この二人はどこかおかしい3
どこかに隠れる場所は無いか?
辺りを見回すが培養槽のある区画と違って隠れる場所など見当たらない。
一応はステルスをかけているがホムンクルスたちは気配を感じる能力に長けているようだし、どうすればいいんだ?
「リュージさん、僕が囮になりましょうか?」
囮か、そういう手段もあるが欽治もやすやすと捕まったことを考えるとあまり良い策では無いだろう。
「いや、救出したのが無駄になってしまってはダメだ。俺が何とかする」
「リュージさん……はい!」
うひょぉぉぉ、気持ち良い――!
これが信仰欲と言うものか。
ユーナがハチャメチャするのも頷けるな。
俺はそこまで節操無しにはしないけどな。
いや、そんなことよりも今この瞬間を何とかしなければ。
ウィーン
エレベーターの扉が開く。
ひぃぃぃ、余計なことを考えていたせいでピンチになってるし!
「急いでホムンクルスをすべて投入するんですわ! まったく、何なの! あの人間は!」
「くっくっく、まぁそう慌てるな。俺も手伝ってやる」
ホークともう一人屈強そうなならず者がそろって出てきた。
ぎゃぁぁ、なんでホークがここに来るんだよ!
「ち……ちょっと! エマージェンシーモードって何事ですの!?」
ホークが走って通り過ぎる。
どうやら、さっきからうるさく鳴り響いている警告音に気を取られたようでステルス状態の俺たちには気付いていないようだ。
あとはホークの隣にいた屈強そうなならず者が俺たちに気付かず通り過ぎることを祈りたいが。
コッコッコッ
なんだ……こいつ?
異様な感じを漂せながら俺たちの横を通り過ぎていく。
格好は世紀末悪党のようなレザーに肩パッドでは無く、黒い胴着を着てサングラスをしている。
格闘家なのか、怖いお兄さんなのかどっちなんだ?
横を通り過ぎる一瞬、目が合った。
「くくく、今は見逃してやる。先客がいるんでな」
俺たちが見えている?
こいつもまさか使徒の一人か?
そのまま、通り過ぎて研究所の奥に進んで行った。
……た……助かったのか?
冷や汗をかいたのはスリードのとき以来だ。
さっさとエレベーターに乗り込んで、この場を離れないと。
「欽治、行くぞ……ってどうした?」
欽治が顔面蒼白になり震えている。
こんな欽治は初めて見たがいったいどうしたんだ?
「リュージさん、あの人はダメです……」
「さっきの胴着を着てた奴か?」
「闘気を当てられただけで……まさか、身体が動かないなんて……」
「ふえ……ふええ……」
雪も泣きかけている!?
欽治がこんな顔をするのは初めて見た。
あれはヤバい……確かに俺でもわかる。
二人の手を引っ張り、エレベーターに駆け込む。
扉を閉じ地下1階のボタンを押した後、欽治に話を聞いた。
「あのスリードで興奮してたお前が恐れるほどの奴なのか?」
「僕は身動き一つできずに殺されると思います……異常ですよ、さっきの人。杏樹さんも何もできずにやられるわけです……くっ! 自分が……情けないです!」
「お姉ちゃん、怖い……」
雪をあやしながら答える欽治に俺も不安になる。
あれが杏樹をやった奴?
杏樹を串刺しにしたという自分より大きい大剣は持っていなかったようだが……それでも異常さは確かに伝わった。
いつもの欽治なら強い奴を見たら興奮して暴走して相手は肉塊になるだけだが、そんな気すら起こさせてしまわせない相手……あれは確かにヤバい。
「リュージさん、先輩が目覚めたら一度……元の世界に戻っても良いですか?」
「何かするのか?」
「お父さんの修行が途中ですので、その……奥義を」
そうか、あのダサい技名の流派は親父さん発祥なのか。
しかし、奥義って……そりゃまた、ありきたりな。
欽治は俺の安全装置だが、スリードにもボコボコにされたうえ、さっきの奴には勝てないと自分で言う始末だし、修行して強くなってきてもらったほうが良いだろうな。
「良いぞ、勝てる見込みが出るなら歓迎だ」
「ありがとうございます! リュージさん」
ほぇぇぇ、ぎんもぢ良い――。
ちょっと信仰欲ヤバすぎだろ、中毒になっちゃうわ!
でも、今まではこんな厄介な能力? は無かったのに、スリードによって死にかけたことがきっかけに目覚めたのか?
