この解呪はどこかおかしい6
このホムンクルス……もしかして?
「な……なぁ。雪ちゃんは寝ているから静かにな」
「……うん」
ホムンクルスは雪を抱きしめ凄く幸せそうな顔をしている。
いや、それだけじゃない。
金づる……じゃなかった、愛輝からゼニカを搾り取ろうとした時点でこのホムンクルスには欽治とダリアの記憶も受け継がれているのか?
……もしかしたら、これは思いがけない強者を味方に引き入れることができるかもしれないぞ。
まだ、そうと決まったわけじゃないが少しこいつと会話をしてみても良いんじゃないだろうか?
勇気を出して、ホムンクルスに問いかける。
「ところでさ、お前は自分を増やしてどうするつもりなんだ?」
「……家族」
「えっ?」
「家族を作るの」
家族!?
そんなことで増やすのか?
「家族だったら雪ちゃんがいるだろ?」
すまん……欽治。
雪はこいつにくれてやってくれ。
だってさ……雪が近くにいると大人しいんだもん。
それに世界平和のためだ。
「ん、雪は家族。あたしの妹」
妹?
クローンたちは雪のことをお姉様と言ってたが、やはりこのホムンクルスのほうがよりオリジナルに近く記憶などが受け継がれているのかも知れない。
「ラグナ、ホーク! 何をしとる! ……お前たち、ちょっと下へ行って呼んで来るのじゃ」
「合点でさぁ!」
「ヒャッハ―!」
放送機器のスイッチを入れたままになってますよ……中身が丸聞こえだ。
ヤバいな……ここにならず者共が来るみたいだ。
ホークはこのホムンクルスにやられてしまったし、ダリアの呪術を移す相手に適当なならず者を一人、気絶させて連れて帰るか?
……先にこのホムンクルスと会話を続けよう。
暴れられたら怖いし、味方に引き入れることができればダリアを助けることに協力してくれるかもしれない。
「雪だけじゃ満足できないのか?」
「ん……家族はもっとたくさんいたほうがいい。リュージも家族に入る」
俺のことも知っている。
これで決まりだな、このホムンクルスには欽治とダリアの記憶がしっかりと残っている。
あくまで作られた存在だから、若干おかしなことになっているみたいだが。
しかし、家族か……。
「家族にはなれないけどさ……俺たち友達になれるんじゃないか?」
「断るつもり? あたしを否定するのは……すべて敵……」
ひぃぃぃ、怖い!
けど、社会を知らないからこんな態度に出るんだろうな。
もう少し話してなんとかわかってもらうとしよう。
まずは話題を変えないと俺が殺されてしまう。
「ユーナや愛輝のこともしっかり覚えているんだろ?」
「えと……ユーナは……大切な友達? さっきは雪に夢中で酷いことをしてしまった。ごめんなさい」
「別に気にしてないわよ。なかなか、可愛いじゃない」
「吾輩のことは覚えてくれているでござるか?」
「ん……あたしの財布であり、大事な金づる」
「ひ……酷いでござる! ダリア嬢もまさかそんな風に我輩を?」
なんだ、気付いていなかったのか?
恋は盲目と言うが、お前は十分ダリアのヒモとして貢いでいたぞ。
それより、ユーナに謝る事ができていたし、やはり話がまったく通じない相手じゃ無さそうだ。
「リュージ……さっきの家族の話が途中」
覚えていやがったか……まぁ、いいか。
こいつの言う家族がごっこ遊び程度のような感じもするし。
「ああ、俺とお前は家族だよ」
「ん……嬉しい」
少し顔を赤くして、照れているのか?
ちょっと待てよ……めっちゃ可愛い欽治とめっちゃ美人のダリアのキメラだぞ。
よくよく見たら……恐怖で気付かなかったが可愛すぎる!
えっと、家族って……その俺は貴女の夫でよろしいのでしょうか?
いや、待て!
ニーニャさんはどうする!?
俺にはニーニャさんという大事な人が……。
いやいやいや、ここは異世界だぞ。
一夫一婦制では無い……時代背景が中世がベースだし、もしかしてこれは!
夢にまでハーレムか!?
おいおいおい、やっと俺にも異世界生活にあって当然なイベントがきたのか?
もう、遅いですよ作者様。
いやいや、全部言わなくてもわかってますって!
