この解呪はどこかおかしい7
使徒まで来ているって!?
ならず者だけでここに来たんじゃないのかよ!
ここはナデシコ様、お願いしますぜ!
「パティ様、パティ――様!」
「あいあ――い、ここにいるよぉ」
デカいならず者たちの足元から幼女がひょっこり出てきた。
え……まさか、こいつが使徒?
雪とほとんど歳が変わらないくらいなんだが。
「パティ様……こいつらがホーク様を!」
「おばちゃん死んじゃったの?」
「そうです、あいつらが! おそらく、あそこにいる男の仕業ですぜ!」
俺――!?
いえ、違います!
ここで幼女を抱きしめている美少女が犯人です!
「おばちゃんが……ふぇ……ふええ……」
「パティ様、泣いてはいけませんぞ! 忍耐です! ほら……ほら、いないいないばあっ!」
何をやっとるんだ、こいつらは?
しかし、使徒でもこんな幼女なら俺でも勝てるんじゃねぇの?
ホークの亡骸を見て、泣くくらいの健気な子だぞ。
血を見て笑う異常な雪より、普通な子どもに違いない。
えっ……子どもをいじめて嬉しいのかって?
いやいや、たとえ子どもでも勇者の直属の配下だぞ。
獅子は兎を狩るのにもなんとやらって言うだろ?
俺だって、子どもが相手でも勇者の側近なら遠慮なくぶっ飛ばすぞ。
いや、指導と言い換えるべきか?
悪い人の言いなりになりませんって教育してやろうじゃないか。
「おい、お前ら! パティ様を全力であやせぇ!」
「「へ、へい! 了解しやした!」」
俺がやる気になるためにくだらないことを考えている間も全力で幼女が泣かないようにならず者共が必死であやしている。
もしかして泣いたらとんでもないことが起きるのか?
……えっと、さっきのやる気は軽い冗談って言うことにしていいですか?
だって、何かが起こりそうな気がするんだもん!
「リュージ、リュージ。今のうちにここから離れない? 早く勇者の所に行って、捕まえましょうよ」
「……俺たちに注意が向いていない今なら動けるか……よし、ステルスをかけて先に進もう」
「あの子……可愛い。家族にしていい?」
今は雪がいるだろ。
それで満足しておいてくれ。
これ以上、ここにいても時間の無駄になるし。
「びえぇぇぇん!」
「ぎゃ――! ダメだ! 全員……退避、退避ぃ!」
あらら、やっぱり泣いちゃったのね。
しかし、この慌てよう……何が起こるんだ?
使徒だし、すぅんごぉぃヤバいことが起きるのなら、すぐに逃げたいんですけど!
「おい、お前らも悪いことは言わん! 今は逃げておけ! いや、逃げてくれ! 今だけは見過ごしてやるから!」
ならず者の一人が警告を与えてくれた。
敵の俺たちまで気遣うほどヤバいのか?
見てみたい気が余計に増すんだが、逃げたほうがいいか?
「あふん」
「あふん」
幼女の近くにいたならず者共がなぜか倒れていっている。
いったい、何がどうなっているんだ?
「ぎゃ――、間に合わねぇ!」
「パティ様! どうか泣き止んでくだ……あふん」
何だ?
黒い何かがこちらに襲いかかってくる。
あれだけ大勢のならず者がすべて倒れている。
……いや、それだけじゃない。
先に倒れた奴は……ひぇぇ、白骨化してる!?
確かにこれはヤバい。
ゴゴゴゴゴゴゴ
こんなときに地震?
もう、異常事態は一つにしておいてくれよ。
これは、かなり強い揺れだ。
「ん……倒壊の危険性……大」
「ナデシコ、わかるのか?」
「勇者城の耐久値を越える強い揺れ……ここも沈みそう」
「わかった、それだけでヤバさは十分に伝わったよ。ユーナ、跳べるか?」
「わかってるわよ! 後で勇者の所へ突撃するからね……テレポート!」
ヒュン
ここは首都の大通りか?
もっと遠くに逃げてくれてもいいのに。
勇者本人を捕まえる気は満々のようだ。
もう、弱そうなならず者で良いだろ、それでダリアを解呪できるなら楽に済むだろ?
地震は大きい揺れがまだ続いている。
あの忍耐の使徒とやらの幼女は倒壊に巻き込まれるんじゃないのか?