後でルーシィさんに聞いてみるか。
ウィーン
地下1階に着き、扉が開く。
なぜ地下1階なのかと言うと、1階のボタンは無かったからだ。
なぜ無いのかはよくわからないが、1階にエレベーターらしきものは無かったし、地下1階でも隠し扉で隠されていたから、もしかしたら一部の者にしか知らされていないのかもしれない。
来た道を戻り階段を上ると愛輝がボロボロになりながらもまだ戦っていた。
いや、正確には躱すのに必死になっていたというべきか。
ルーシィさんもかなり疲れているようだ。
必死に愛輝を援護していたのだろう。
ルーシィさんの元に近付き声をかける。
「ルーシィさん、大丈夫ですか」
「きゃっ……って、リューくん! あれ……ユーナちゃんはどこなわけ?」
「いませんでした。それよりもダリアを治療できませんか? まったく目覚めなくて……呼吸はしているので生きているとは思うのですが」
「そう……それじゃ、いつまでもここに居る必要も無いわけね」
ドゴーン!
「ぐうっ……さすがに空腹が限界でござる」
愛輝が黒子の一撃を受けてしまった。
かすった程度で吹き飛ばされるって、ホムンクルスも恐ろしいほどの筋力だな。
「あれって……まさか僕の!?」
「ああ、お前のクローンだよ」
今は戦う必要など無いんだ。
ここでのやるべきことはすでに済んだし、次はユーナとニーニャさんを見つけて助け出すことだ。
「あれ、人数増えてる……あと4匹か……増援にも気付かなかったし自分は廃棄処分かな?」
げ……俺たちが見えてる?
なんでだ?
「リューくん、MPが0になってるわけ」
だぁぁぁ、しまったぁぁ!
逃げることに必死で回復アイテムを使うの忘れてたぁぁぁ!
「リュージさん、ここは僕が」
「けど、お前素手じゃ……」
ダンッ!
武器も持たないで黒子に突っ込む欽治。
「ん……あんた同型?」
黒子の動きが止まる。
そうか、同じ姿をしているから同一存在だと誤認しているのか。
「欽治、奴の武器を奪え!」
もう、見つかっているんだ。
大声くらいで何も変わるまい。
「はいっ!」
サッ
奪われまいと軽く躱す黒子。
「サーチできない……もしかして、欠陥品?」
「うりゃぁぁぁ!」
どうやら欽治は素手での攻撃はさっぱりらしい。
あんな丸わかりの右ストレートで当たるわけが無い。
サッ
「欠陥品は廃棄場に連れて行かないと」
「僕は欠陥品じゃありません!」
欽治が力いっぱい黒子に殴りかかろうとするが、すべて難なく躱されてしまう。
やはり、武器を何とかしないと欽治には厳しいか。
「任せるでござる」
ヒュン
傷ついていた愛輝が黒子に向かう。
ルーシィさんが治療したのか。
先にダリアを何とかしてほしいのだが。
「欽治殿! 受け取るでござる!」
黒子の背後に移動し、脇差をかすめ取り欽治に投げる。
ガシッ
「愛輝さん、ありがとうございます!」
どうして太刀のほうを奪わなかったんだって言いたいが、欽治に武器が渡っただけでも良しとしよう。
「武器取られちゃった。自分と一緒に欠陥品も廃棄上に連れて行かなくちゃ」
「何を言っているのかわかりません! 急襲の型……大痛剣!」
相手の間に飛び込みつつの居合技だ。
脇差でも威力は十分なはず。
ズガーン!
黒子が吹き飛び、タワーの壁に直撃する。
やっぱ、オリジナルのほうが強いか……これで決まって欲しいのだが。
「強い欠陥品、おかしい」
壁に直撃したのに、いまいちダメージを受けていないようだ。
あの居合を太刀で受け止めたのか?
クローンだけあって、欽治の動きは読まれている?
「だから、僕は欠陥品じゃありません!」
あまりムキになるなよ、欽治。
相手はお前をオリジナルと気付いていないみたいだし。
「おねーちゃん、頑張れ――!」
雪が欽治にエールを送る。
しまった、ルーシィさんに眠らせてもらっておくのを忘れていた。
黒子が雪のほうを見る。
「ユキ?」
えっ……黒子が雪のほうをじっと見て動かない。
まさか、雪の能力が効いているのか?
「隙有りです! 宙極の型……」
お、新技来るか?
鳥取県は捕獲技だし、次はなんだ?
「火炉使摩剣!」
広島県じゃてぇ!?
脇差の切先を地面に当てながら黒子に向かい走り出す欽治。
ジ……ジジ……
切先から火花が飛び散っている。
「でりゃぁぁぁ!」
ボッ!
火花をうまく飛ばし黒子の服に当てた途端、服が大きく燃え上がる。
まさか、火属性の技があるなんてな。
ビリビリビリ
服が燃え広がらないうちに破り捨てる黒子。
あ……ちゃんと下着は履いてるんだ。
くぅ……残念!
「あれ……お姉ちゃんが二人だ! やったぁぁ!」
いやいや、雪。
片方はお兄ちゃんでしょうが?