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彼女の世界 1 ・ 彼の世界 1
<彼女の世界 1>
雨が降り続いている
こんな夜に傘も差さず歩いている私は 不審者に見えるかもしれない
でも別に構わなかった 誰にどう思われようと もうどうでもいい
しばらく歩いてすっかりずぶ濡れになった頃
ようやく私は目当てのものを見つけた
公衆電話
ケータイの普及ですっかり減ってしまったけど
冷えた震える指で ゆっくりとダイヤルを押す
もう記憶より 指先で覚えている君の番号
雨音より近く 呼び出し音が鳴っている
そして 君の声が聞こえた
<彼の世界 1>
携帯電話が 公衆電話からの着信を告げる
「もしもし?」
怪訝そうに電話に出ると しばしの無言の後 小さな声がした
「…ねぇ、もうヤダ 死にたい…」
震えるか細い声が 一瞬 誰のものか分からなかった
「っ…今ドコっ?!」
君の声だと分かり 慌てて尋ねると
弱々しい声で居場所を呟き プツンと電話は切れた
僕は何も持たず 急いで家を飛び出した