この解呪はどこかおかしい15
それにしても、このフロアは一見すると綺麗なようで意外としっかり掃除できていないよな。
愛輝の神テクな操作でドローンは地上すれすれに飛んでいるわけだが、部屋の角や家具の下などはまったく掃除ができていない。
まさか、さっき蟲の餌にされたメイドの仕事だったとか?
掃除がしっかりできていないくらいで殺されるとかたまったもんじゃないぞ。
「さて、パティ。明日の出発の準備をしてきなさい」
「は――い」
バッグベアとパティが別れた。
「二手に分かれたでござるな。どっちを追うでござる?」
そうだな……どっちを追うべきか、やはり能力がよくわからんパティのほうか。
運が良ければ何か情報を得ることができそうだし。
「愛輝、パティのほうを追ってみよう」
「ふむ、リュージ殿もよくわかっているでござるな。至高のメイド服を汚したあのビッチのあられもない姿を激写してズムッターで拡散してやるでござる!」
ビッチじゃねぇだろ……狂気な幼女だ。
あられもない姿か……うん、幼女だから興奮しないな。
パティの後をドローンで追ってみる。
プゥ――ン
自動扉の先に見えたのは子ども部屋か?
ぬいぐるみが部屋いっぱいに置かれている。
「ふぅ……明日の準備ちないと――」
パティが大きな熊のぬいぐるみを抱きかかえ、ベッドに横たわる。
「明日、楽ちみだね。どれくらい魔族っていうのを殺せるんだろ――?」
熊のぬいぐるみに話しかけている。
見ている分には十分に可愛いけど……話している内容が怖いんですが。
「ん――……熊ちゃん質問したらちゃんと答えなさいって言ったでちょ! おちおきしちゃいますよ――!」
ブチッ
パティが笑いながら、熊のぬいぐるみの手をもぎ取る。
「あはっ!」
ブチッ
ブチッ
バリバリ
熊のぬいぐるみの手足をもぎ取った後は頭をもぎ取り、首から中に手を入れて綿をばらまいていく。
「あははは!」
この幼女……狂気すぎる!
笑いながらぬいぐるみをバラバラにするとか気が狂っているとしか言えんだろ。
「あ……もうボロボロになっちゃった。やっぱり生き物じゃ無いと楽ちくないなぁ」
いや、十分楽しんでましたよね!?
笑いながら手足引き裂いていたし!
生き物でもそんなことしているのか!?
しかし、この部屋を見ただけでは何もヒントを得られそうに無いな。
見た感じはぬいぐるみが大好きな女の子の部屋って感じにしか見えないし。
研究所で見た感じだとパティの能力は戦闘型のような感じもしたし、普段の生活ではそうやすやすと使わないか……対抗策を考えるために見ておきたかったが。
「特に得られそうな情報は無いでござるな……」
「愛輝、次の階を目指そう」
「結局、録画できたのはあの幼女がぬいぐるみが好きすぎてバラバラにしたということだけでござるな……残念でござる」
ぬいぐるみが好きだとバラバラにするのか?
んなわけあるかっ!
プーン
通気口を通り、上の階層を目指す。
「ナデシコ、次は誰の住居なんだ?」
「次がホークの部屋」
……ってことは、次が77階か。
さて、ホークには悪いが情報取集させてもらうとしよう。
通気口から出た先はキッチンか。
「むほぅ! な、何ですと!?」
愛輝が興奮している。
キッチンで数人のメイドが料理を作っているようだ。
あれ……このメイドたちって?
「な……何でダリア嬢がいるでござるか!?」
なるほど、ダリアのホムンクルスか。
しかも、よく見たら欽治のホムンクルスもメイド服を着ているじゃないか。
やば……似合いすぎて鼻血出そう。
「あたしも欲しい……家族……増やしたい」
俺も欲しいぞ……ホークに頼んで一人、わけてもらうか?
「リュージ殿、見たこともない女性も何人かいるでござる」
「あれは初期型のホムンクルス……この世界の近世の歴史的偉人……ホークがホムンクルスとして復活させたの……全部……女体化してるけど」
なんか、どっかで聞いたことのある内容だな?
歴史の偉人たちの女体化?
