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俺、神様になります  作者: 昼神誠
混沌の世界へようこそ
83/592

この解呪はどこかおかしい9

 雪が息をしていない。

 胸に耳を当てて心音を聞いてみる。

 いや、決して邪な気持ちがあるわけじゃ無いですよ。

 微かに聞こえるが凄く弱い。

 どういうことだ?


「私ならその子を治療できますわよ」


 なっ……氷に閉じ込められているホークが口を開く。


「私の魔法の効果が弱まっているの……どうして?」

「あら、知らなかったのかしら? そこのトンネルは魔封石でできていますのよ。近くにいるだけで魔法効果は大幅に減少してしまいますわ」


 そういえばそうだったな。

 

「さあ、早くここから出さないとその子が手遅れになりますわよ?」


 くっ、せっかく捕らえたと言うのに解放しなきゃならんのか?


「一つ聞かせろ……雪がこうなった原因はなんだ?」

「パティの影響ですわ。早くしないと貴方たちも侵されますわよ」


 侵される……どういうことだ?


「リュージ……何か目の周りがぼやけて……」


 バタッ


 ユーナが急に倒れる。

 呼吸が激しい……熱もあるようだ。

 

「ユーナ、どうした?」

「はぁ……はぁはぁ」

「ユーナ姉?」


 ナデシコがユーナの下へ駆け寄る。

 まさか、ユーナもパティの何かに?


「あらあら、その子も時間が迫っているようですわね。さぁ、早く解放なさい」


 こいつの口車に乗るしかないのか?

 解放した瞬間に逃げられるということも十分あり得そうだし。

 そもそも何が原因なのか教えてくれないのも怪しい。

 ……それにしても、ユーナの氷が消えていないな。

 ユーナの意識があるうちは解除されないのか?

 それなら……ナデシコと愛輝に思いついたことを話す。


「わかった……ナデシコ、氷を破壊してやってくれ」

「ん……ちょっと難しい注文だけど……」


 ナデシコが居合でホークの周りを覆っている氷を破壊する。

 うまく下半身の氷は残してだが。


「な……これでは動けませんわ!」

「愛輝、頼む」

「承知したでござる。どっこいしょっと」


 愛輝がホークを抱え上げる。


「それで、どこで治療してくれるんだ?」

「くぅ……こんな格好の悪い……」

「どこ……早く教えないと……」


 カチャ


 ナデシコがホークを脅す。

 うん、有能!


「トンネルの奥……研究所の最奥ですわ!」

「よし、急いで行こう!」


 俺がユーナを、ナデシコが雪を背負いトンネルの奥へと入って行った。

 

「はぁはぁ……はぁ、リュー……ジ」

「大丈夫だ、すぐに治してやる」

「雪……雪!」

「………………」


 マズいな、雪がほとんど虫の息だ。

 効果が人によって差が出るってことは毒か……それとも細菌とかか?

 俺や愛輝はいつ発症する?

 とにかく、今はトンネルを進むしかない。

 10分ほど走ったころに研究所の最奥が見え始める。

 タワーの地下で無いことは走った感じからわかる。

 こんな研究所がまさか首都の地下にあるなんてな。

 なんかゲームで見たことのある設定だな。


「トンネルを出たら、すぐに培養カプセルがありますわ。そこにその子らを入れなさい」

「なっ……まさかユーナや雪のクローンも作る気か!」

「違いますわ。あそこに入っている液体は特別な薬効を持っておりますの。濃度が最も高いのが最奥にある培養カプセルですのよ」

「……これ以上、ホムンクルスは作るなよ」

「約束しますわ。早くしないと間に合わないですわよ」


 培養槽に入れる時点で信じられないが、助かるなら仕方がないか。

 トンネルを超えた先に新しく造られた感じのする研究区画が眼前に広がる。

 ホークが言ったように大きな培養槽が3つ並んでいる。


「私を制御盤の前に立たせなさい」

「承知したでござる」


 ホークが制御盤を触り始める。


 プシュー


 培養槽が開いたから、急いでユーナと雪を中に入れる。

 蓋が閉じ、液体が満たされていく。

 溺れたりしないだろうな?


「これで大丈夫ですわ」

「どれくらいかかるんだ?」

「3時間といったところですわね」

「そうか……助かったよ。ありがとう」

「代わりに話を聞かせていただきますわ。貴方たちは何者ですの?」


 何者って聞かれてもな……か弱い民間人としか言えないんだが。

 少なくても俺はそう思っている。

 

「単なる民間人だが……」

「嘘おっしゃい……まさか、王女たちレジスタンスの一味では無いんですの!?」


 王女たちレジスタンス?

 他にも勇者の横行が許せない奴らがいたのか。

 まあ……いそうだよな。

 王女ってどこの国だ?


