぼっち。でもきっと、そのうちみんな、起きてくるんです。みんなが起きるちょっとだけ先に、リトルベアは起きて準備するんです。
「……アル! そーいえばクリスマス、近いよね?」
【……そうですね、地球のカレンダーそのままで言うと、確かにそうです 】
「じゃー、かざりつけしないとね! みんな、起きてきたらビックリするよきっと!!」
そう言うとリトルベアはうれしそうにクルリと回り、びょんと身体をのばしてクリスマスツリーのマネをしました。
ぬいぐるみみたいな、リトルベア。でも、リトルベアはぬいぐるみじゃありません。
宇宙はとーっても遠いとこ。そんな宇宙にうかぶ星と星のあいだはとーっても寒くて、とーってもとーっても、はなれてます。
だから、人はみんな冬眠カプセルに入り、眼がさめるまで寝て星と星のあいだをわたるんです。
だから、リトルベアはいっしょにわたって、ちょっとだけ先に起きて、いろんな準備をするんです。人と同じ心をもった、ちょっぴり大きな、リトルベアがね。
ひとりぼっちなリトルベアだけど、みんなが起きてくるまで、たくさんたくさん、準備します。
じゃあ、どうして、ひとりぼっちでもへいきなのかって?
「アル! 次はツリーをかざろうよ!」
「うーん、やっぱりチキンはむしやきだねー」
「……あれ? これはブドウジュースじゃないにょ? あばばばば」
……えへんっ!! き、きっと……きっちりかっちり準備して、みんながビックリしながらよろこんでくれるのが、大好きなんですよ、たぶん!!