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さよなら、ライトノベル  作者: Han Lu
第一章
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エルフ、たたかう その3

 俺も床に腰を下ろした。

「これは誰にもいわないつもりだった。誰にいってもどうにもならないことだし、どうしたいのかも俺にはわからなかった。でも、本当はほたるには、ほたるにだけは、いうべきだったのかもしれない」

 ほたるはもう涙は流していなかったけど、床をじっと見つめたままだ。

「数年前、俺は小説を書き始めた。

 主人公は、俺たちの母親を殺した、あの、犯人だ」

 ほたるの肩が、びくっと動いた。

「俺たちは犯人のことをほとんど知らない。

 俺の親父やヨシカさんたちが、俺たちがそういう情報に触れないよう、俺たちを遠ざけて、完全にシャットアウトしたからだ。当時は納得いかなかったけど、今では親父たちの判断に感謝している。もし、犯人の詳細な情報を知ってしまったら、俺は何をしでかしていたか、わからなかったと思うからだ」

 俺はいったん言葉を切って、呼吸を整えた。ほたるの前で事件の話をするのは久しぶりだったから、覚悟が必要だった。

「あの頃すでに危険運転致死傷罪があったし、悪質だったから刑事罰には持っていけたけど、それでも奴は少年法に守られて、もうすぐ世の中に出てくる。

 人をふたりも殺した人間が、いくら未成年とはいえ、人をふたりも殺した人間が、数年で刑期を終えて出てくるんだ。

 俺にはどうしても納得できなかった。

 それで、ある日ふと思いついたんだ。

 現実の世界で報復できないのなら、せめて小説の中だけでも、それをやってやろうって。

 その頃すでに、俺はもういくつも小説を書いていたから、自分でもそれなりに文章力はあると思っていた。

 ただし、これは自分が楽しむだけの、決して他人には読ませない、自分のためだけの小説にすることをルールとして課した。

 そして、俺は書き始めた。

 主人公は、何の目的もなく日々を生きている、自堕落で愚かな若者だ。

 あるとき、主人公がしでかした不始末によって、そいつは組織と呼ばれる反社会的勢力から報復を受けることになる。主人公だけではなく、その家族をも巻き込んで。

 主人公には妹がいる。

 クズのような主人公だが、妹のことだけは可愛がっていた。

 ある日、主人公は妹とともに組織に拉致される。

 そこで主人公は、妹が目の前で拷問されるところを無理やり見させらることになる」

 俺は、そこまで一気に話して、息をついた。

 いつしか、俺はほたるから視線を逸らし、じっと床を見つめていた。

 ほたるの視線を感じたが、俺はうつむいたまま、ほたると顔を合わせることができなかった。

 再び、俺は話し始めた。

「妹はまず衣服をはぎ取られ、椅子に縛り付けられる。

 そして、鋭利な刃物で、少しずつ、皮をはぎとられていく。

 一気に全身の皮をはぐと、ショックで気絶するし、感染症などで一日で死亡する場合もある。

 だから、少しずつ、徐々に、皮をはいでいく。

 もちろんそれでも、相当な苦痛を伴う。

 俺はいろいろと調べてみた。

 皮をはぐという拷問はあらゆる地域で古くから行われていて、長時間苦痛を長引かせる処刑方法として、数多くの事例が残っていた。

 俺は資料を読み漁って、主人公の妹に対して、とにかく長く苦痛を与えるやり方で拷問を加えた。

 死なないように、皮をはぎ、はいだ部分に熱湯を浴びせかけた。

 その一部始終を、主人公は見させられる。

 おかげで俺は、古今東西の皮はぎの刑について詳しくなったよ」

 こうやって話していると、頭の中が冷たく冴えわたっていくような錯覚に陥った。俺は話を続けた。

「拷問が三日目に入ったくらいで、俺は書くのをやめた。

 別に、自分のしていることが恐ろしくなったり、間違っていると思ったりしたからじゃない。

 いつしか俺は、この小説に本気で没頭し始めていることに気が付き始めた。

 誰にも見せるつもりはなかったはずなのに、小説としての完成度を上げようとしている自分に気が付いた。

 説得力のある描写にするにはどうすればいいか。例えば、拷問に使う刃物はどういう形状で、どれくらいの大きさで、どんな素材なのか。持ち手は。色は。

 読む人が苦痛をリアルに感じるような、真に迫った表現をするにはどうしたらいいのか。

 生きたまま皮をはがれる苦痛というのは、どのような感覚なのか。

 俺はひたすらに、小説の完成度を高めようと努力した。

 何度も書き直し、推敲した。

 読点の位置を決めるのに、一日じゅう悩んだこともあった。

 それは、俺がこれまで他人に見せることを前提として書いていた小説の書き方と、何ら変わることのないやり方だった。

 このままだと、たぶん俺はこの小説をどこかに公表したくなる。

 いや、きっと公表する。

 それに気が付いたとき、俺は書くのをやめたんだ」

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