「レジスタンス……知らないな」

「本当ですの……レジスタンスで無いならなぜ勇者様の邪魔をするんですの?」


 いや、邪魔って……悪の限りを尽くしている勇者が許せない奴らは大勢いそうだがな。

 ジョンおじさんみたいに勇者を信仰する人もいるし、みんながみんな同じじゃないのか?

 この際だ、情報をいろいろと集めさせてもらおうか?


「俺からも聞かせてくれ。勇者はどうしていろんな町や村を襲うんだ?」

「そんなの決まっておりますわ、戦いに備えてですわよ」

「戦いって魔界と?」

「それもありますわね。でも、今の脅威はスライムですわ」


 スライム?

 そういえば、ニーニャさんがこの世界のスライムってモンスター最強種の一種って言ってたな。


「スライムが脅威?」

「知らないんですの? スライムが今、急増していることに……すでに多くの町がスライムに飲み込まれていますわ」


 マジか……遭ったことのあるスライムって今のところ迷惑マッドサイエンティストの作った怪獣型スライム2体くらいだが。

 

「じゃ……じゃあ、スライムを駆逐するためにお前たちは他の町を襲っているのか?  まるで辻褄を合わないぞ?」

「ただの一般人に勇者様の考えは理解できなくて結構ですことよ。勇者様の力を持ってしてもスライムを駆逐するのは不可能なんですの。だから、スライムの進路上の町を一足先に向かい住民を救出しているだけですわ」

「俺たちの町も襲われたと言うしかない惨状だったんだが」

「女性は救っていますわ」

「男は……何で救わないんだ?」

「男は余計な争いを生み出すからに決まっているでしょう。見捨てて当然ですわ」


 平和的な男だって大勢いるだろ。

 ジョンおじさんとか、ホスピリパにいたパリピ医者とか、俺とか、俺とか……特に俺とかな!


「そういうお前たちの配下の男たちはどうなんだよ? 見たままの悪党じゃないか」

「何を言ってますの? あれが正義を貫き通す格好だって勇者様が言っていましたわ」


 勇者のセンス、おかしいだろ!

 トゲトゲ肩パッド付けて、モヒカン頭でヒャッハーって言う奴らを世紀末悪党って言うんだよ!


 ピンポンパンポーン


「ホーク様、ラグナ様、至急ロビーにお集まりください」

「ま、今回はその可愛い娘たちに免じて見逃してあげますわ。勇者様からのお呼びですの」

「あら、行かないといけませんわね……フレイム」


 ドロッ


 ホークの下半身の氷が一瞬のうちに溶ける。


「なっ!?」

「ふふふ、こんな氷なら属性反応を起こせば簡単に溶けますわよ」

「属性反応?」

「ま、知らなくて当然ですわ。一般人や魔術師でもごく一部でしか知らない別属性を当てることで起こる反応のことですわよ。今のは融解、氷属性魔法を火属性魔法で無効化する反応ですわね。いろいろと試してみなさい。理解できると奥が深いですわよ、魔導の深淵は……」

「すぐに逃げれるのに……協力してくれた……なぜ?」

「……パティの件はこちらの落ち度ですわ。あの子の能力で無くなる命は少ないほうがいいのでね。では、私はもう行かせていただきますわよ」


 パティの能力……あの白骨化してしまうやつか?

 どんな能力なんだ……教えてほしいものだが。

 それにホークをここで解放するべきか?

 ユーナや雪を助けてくれた恩もあるが、こいつも勇者の一味だ。

 

「リュージ殿、解放してあげるでござるよ」

「良いのか? ダリアが眠ったままだぞ?」

「今回は仕方ないでござる。恩義に報いるは世の常でござる」


 ちっ、格好良いこと言いやがって。

 これじゃ、俺のほうが悪役になってしまうじゃないか。


「ナデシコ、解放してやってくれ」

「いいの?」

「ああ」

「次に会ったときは敵同士ですわ。その娘たちが回復するまではここは立ち入り禁止にしてあげますの。安心なさい」


 そう言い放ち、ホークは去って行った。

 

「思ったよりいい奴だったな」

「ここを立ち入り禁止にしてくれたなら、安心できるでござるな」

「雪……大丈夫?」

「大丈夫だろう……信じて待つしかない」


 20分ほど沈黙が続く。

 愛輝が徐にスマホを取り出す。

 ま、暇なときにはつい触ってしまうよな。


「……そろそろでござるな」

「ん……何がだ?」

「くくく、リュージ殿。さっきの女に盗聴器をつけていたでござるよ。あやつも間抜けでござるな。まんまと引っかかったでござる」


 やっだ――、もう!

 俺より悪人っぽくて素敵じゃな――い!

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