この解呪はどこかおかしい5
どうすればいいんだよ?
なんでテレポートが使えないんだ?
……俺のステルスは発動しているよな?
気付いていないことに祈るしかない……最後は神頼みとか情けないよな。
ザッザッザッ
「ちょっ……いい加減にお離しなさい!」
ホムンクルスは俺たちには気付かず通り過ぎて行った。
ホークも俺たちに気付いていないようだな。
……ふぅ……なんとか一命を取り留めたか。
しかし、不思議だよな?
どうしてユーナのテレポートが発動しないんだ?
ユーナがトンネルの壁を触り、話しかける。
「リュージ、このトンネルの壁……全部、魔封石よ」
「魔封石?」
「ふむ、名前からして魔法を封じる石でござるか?」
「そうよ。こんなに沢山の魔封石、初めて見たわ」
「高価なものなのか?」
「高価どころじゃないわよ。1カラットで小国が買えるくらいよ」
いや、高価すぎるだろ?
そんなに貴重なものをこの辺りの壁に使っている?
……さっきラグナが壊してくれた壁の欠片を拾っておくか。
売ると大金持ちになれるぞ……ぐへへ。
それよりも、魔法を封じるならステルスも効果が出ないはずだ?
あいつが見逃してくれた?
いや、ホークも気が付いていなかったみたいだし……やっぱり、ステルスは発動していたのか?
「そんなことよりリュージ。さっきの白衣の人をあいつからぶん取るわよ! ダリアのためにも何とかしないと」
馬鹿を言うな。
あんなバケモノ相手にどうしようもないだろう。
ラグナが一瞬であの世行きだったんだぞ。
下手にケンカを売っても即死させられるだけだ。
「そうでござる! リュージ殿、ダリア嬢のために何とかぶっ飛ばすでござるよ!」
だから、無理だって!
欽治がいたってあれのホムンクルスに勝てないのは見なくてもわかる。
しかし、放っておくとどんなことが起こるかもわからないんだよな。
あのホムンクルスは存在するだけで人類に害する存在なのか、ただ襲ってきた者を排除するために……自分の身を守るために相手を殺しているのか、それによって対処法は変わってくるよな。
……仕方がない、少し様子を見てみるか。
「わかった。ただ、あいつには絶対に手を出すなよ」
「大丈夫よ。いざとなったらテレポートで逃げればいいじゃない」
「あいつは時間移動ができるかもしれないんだぞ。相手を侮るな、お前の悪いところだ」
「ぐ……むぅ……ふん、わかったわよ!」
ホムンクルスに気付かれないように適度に距離を取り、後を追っていく。
欽治が閉じ込められていた培養槽の並んでいるところまで戻って来た。
大半は割れているが、もともと何も入っていなかった培養槽だけは割れていない。
なにかするつもりなのか?
バッ
「きゃっ……何するんですの!」
ホークが壁に投げつけられる。
ここでホークを殺すつもりなのか?
「……増やして」
「えっ?」
「あたしを増やすから、この残ってる培養槽にデータを入力して」
……何だってぇ!?
自分のクローンを作れってことか?
まさか、人類にとって代わるつもりとか?
「そ……それだけで良いんですの?」
コクッ
ホムンクルスが首を縦に振る。
いや、それだけってホークも十分に酷い目に合ってるだろうが。
「……わかりましたわ。ただ、貴女は特別製……もう一度、貴女が培養槽に入ってくれないと無理ですの」
おっ、もしかして理解したふりをして培養槽に入れて眠らせるつもりか。
「……無理」
「え……いや、だって。貴女のクローンはデータを貴女自身に埋め込んでおりますのよ。貴女が培養槽に入らないとダメなんですわ」
「大丈夫……あたしが起きる前にデータを研究所の極秘ファイルに移しておいた。それを使えばいい」
用意周到だな?
培養槽の中に入っているときから、そんな事を考えていたのか?
欽治と違い、頭の回転が良いな。
意外と知識もありそうだ。
頭の良さはダリア譲りなんだろう。
ピンポンパンポーン
「勇者殿が帰還いたします。配下たちは直ちにロビーへ集合してください。ただちにロビーへ集合してください」
放送が鳴り響く。
チャイムはどこでもこれなんだな……いや、俺達の世界の人が作ったならあり得るか。
そんなことより……勇者が帰還だって?
ますます事態が悪化しているんじゃないのか?
「リュージ、ちょうどいい機会よ! 白衣の女性じゃ無く、あの自称勇者をひっ捕らえてやりましょう!」
無謀――!!!
勇者の能力は聞いた通りならこの世界でほぼ最強なんだぞ。
勝てるわけないだろ!
