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さよなら、ライトノベル  作者: Han Lu
第二章
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それぞれの場所 その5 -日本-

 カランカラン!

 店のドアを開けると、鈴が鳴った。

 リーリンに続いて平沢が店内に入ると、「いらっしゃーい」というふたり分の声が平沢たちを出迎えた。

 開店時間前なので、客は誰もいない。

 カウンターから出てきた小柄な西洋人の女性がリーリンに抱き着く。

「リーリン、久しぶり!」

「お久しぶりです、アイノさん」リーリンも相手の女性をハグしている。

 リーリンが平沢を振り返って、アイノと呼んだ女性に告げた。

「彼が、ヒラサワ教授です」

「初めまして、ヒラサワ教授。アイノ・ライコネンです」

 アイノが差し出した手を平沢が握った。

「コウイチ・ヒラサワです。メサちゃんのお話はリーリンから聞いています」

「私がメサの母親です。今は、こちらのお店の手伝いをしています。どうぞ、おかけになってください」

 平沢とリーリンがカウンター席に着き、リーリンはカウンターの向こうに立っている人物に日本語で声をかけた。

「コンバンハ、ヨシカ。ステキなピアスネ」

「こんばんは、リーリン。ありがとう。あなたの髪も相変わらず素敵よ」ヨシカがリーリンと平沢の前にコースターを置いた。「初めまして、平沢先生。北村良佳です」

「初めまして、北村さん。平沢です」

 アイノが平沢とリーリンから注文を聞き、飲み物をふたりの前に置いた。

「ヨシカでも構いませんよ。それと――」ヨシカは三人を見渡した。「みなさん英語の方がよければ、そうしてくださいね」

「そういえば、ヨシカはイギリスに留学してたのよね」リーリンが英語でいった。

「大昔ね」ヨシカは英語で答えた。「私の英語なんてもうとっくに錆びついちゃってるけど、ヒアリングだけならなんとか大丈夫だから気にしないで」

「あら。でもお店が終わったら、いつも私と練習してるのよ」アイノがいった。

「まあね」ヨシカがいった。「こう見えて実は、アイノはスパルタなのよ」

「わかったわ。それじゃあ、英語でいきましょう」

 リーリンの言葉に三人がうなずく。

「では」リーリンが続ける。「ヒラサワ先生もいることだし、もう一度これまで起こったことのおさらいをしましょう」


「つまり、右京君とメサちゃんは、そのカレヴァという人に連れ去られてしまったということなんですか」平沢が麦茶の入ったグラスを置いた。

「正確にいうと、連れ去られたのではなくて、なんていえばいいのか……」

 アイノの答えをリーリンが引き継いでいった。

「閉じ込められた。別の空間に」

「そうね」アイノがうなずく。

「右京君だけじゃなく、ほかの作家たちも?」平沢が尋ねる。

「おそらく」リーリンがうなずく。

「実は、僕の古くからの友人も行方不明になっているんです」

 アイノが平沢に尋ねる。「その人もライトノベルを?」

「彼がライトノベルを書いていたのはもうかなり前のことです。今は一般文芸を書いているんです。それなのにどうして……」

「たぶん、その人が将来イセカイストーリーを書く可能性が出てきたからだと思います」リーリンがいった。

「イセカイブームが起こることで、これまで一般文芸小説を書いていた人たちも、イセカイストーリーを書くようになる、ということね」

 ヨシカの言葉に、リーリンがうなずく。

「そうです」

「それにしても、ヨシカさんはよくこの状況を受け入れましたね。正直いって、リックやカラスたちのことがなかったら、僕はリーリンの言葉を信用したかどうか自信がありません」平沢が首を振る。

「私のところにも来たのよ、カラスたちが。リーリンとアイノが助けてくれたから、無事だったけど」ヨシカが空いたグラスにお茶を注ぎながらいった。

「でも、どうしてヨシカさんが」平沢が尋ねる。

「だって、ほら」ヨシカはカウンターの上をとんとん、と軽く指で叩いた。「今ここでこうして私たちが集まってるじゃない。私たちは何について話し合っているのかしら?」

「確かに。それで、それからは襲ってはこないんですか」

「今のところは。たぶん優先順位が変わったんでしょう。リーリンちゃんから聞いていると思うけど、未来は常に揺らいでいますから」とアイノ。

「アイノさんも、リーリンのような能力を持っているんですか」

「いいえ」アイノが笑って首を振った。「私はヨシカやヒラサワ先生と同じ、普通の人間ですよ。ただ少しだけ、メサやカレヴァのような向こうの世界――リーリンちゃんたちのいう『トゥオネラ』の存在を感じ取れるんです」

「こちらの世界には、生まれながらにしてそういう能力を持っている人がたまにいるのです、ヒラサワ先生」とリーリン。

「でも彼らには――今回夏コミに招待されている『R⇔W』インターナショナルの作家たちには、そういう能力があるわけではないんだよね」平沢がいった。

 リーリンが平沢にうなずく。「もちろん、彼らに私のような能力はありません。彼らには別のやり方で『トゥオネラ』と戦ってもらいます」

「じゃあ、作戦についておさらいしましょうか」アイノが壁にかかった時計を見上げた。「もうそろそろ来る頃だし」

「来る?」

 平沢にアイノが答える。

「ええ。実はもうひとり、メンバーがいるの――」

 そのとき、カランカラン! という音とともにドアが開いた。

 ヨシカがいった。

「お帰り。ほたる」

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