この女神はどこかおかしい3
俺とユーナなら勝てるって何を言ってるんだよ、ニーニャさん!?
「ほう……見た感じ、汝より明らかに弱いこの二人が妾に勝てるとな? あっははは! 面白い冗談を言うものじゃ」
「冗談で済めばよかったと後悔しますよ。この二人は海神シィーさんのお子さんなんですから」
ディーテの顔が険しくなる。
「何じゃと……シィーとはポセイドンの孫のことか?」
なん……だと!?
俺とユーナの曾爺ちゃんってポセイドンなの!?
すっげぇぇぇ!
というか、ニーニャさんも意外と相手を煽るんだな。
ディーテが本気を出したら俺ら確実に死ぬような気がするんですけど。
「え……え……え――!? リュージ、どういうことなのよ?」
ユーナは自分の母親のことはよく知らないみたいだし教えてやっても良いんだが、
母親が女神だと知ると絶対、調子に乗るのはわかっているし……やっぱ教えられないな。
「知らんな」
「えっ……リュージも知らないの? そっか……そうよね! 馬鹿だもんね! でも、私の祖先がポセイドン様かぁ……やっぱり、私は選ばれし女神なのねっ!」
頭の良さで理解されちまったか……これでさらに調子に乗りやがるな。
馬鹿って言ったし無事に帰れたら、すぅんごぉぅいお仕置きをして大泣きさせてやろう。
「ふふ、そうか。あの泣き虫ポセイドンの? あっははは! これは傑作じゃ!
いや、運命じゃの……まさか、妾を罠にかけ何千年も眠らせたシィーの子がここにいるとはの……汝二人とも、簡単には壊さんぞ! 母親を憎んでその生を全うせい!」
ひぃぃぃ、何だよ!?
おふくろがディーテを罠にはめた?
何してくれてんだよ……おふくろ!
滅茶苦茶、お怒りになってますやん!
それにポセイドンが泣き虫ってどういうことだよ!?
もう、わけがわかんねぇよ!
「ゼウスの兄でありながら、弟に良いように使われておったポセイドンなど話にならぬな。じゃが、その女子のオーラは確かに海を感じるのぉ……ふはは、面白い。天雷の神の力をみせてやろうぞ」
ディーテが両手を合掌させ、力を込め始める。
バリバリバリ
バチッ
これは雷か?
ディーテの両手が火花を散らし、紫色に光り輝いている。
「女子よ、確かユーナとか言ったかの? まずは小手調べじゃ。防いでみるがよい。シィーの娘なら簡単に防げるじゃろ?」
「えっ……え?」
ユーナが虚を突かれたような顔でディーテの方を振り向く。
「ライトニングブレイク!」
ピカッ
激しい稲妻がユーナに放たれる。
ドォン!
少し遅れて雷鳴も轟く。
何が小手調べだよ!
めちゃくちゃ強力な魔法じゃねぇか!
「ユーナさん、無事ですか!」
「……ふぅ、何なのよ! もう!」
俺たちの前に土の壁が現れている。
「あっははは……やりよるわ! 水系防御魔法かと思ったが、まさかグランドウォールとはな。属性反応で感電することを防いだか?」
「ちょ……ちょっと! いきなり何するのよ! ゼウス様の子孫なんでしょ!」
ユーナ……人の話を聞いておけよ。
明らかに狙われていただろうが。
自分が本物の女神ってことがわかって浮かれていたか?
「しかし、海の女神の子ともあろう者が土の魔法とな? これは傑作じゃ……あっははは!」
「これでどうですか? 彼らは半神です! 貴女たち、神族に唯一対抗できる存在なんですよ!」
ニーニャさん、あまり持ち上げないで下さいよぉ。
よけいにディーテからヘイトを買うことになるんですから。
「そういえば、そうじゃったの。じゃが、なぜに半神……」
ディーテが何やら考え込んでいる。
今のうちに愛輝を連れて行きたいのだが……動いて大丈夫だろうか?
ゆっくりとディーテの様子を伺いながら、ニーニャさんに近付く。
「ニーニャさん、愛輝を助けるために手を貸してくれませんか?」
「愛輝さんですか? 彼はもう……」
「いや……手遅れでもできるだけのことはしてやりたいんです」
「そうですか……ですが、私は手を出すことができません。ですので、私が愛輝さんを連れて行きます」
「えっ……いや、あいつ重いですよ?」
「神族に人族は手を出せないのです。手を出すと神託により、私には枷が付けられてしまうので……眷属の相手ならできるのですが」
要するに神様に乱暴すると罰が当たるってことか?