「……くっ!」
ダッ!
ホムンクルスがスピーカーのほうを見た瞬間に、ホークが起き上がりその場から逃げようとする。
「貴女は勇者様がきっと何とかしてくれますわ! しばし、そこで首を洗って待ってなさい!」
「逃げるの? そう……逃がさない……捕鶏剣」
ギュルルル
ふぁっ!?
鳥取県?
ホムンクルスが腰にさしている小太刀をホークに向かって投げつける。
ビュゥ
グォン
「きゃっ!」
ホークの身体に鉄線が巻き付く。
あの武器は、欽治のやつじゃないか?
勇者軍が奪った後、あのホムンクルスが持っていたのか。
いや……あのホムンクルスがどういう経緯で目覚めたのかわからんが、欽治の武器と知って奪い取ったのか?
捕鶏剣って欽治の技だし、あいつは欽治の流派もしっかりと継承しているのか?
黒子は単純な攻撃か太刀を投げるくらいしかしてこなかったし。
「は……放すんですの!」
「……早く、あたしを作って」
「馬鹿を言わないでくださいまし! 貴女を増やしたりしたら、それこそこの世の終わりですわ!」
作った本人が馬鹿を言ってるんだよなぁ。
たまたまできたのか?
そもそも、欽治とダリアのキメラとか作るなよ。
被検体はモンスターじゃないんだぞ。
「増やすつもり……無いの?」
「当たり前ですわ!」
「……そう、それなら自分で頑張ってしてみる」
「えっ!?」
グサッ!
ホークの心臓を躊躇無く太刀で貫く。
……逆らう奴も平気で殺すか。
こいつはどうやら完璧な敵になりそうだ。
ピンポンパンポーン
「慈愛の使徒様、節制の使徒様、至急ロビーにお集まりください」
……その二人なら、こいつにやられましたよ。
それよりもこの事態に勇者は気付いてないのか?
ホムンクルスは放送にはわき目も振らず難しそうな機械を触っている。
まさか、本気で自分を増やすつもりなのか?
「こりゃっ! ラグナ! ホーク! 勇者様がお呼びしておるのに何をしておるんじゃ! 怠惰じゃぞ! 早くロビーに集まるんじゃ!」
スピーカーからお爺さんの声が流れる。
あれ……この声って……スリードじゃないか!
あいつまでいるのか!
ヤバい、これは本気でヤバい!
「……ユーナ、状況がカオスになってきている気がするんだが」
「言わないでよ。私も薄々感じ始めてたころなのに!」
「これはすでにカオスでござるな、はっはっは」
「Zzz……ね……猫耳ガン○ム……ぶぇっぅしょん!!」
ぎゃぁぁぁ!
雪、くしゃみなんてするんじゃねぇぇ!
「……雪?」
見つかった!?
ひぇぇぇ……あいつがこっちを見てる。
雪、こんなときに何をしやがるんだぁぁ!
ザッザッザッ
ホムンクルスがこっちに向かってくる。
ダメだ、もう逃げるしか無い。
ダリアには悪いが、解呪は後回しだ。
「ユーナ、跳べ!」
「う、うん! テレポート!」
ヒュン
……逃げることが……できた!?
すぐに辺りを見回すと、いつも見慣れたドリアドの教会前のようだ。
た……助かったぁぁ。
「ふぅ……危なかったわね」
「あ……ああ。だが、何でここなんだ?」
「ここなら簡単に追ってこれないし、イメージしやすかったんだもん。私だってちゃんと考えてい……」
ヒュン
え……何だ?
研究所に戻ってきた!?
なんだ……この違和感は?
「う、うん! テレポ……」
「……行かせない」
グンッ
バァァァン!
ユーナが目に見えない何かに吹き飛ばされる。
「きゃぁぁぁ!」
「ユーナ!」
「ユーナ殿!」
いったい、何が起こったんだ?
ユーナがテレポートをかけようとしていた。
俺たちは確かに跳んだはずだ。
ホムンクルスが過去に戻ったのなら、俺の記憶もそのときのままのはずだ。
……俺も引き戻された?
何で?
い……いや、それよりも今はユーナだ。
「い、いつつ」
良かった、うまく防御魔法をかけて防いだようだ。
ホムンクルスも手加減してくれたのか?
「雪、会いたかった」
「お主、雪殿を返すでござるよ!」
ホムンクルスが雪を抱きしめる。
愛輝、そのホムンクルスから今すぐに離れろって!
「……あんたは雪をおんぶしていたから5万ゼニカ払って」
「は、はいでござるぅ……ってお主のためのお金じゃないでござるよ!」
……こいつら……ナニヲヤッテンダァァァ!