緑の髪のエルフを拾う その4
俺は思わずこたつの天板に、ごつんと頭を打ち付けた。
「なに、その設定。かんべんしてよ」
こたつにあごを乗せたまま、俺はメサを見上げた。
「え」
メサはうろたえている。
「どうせ親父に入れ知恵されたんだろ」
どうやら最近、親父はライトノベルを読んでいるみたいだ。あれほど毛嫌いしていたのに、どういう心境の変化なのかは知らない。さだめし、あげ足を取るためのネタ探しでもしているんだろう。
メサが首をかしげる。「入れ知恵、とはなんですか」
細かく説明するのも面倒だったので、俺はお茶を濁した。
「親父からそういえって、いわれたんだろ」
「はい。これはお父さんの指示です」
俺はため息をついた。案の定、親父はいかにもラノベ的な馬鹿げた理由を俺にぶつけることで、嫌味をいおうとしているらしい。
「お父さんの指示ではありますけど、それは私の意志でもあります。そのために私はここにいるのです」メサは続けた。
「心配しなくても、当面書かないよ」
「ほんとですか?」
「ああ。次回作はまだプロットも固まってないからな」
「じゃあ、このまま隠居してください」
「いや、俺まだ二十一だし……。たぶんそれ、使い方間違ってる」
「そ、そうなんですか」
「それをいうなら、引退だろ」
「そ、そうでした。じゃあ、このまま引退してください」
「そういうわけにはいかないよ。せっかく商業デビューできたんだ。少し時間はかかるかもしれないけど、いずれラノベで大ベストセラーを書いてやる」
「はあーっ」メサは大きなため息をついた。「だーかーらー。そうなっちゃったらすごく困るんですって」
ばん、とこたつの天板に両手をついて、メサは立ち上がった。
「仕方がありません」
メサはいきなり服を脱ぎだした。
「ちょっ――な、なにやってるの?」
「色仕掛けっていうんですよね、こういうの」
俺のダウンジャケットを脱ぎ、シャツのボタンをはずし始める。
「いやいや、いわないよ」
「……嬉しくないんですか?」
怪訝な顔でこちらを見る。
「嬉しくないよ!」
「おっかしいなぁ」
いや、ちっともおかしくないから。
「じゃあ、悲しいですか?」
またそれか。
「苦しいですか? それとも悔しいですか?」
「苦しくも、悔しくもないから。それより、服を着ろ、服を」
「じゃあ、書くのやめてくれますか?」
「なんでそうなるんだよ。お前、いってることが、むちゃくちゃになってきてるぞ」
そうこうしているうちに、シャツはすべてボタンがはずされて、彼女の足元にぱさりと落ちた。メサは下着を着けておらず、ふくらみかけた胸があらわになっている。俺は思わず目を逸らす。そんな俺の反応にまるで気が付いていないみたいに、メサはこたつの上に四つんばいになると、俺の顔にぐいっと自分の顔を近づけた。
「書くの、やめてくれますか?」
「わかった、とりあえず話だけはちゃんと聞くから」
「ほ、本当ですか?」
メサはぺたんとこたつの上に座り込んだ。
「ああ。だから、とにかく服を――」
そのとき、突然リビングのドアがガチャリと開いた。