彼女の世界 4 ・ 彼の世界 4
<彼女の世界 4>
日が昇ってまもなく 車で家を出て、最寄り駅へ
電車に乗って 朝食代わりの駅弁片手に次は新幹線
そして再び電車に乗り換え、揺られる
朝が早かったせいもあるのか 隣に座る君からは いつしか寝息が聞こえていた
ローカル線な上、今日は平日 ましてや観光シーズンにはまだ少し早い
そのせいか この車両には私たち二人きりだった
出発したときは高層ビルばかりだった景色も 今は自然がほとんどを占めている
草木の青さが春の日差しに輝いていて その少し先には青い海も見えてきた
もうじき目的地 そしてそこが終着地
「もうすぐ…だね」
誰にともなく呟いて そして当然、誰からも返事はない
電車の走る音と君の寝息 それ以外は何も聞こえなくて
ただただ 窓の向こうに視線を投げる
美しすぎる景色はあまりにも眩しくて
心が軋む音が聞こえるような気がした
<彼の世界 4>
電車の窓の向こう 景色が流れる
居眠りをしている間に都会をだいぶ離れたようで 窓の外には自然が増えていた
「ん…」
差し込んできた日の眩しさに目が覚めた
その眩しさから視線を逸らすように 君の方を向くと
君はひどく痛々しい表情を浮かべていた
出発したときは 確かにはしゃいでいた君
他人のフリをしたくなるくらいの はしゃぎ様だったのに
今君が見せる表情は 眩しいからとか そういう理由ではない
それだけは分かる
だけど 分からない
何故 そんな表情をしているのか
その顔は あの雨の日の君に 重なった
「…ねぇ…?」
怖々と呼びかけると 君はゆっくり首をこっちに巡らせ
そして にこっと笑った
「あ、やっと起きたな? ねぼすけさん?」
悪戯っぽく微笑み 楽しげな口調でそう言った
その光景は 君が僕に電話をしてきたあの日に とても酷似していた
正体の分からない 嫌な予感がして 思わず身を竦める
「? どしたの?」
君は僕の様子に気付き 顔を覗き込んでくる
「…いや 何でもないよ」
そう答えると 小さく首を傾げて
ま、いいや と呟くと
「ね、ほら 見てよっ!」
君は窓の外を示す
僕は示されるまま目をやると そこは
一面の青が広がっていた
「…海…?」
思わず間抜けな声を上げると 君は頷いた
「そう もうじき到着だよ?」
誰かさんが寝てる間にね 再び悪戯っぽい笑顔でそう言って 君は窓の外へ向いた
「…ったく… 好きなように言ってろ…」
小さく悪態づいて ふと君の表情を窺うと
ひどく凪いだ感情のない瞳で 外を見ていた
いや 何かを見ているのかどうかも分からない
そのくらい 虚ろな表情
何故 そんな顔をするのだろうか
そう尋ねることも出来ないくらい 君の表情は冷たい
…君は 僕には触れられない 何か 冷たい思いを抱えている
そう気付いたのに 結局 その時が来るまで 僕は 何もしてあげられなかったんだ