まぁ、あの様子じゃ近付いただけで白骨化してしまうし助けるなんて無理なんだがな。
ドォン
ナデシコの言う通り、本当にタワーが倒壊し始めた。
地下も沈没し、タワーの3階くらいまでは見事に埋まっている。
しかし、上層部分は綺麗に形を保っており、思ったより頑丈な造りのようだ。
もっと粉々に崩れて欲しいものなんだがな。
ロビーに集まっていた勇者たちは……そのまま残っているわけ無いか?
ヒュン
「勇者様、大丈夫でごぜぇますか?」
「やれやれ、パティめ。また、泣きおったな」
「小童ゆえ、仕方あるまい」
げぇぇぇ、勇者とスリードにならず者共!?
同じ大通りの少し離れた所に避難していたようだ。
辺りはラグナ戦で倒壊した建物がたくさんあるし、適当なところに身を隠す。
「ユーナ、愛輝、ナデシコ……こっちだ、見つからないように」
「ラッキーじゃない、今すぐあの偉そうな……」
「馬鹿言うな、スリードもいるんだぞ。あいつにどんな目に合わされたか知っているだろ」
「ダリア嬢を怪我させた爺でござるな。リベンジするでござる」
「お前も無謀なことはやめろって」
どうして、こいつらは考えなしに突っ込もうとするんだ。
極振りだからか?
極振りしたら脳がイカれるのか……うん、納得だ。
「スリード様、ご報告いたします。勇者城ですが被害は地下の研究所のみらしいです!」
「ふん、耐久度は十分なようだな。報告ご苦労……下がっておれ」
「ハッ!」
ならず者共が軍隊みたいに統率されている。
本当の下っ端までは教育が行き届いていないんだろうか。
いわば、ここにいる奴らはエリートのならず者ってことになる。
あんな中、勇者を捉えるなんて無理だろう。
「ユーナ、もうそこら辺の弱そうな下っ端ならず者を捕まえて、そいつに呪術移していいんじゃないのか?」
「何、弱気を言ってるの。ここまで来たんだから勇者に目に物を見せてやるのよ」
「ユーナ姉に賛成」
「吾輩もでござる!」
「あんた、あたしの近くで喋ったから10万ゼニカね」
「りょ……了解でござる」
愛輝よ、ダリアだけじゃなく、ナデシコにもカモられる羽目になったのか。
……哀れだな。
何度も言うが、金は貸さんぞ。
「勇者殿、元に戻して構いませんかの?」
「うむ、良かろう……バックベア、やれ」
「了解。1時間ほどでよろしいですか?」
「うむ、任せる」
スリードと勇者に……隣りにいる、もう一人は誰だ?
長身で黒のスーツを着たスキンヘッドの男性だ。
怖いお兄さん系じゃないよな?
「了解……フンッ!」
ブォン!
タワー全体が淡く青い光りに包まれる。
何をしたんだ?
ゴゴゴゴゴゴゴ
タワーがまるで時間を戻しているかのように、崩れた部分が元の場所に戻り修復されていく。
しばらくすると完全に元に戻ってしまった。
「完了……」
「うむ、さすがだな」
「ほれっ、とっとと戻るぞい!」
「「はっ!」」
ドドドドドドドドド
勇者一行がタワーへ戻って行く。
「す……すごいわね。あいつ」
「あの坊主頭の奴も使徒か?」
「あれってどういう魔法なのかしら? 光はヒールに似ていたけど……」
「……あれは魔法じゃない」
「ナデシコ、知ってるの?」
「あれは能力の一つ、リペア……雪と同じ高レベルの能力」
なるほど、欽治の記憶もあるから能力の種類も知っているんだな。
「リペア? どういう能力なの?」
「詳しくは知らないけど……直すの……何でも直せる」
「何でもって生き物もか?」
「条件が整えば……今、確認したところ第二世代のクローンは半分くらい治ってる。多分、あたしがやった大男も治ってそう」
この世界には蘇生なんて好都合な話は無いはずなのに、まさか奴もこの世界の住人じゃないのか?
「ラグナだけか? ホークはどうなった?」
「彼女はもともと死んでいない。殺すつもりも無かった」
マジかよ。
ホークはどうでもいいが、ラグナは死んでて欲しかったな。
「それなら、好都合じゃない! 最初の計画通り、白衣のおばさんをさらうわよ!」
ホーク狙いか。
勇者を狙うよりマシだが、黒子たちも半分くらい生き返っているなら危険性は変わらないよな。
「だが、黒子も大量にいるし、危険だぞ? もう少し、様子を見……」
「彼女の居場所はわかる……今は研究所の最奥」
「よし、それならあのトンネルの前まで戻るわよ! テレポート!」
ヒュン
俺の話を聞いて――!!!
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