あれですか……英霊……ゲフンゲフン!
それにしても美少女だらけじゃないか!
ここは桃源郷ですか?
ホークめ……羨ましすぎる!
ドローンが地上すれすれに飛行し、掃除をしているメイドの下をくぐり抜ける。
ま、まさか!?
愛輝、やるのか!?
やるつもりなんだな!
愛輝もこっちを見て頷く。
「吾輩の飛行テクの出番でござるな……」
プーン
「き……キタ――!」
「ふふふ……リュージ殿。お主も悪よのぉ」
ああ……神様。
カメラから映し出される白色の布生地はなんでこんなに素晴らしいんですか?
「何してるの……2人とも……ホークを探さなきゃ」
はっ……桃源郷の映像に完全に見入ってた。
「はふぅ、眼福でござる」
愛輝はまだ桃源郷にいるみたいだ。
「愛輝! しっかりしろ!」
「むほっ! ここは……」
「先にホークを探すぞ」
「そ……そうだったでござるな」
それにしても愛輝のあの操縦テクニックは数回の操作で身に着く技術じゃないぞ。
やはり……こいつは普段から盗撮を?
今回はお手柄だったし不問としよう。
「ホークはどこにいるんだ?」
「たぶん……あっち」
ドローンが入った場所は仕事部屋のようだ。
いかにもインテリ女子って感じだな。
地下に行けば研究室があるっていうのに、自分の居住スペースにも仕事ができる場所を設けているとは。
しかし……ホーク以外は誰もいないな。
話していた相手はすでに去った後なのか?
いや……違う。
「私のお人形さんをすべて戦闘特化!? スライムのことも私に丸投げにしたのに……。えっ……卑怯ですわ、私の魂を人質に取るなんて!」
どう見ても独り言を言っているようにしか見えない。
だが、独り言にしては何やらホークが言い負かされている感じだし……。
「ナデシコ殿、あれはまさか?」
「うん……たぶん……テレパシー」
「テレパシーって念話のことか?」
「相手は……能力者? ダメ……情報不足で……わからない」
「魔法でテレパシーってないのか?」
「リュージ殿、何のために魔力を使ったスマホが存在しているでござるか考えるでござる」
そうか、テレパシーが日常的に使われてたらスマホなんて必要無いか。
だが、このスマホはホスピリパくらいでしか見たこと無いし。
テレパシーみたいな魔法も存在するんじゃないのか……ユーナなら知ってそうだな。
ふと、培養槽を見るとユーナと雪の顔色は良くなっている。
あと少しって感じか。
「や……やめて! ぐっ……あああ!」
ホークが頭を押さえ苦しがっている。
病気では無さそうだし、やめてって言ってるし。
相手はどんな奴なんだ?
「わ……わかりましたわ! 戦闘用ホムンクルスを増産いたしますわ! だから……許し……て……」
頭痛が収まったのか、表情も和らいでいる。
しかし、今なんつった……戦闘用クローンの増産?
まさか、黒子たちのことか?
それともナデシコを……?
「え……ええ。では、また後で……」
念話が終わったのか、デスクに腰かけ頭を抱え何やら考え込んでいる。
迷っているみたいだな……戦闘用クローンの増産のことでだろう。
まさか、またキメラタイプを作るつもりなんて言わないでくれよ。
「……仕方ありませんですわね」
部屋を出てエレベーターに乗り込むホーク。
行き先はずっと下に向かっているようだ。
まさか、研究所に来るのか?
「愛輝、ドローンを今すぐ戻せ」
「結局、話し相手の存在がよくわからなかったでござるな」
「いいか、絶対に覗き見してたことをホークに言うなよ」
「はっはっは、当たり前でござるよ」
「うん……わかった」
ホークが向かっている先が研究所なのは、行き先の階層ボタンを押したことでわかるが、ここにまた来るつもりだろう……最新型培養装置はここにある機種らしいし。
ユーナたちが目覚めてないから見逃してくれると思うが、敵であることに変わりは無いんだよな。
意外と親身になってくれるから忘れそうになるんだが。
ああ……だから、慈愛の使徒なのか。
救恤と節制はそれらしくなかったけどな。