エルフ、小説を書く その2
その音は、俺達の頭の中に直接響いてきた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
かすかな、でもクリアなその音は、決して不快ではなかった。
それでも、俺の胸の中に不安が広がっていく。
「フン。どうやら、向こうは予定を繰り上げたようだナ」
みんながいっせいにカレヴァを見た。
「ラノベ的には、定番の展開ですけどね」ライトノベルがいった。
「カレヴァ、これが止まったら――」
俺の言葉に、カレヴァがうなずく。
「リンクが切れル」
大型モニターの赤い点の増加が徐々に鈍っていく。
唐突に鐘が鳴り止んだ。
全員が思わず左胸を押さえた。
心臓のあたりから、なにかがすーっと抜け落ちていくような感じがした。
なにか大切な物が消えてしまった感覚。
取り返しのつかないことが起こって、頭から血の気が引いていく。
リンクが切れるというのは、こういうことなのか。
ほたるだけが、そんなみんなの行動を不思議そうに見ていた。
イマジネイターのほたるにはその現象は起こっていないんだろう。
画面上の赤い点は増える気配がない。
このままだと、俺とメサが仮想空間で経験したような世界が訪れる。
管制室は凍り付いたように静かだ。
オペレーターたちが不安そうにリーリンを見る。
リーリンは大型モニターを睨んだままだ。
「まだです!」
突然、ライトノベルが叫んだ。
「ここで終わったら――ここで終わったら、終わりです!」
そして、目の前のキーボードの上に、両手をかざす。
「ううううううう」
ライトノベルはたどたどしくキーボードを叩き始めた。
「私の――名前は――メサ・ライコネン。
十七歳の――フィンランド人だ」
カタ、カタ、カタ。
どうやらブラインドタッチは苦手なようだ。
ゆっくりと声にだしながら、ライトノベルは文章を打ち続ける。
「緑の――瞳に――緑の――髪。
そして――尖った――耳。
そう。
私は――エルフの――姿で――生まれて――きた。
これから――私の――物語を――始め――ます」
静まり返った部屋に、ライトノベルの声だけが響く。
私の名前。
私の物語。
そうか。
俺は高速でキーボードを叩きながら叫んだ。
「リーリンさん!」
走り寄ってきたリーリンが、俺の席のモニターを覗き込む。
「これをトップページに表示させてください」
――私の名前は『 』
【好きな名前を入力してください。
そして、あなたの物語を綴ってください】