まさか、神族にそんな特権があったなんて……だから、ニーニャさんは俺たちに託すようなことを言っていたのか。
仕方ない……愛輝を助けるためだ。
「わかりました。俺とユーナであいつの目を逸らします。その隙に愛輝を連れて行って下さい」
「はい……リュージさん、お気をつけて」
さて……やると言っても俺にはどうすることもできないし。
戦闘はユーナに任せるとして、俺はやっぱ指示を出すくらいか。
普通の奴って、いつになったら活躍できるんだろ?
「ふむ……そうか……わかったぞ。汝たちが謀反の徒の末裔であったか」
「謀反……何のことだ?」
「おや……何も聞かされておらぬのか? こいつは滑稽じゃ。何も知らぬなら教えてやろう。お前たちの母親が何をしたのかをな」
「えっ……お母さんのこと知ってるの!?」
「ふふ、兄妹揃って何も知らされておらぬとは哀れよのぉ……いいか! 汝たちの母親はこの世界の理を滅ぼそうとした大罪人じゃ! この世界の秩序を壊し、さらには人界と魔界・神界を別の世界に分け隔てようとしたのじゃぞ!」
なるほど……ルーシィさんの言ってた解決法をすでにおふくろが試していたのか?
しかし、失敗した……それで身を隠すことにでもなったのか?
「それはいつまで経っても終わらない戦争を終わらせるためにしたんじゃ!?」
「我々、神々の遊びを邪魔建てしたんじゃぞ! どこまで逃げようが必ず追いかけて滅してやるわ!」
くっ……こいつら!
結局は自分たちのことしか考えてないのか!
まともな神族はなんで助けてくれないんだよ?
異常者の集まりの神々を野放しにするなんて、それこそおかしいだろ?
もしかして、神族って……こいつみたいなのが大半を締めているんじゃないのか?
ニーニャさんが言ってたまともな神族が多いっていうのも今現時点での話じゃ無いとしたら……あり得ない話じゃないかもな。
「わかった……」
「小僧……汝たちの罪の重さが理解できたようじゃな」
「いや、お前ら一部の神のせいで狂ってる世界のことがわかったってことだよ」
「あっははは、言いよるわ! じゃが、大罪人の子である汝たちには神罰を下さねばならないのもわかっておろうな?」
「えっ!? 神罰って……何でよ! 私は何も悪くないじゃない!」
「ユーナ、あいつは使徒である前にこの何万年も続く争いの元凶の一人だ。神であろうと倒すのが人々のためじゃないのか?」
「むむむ! 人々のため……そ、そうね! 狼藉者の勇者の配下だもんね! ゼウス様の子孫だからって……やってやるわ!」
くくく、本当にこいつはチョロい。
こいつみたいにチョロい奴らだったら、俺も苦労せずに済むんだがな。
「そうじゃ、面白い神罰を下してやろう! 汝たちは地獄の叫びを聞いて死んでゆけ!」
ディーテが愛輝の近くに歩み寄る。
これじゃ、助けようにも手出しができない。
ニーニャさんもまだ愛輝に近付けないままだし。
なんとか、愛輝から距離を取らせないと。
「い……いけない! ユーナさん、光属性の防御魔法を!」
「へ?」
「早く!」
「もう……次から次へと……セイントバリア!」
ディーテが愛輝の頭に手を添える。
何やら白いものが愛輝の頭から出てきている。
「ほぉれ……死霊の叫びじゃぞ! 最高の歌声に震えるが良い!」
ディーテが愛輝の頭から出ている白いものを無理矢理に引っ張り出そうとする。
次の瞬間……。
「ぎゃぁぁぁ!」
愛輝が恐ろしい断末魔をあげる。
ボンッ!
ボ、ボ、ボ、ボ、ボンッ!
隣の病室だけでなく、病院内で破裂音が響き渡る。
まさか!?
「魂魄剥がしという術です。瀕死の人の魂を無理矢理、剥がされるとその人だけでなく、周囲の人たちまで巻き込んで冥界へ送り込んでしまう神族の禁断の術……あんなものまで使えるなんて、さすがゼウスの子孫だけありますね……」
瀕死の人と周囲の人を巻き込んで冥界に!?
「えっ……それって……それじゃ、愛輝は?」
「もう……手遅れです……すみません、何もできませんでした……」
「ふはは、生きておるか? さすがじゃのぉ……じゃが、ホークを連れ去った此奴は妾のものにしてやったぞ」
ディーテの隣に半透明の愛輝が立っている。
ひぇぇぇ……愛輝の幽霊!?