このホムンクルスも大事にします。
「リュージ、あたしの大事なペット……」
オウ、マイ、ガ――!!!
「あっははは! ペットだって、ウケる! 貴女、気に入ったわ」
「ユーナも……大事な家族……になる」
「もちろん良いわよ! 今日から貴女は私の……え――と、私の……」
「お姉ちゃんがいい」
「お姉ちゃん……ってことは妹ね。うん、ちょうど妹欲しかったのよね」
なんで、ユーナが姉で俺がペットなんだよ!
ユーナが姉になるなら、おれはお兄ちゃんになるのが当然だと思うんですけど!
……ユーナには以前にその話をしたけど、あれから一切その話題に触れないよな?
自分が俺の妹だっていうことを認めたくないんだろうか?
俺だって、こんなイタい妹はいらないがな。
「……えっと、そういえば貴女の名前は?」
俺はホムンクルスって呼んでたが、名前があるならそれに越したことは無いよな。
名前か……こうやって考えると慎重になってしまうな。
可愛い名前をつけてあげないと……ユーナが決めたらセンスの無い名前になりそうだし。
「名前……無い。ユーナ姉……決めて」
おいおい、ユーナに決めさせるのか?
絶対、センスの無い可哀想な名前になるぞ。
「そ、そうね……えーと……欽治とダリアの間だから……」
変な名前はつけるなよ。
欽治とダリアのキメラだから……うーん、名前付け辛いな。
「そうね、ナデシコにしましょう! 今日から貴女はナデシコよ!」
「ナデシコ……ナデシコ……うん……あたしはナデシコ」
「ナデシコって花の名前なのよ。ダーリンも花の名前だし、欽治って本人たちの世界では和風名って言うんだって。だから、その和風にあった花の名前でナデシコよ。どう、可愛いでしょ」
和風な花の名前にしたのか。
欽治は日本名で、ダリアは花の名前だから日本の花の名前を選んだのか。
なかなか、センスがあるじゃないか。
ユーナも成長したもんだな。
未来とは言え、俺たちの世界に行った意味はあったようだ。
「それじゃ、ナデシコ。勇者をひっ捕らえに行くわよ」
「ん……勇者は悪い奴」
「そうよ、勇者を語る悪い大人よ。ひっ捕らえて永遠の眠りにつかせてあげましょ!」
「吾輩も行くでござる!」
永遠の眠りって怖いことを言うな。
でも、ナデシコがいれば勇者も捕まえられるか?
安直な考えではありそうだが、ナデシコの本気を知っておきたい気持ちもあるし。
「ナデシコ、危なくなったら俺たちを連れてどこか安全な場所へ跳べるか?」
「ん……無理。あたしは自分しか跳べない」
そうなのか?
やはり、オリジナルの能力を完全に継承するのは難しいのだろうか?
それでも、黒子よりかはオリジナルより若干劣っている程度なわけだし、気にしなくてもいいだろう。
ラグナを一撃で倒した、それも本気じゃ無さそうだし。
強さとしては十分だ。
「大丈夫よ、リュージ。ナデシコがいたら勇者もあのジジイも一瞬であふんよ!」
「万が一のことも考えておく必要があるだろ?」
「私がいつでもテレポートできるようにしておくわ。相変わらず、チキンなんだから!」
「リュージはペットでも鶏なの?」
「いいえ、違います」
はぁ……考えなしのユーナも作り直せないだろうか?
ドドドドドドドドド
エレベーターの方向から大勢の足音がする……来たか?
ならず者共だ。
ま、あんな雑魚だったらナデシコがいれば余裕だろう。
「ヒャッハ――!」
「ああん? なんだ、てめーらは!?」
「雑魚は引っ込んでなさい! 私たちは自称勇者に用があるのよ!」
「うぉ……ホーク様!」
ならず者共の強気が一変する。
「こ、こいつら……つええんじゃないのか?」
そうだ……はっきり言って、強いぞ。
俺じゃなくてナデシコなんだが。
無駄死にする前に逃げることを推奨する。
「おめぇら、大丈夫だ! こっちには忍耐の使徒、パティ様がいる!」
……ふぁっ!?
使徒まで来ているって――!?
ナデシコでも勝てるよね……ね!?