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さよなら、ライトノベル  作者: Han Lu
第一章
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エルフ、チャーハンを食べる その5

 気を付けて、といわれても、いったい何にどう気を付ければいいんだ、と思っていたらスマートフォンに着信が来た。

 ほたるだった。

「すみません」俺はアイノさんにいって、電話に出た。

「どう? 話は進んだ?」ほたるがいった。 

「進みすぎて、ついていけない」

「それはよかった」

 よくないよ。

「晩ごはん、もうすぐできるから、そっち持って行こうか? 今日バイトないんでしょ」

「ああ、そうだな。助かる」

「アイノさんも?」

 アイノさんは俺たちの通話の内容を察したみたいで、玄関を指さしている。自分はもう帰る、と伝えたいのだろう。

「いや、もう帰るみたい。あ、あと、メサはお腹が減ったから、俺が食べさせた」

「何作ったの?」

「玉ねぎチャーハンとスープだけど」

 ほたるが、うっ、と言葉に詰まった。

「作ってやるから。来いよ」

 これがラノベだと、「べ、別に京ちゃんの玉ねぎチャーハンが食べたいわけじゃないんだからねっ」というセリフが来るわけだが。

「ヨシカさんも京ちゃんも、なんで私より料理が上手なのよ」ぐちぐちとほたるが愚痴り始めた。

 ほたるの料理だって、十分おいしんだけどな。

「んー。まあ、あれだな。持って生まれたセン――」

 ぶちっ、と通話が切れた。

 まったく。

 アイノさんがくすくす笑っている。

「じゃあ、私は帰ります」

 俺が立ち上がると、メサもぴょこん、とこたつから出て、ついてきた。

 スニーカーを履きながら、アイノさんがいった。「今日のメサの熱のこと。心配しなくても大丈夫ですから」

「病気とかじゃないんですね」

「ええ。でもまた、こういうことがあるかもしれません。だから、いっておきます」アイノさんは、俺とメサを振り返った。「メサには、悲しいとか、悔しいといった負の感情がちゃんと理解できていないんです」

 俺はメサを見た。

「えへへ。実は、そうなんです」照れ臭そうに、メサはうつむいた。「その存在は知っているのです。小説にいっぱい出てきますから。でも、私にはそれがどういうものなのか、よくわからなかったのです」

 アイノさんも……いや、アイノさんは『こちら』の人間と同じだといっていた。

「私、お墓で、初めてわかったのです。悲しいって、どいう感じなのか。そしたら、急に体が熱くなって……」

「たぶんこれからも、メサがそういう負の感情を自覚したら、同じような症状が出るかもしれません。でもすぐに治まるはずです」

「大丈夫ですよ、ウキョウさん!」メサが俺の手を握った。「寝たらすぐに治りましたから!」

「あ、ああ」

「それじゃあ、また明日連絡入れます」アイノさんがいった。

 俺はうなずいた。「お気をつけて」

 手を振って、ドアに向かいかけたアイノさんが、ぴたりと立ち止った。

「それと、右京さん」

 アイノさんは振り返ると、ずいっと俺に顔を近づけて、俺の手を握りしめた。

「は、はい」

「ヨシカさんのお店、何時からでしたっけ」


 俺とメサはこたつに入って、ほけーっとほたるが来るのを待っていた。

「なあ、メサ」俺はいった。「もしかして、『向こう』の世界ってさ。ここよりも高次の、いわゆる四次元の世界ってやつなのか」

 メサはうなずいた。

「ウキョウさんたちは――『こちら』の方たちは、自分たちの世界を三次元と呼んでいるんですよね」

 メサは右手を横に伸ばした。「x軸」

 左手を上に伸ばした。「y軸」

 左手を横に下した。「z軸」

 俺はうなずいた。「それが三次元の世界だ。そして、四次元はそれに時間の概念がプラスされたものだという説がある」

「その考え方は間違っていません」メサはいった。「『向こう』の世界で時間というファクターは、可塑性のある物質のような形で認識されているのです。ウキョウさんたち『こちら』の世界の方々に実感することはできないのですが……」

「じゃあ、どんな感じなんだ。『向こう』の世界のメサが、『こちら』の世界にいるのって」

「そうですねぇ。たぶんですけど、ウキョウさんが、二次元の、アニメの世界に入っちゃうような感じですかね」

 俺は自分がアニメの世界に入り込んだところを想像しようとした。二次元ってことは、奥行きがないから……ええと……。

「まったくわからん」

「そ、そうですか」メサはゆらゆらと体を揺らし始めた「あ。でもでも。日本ってアニメが盛んですよね」

「まあな」

「それって確か、重要な意味があったよーな、なかったよーな。あったよーな。ふわわわわ」

 メサは大きなあくびをすると、こてん、と横になって、すこーっと寝息を立て始めた。

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