このタワーはどこかおかしい1
「何でそんな顔をするでござる? 実際に舐めて確かめたでござるよ」
「確かにリューくんの周り、トマト臭かったわけぇ。まさか、あれで誤魔化される人いる?」
俺の周りにトマトジュース?
んな、ことあるのか?
俺の血がトマトジュース……なわけ無いしな。
トマトジュースは赤い色以外では血液と程遠い。
それを俺のところにぶちまけた奴がいる?
そのお陰でスリードにとどめを刺されずに済んだわけか?
いったい、誰だ?
トマトジュースを血と勘違いしたスリードも相当馬鹿だが、普通に騙せると思う奴も馬鹿だな。
……あの場にいた中じゃユーナくらいか、あいつならやりそうだ。
「そんなことよりユーナちゃんたちを助けに行くわけでぇ」
「ルーシィ殿、吾輩の準備はすでに完成しているでござるよ。少し、待たされたので逆に小腹が空いたでござるよ」
「愛輝ならダリアの位置を把握しているだろ?」
「ふっふっふ、当然でござる。3週間ほど前から、この位置から動いていないでござる。それゆえに心配でござるが」
愛輝がスマホ風魔導器の画面を見せてくれた。
地図アプリが開かれており、その場所は首都グレンだった。
やっぱ、そこなんだな。
タイムトラベルしてきても結局、ここに行くことになるのか……はぁ、憂鬱だ。
首都の中心地を示していることから、あのタワーにユーナたちはいるんだろう。
「あっしにもみせて! ……ここか、それならすぐなわけ」
「テレポートですか?」
「当然!」
良かった。
ルーシィさんは攻撃魔法はほとんど持っていないらしいが、補助魔法は多種多様なものを習得しているらしい。
「ダリアがいるところを把握していたのに愛輝はなぜ首都に向かわなかったんだ?」
「それが重大な用事をこなしていたでござるよ」
「何だ?」
「毎月、ダリア嬢に渡す100万ゴールドのためにバイトをしていたでござる」
だから、何でそこまで貢ぐんだ!?
こいつも自分ルールであるダリアのいる場所まで数時間以内に辿り着くっていうのをしなかったわけだし、今回は単身で向かわなかっただけ助かったか。
あの町は捕らわれた女性以外はみんなならず者だったし。
「さてと、あっしも準備できてるし雪っちはリューくんがおんぶしてね」
「へ? 雪ちゃんも連れて行くんですか?」
「そりゃ、そうなわけよ。なんせ自称勇者の城だかんね。使えるものは何でも使わないと」
「いや、確かにそうですが……雪ちゃんが思うように行動してくれるとは」
「大丈夫なわけ。ずっとスリープかけてるから、いざっていうとき以外、起こさなきゃいいわけよ!」
スリープをかけてる!?
子どもになんてことしてやがるんだ!
寝すぎて衰弱死したらどうするんだよ!
「安心しなさい。子どもは寝ることで育つから」
いや、確かにそうだけど!
寝すぎは逆にダメでしょ!
この後もいろいろと雪ちゃんのことで口論したが、ルーシィさんの変な理屈に論破され結局、連れて行くことになってしまった。
欽治、雪に何かあったときはルーシィさんを滅してくれ。
俺は最後まで抵抗したからな。
「それでは、それではぁ! テレポートぉ!」
ヒュン
まさか、またここに来ることになるとは、運命は簡単に変えられないのか。
目の前には相変わらず、街を守るように築かれた巨大な壁が広がっている。
ここは街の外みたいだな。
「ありゃ……街の中に移動したわけなんだけど……ま、いっか」
ルーシィさんが失敗した?
いったい、どういうことだ?
ガァン!
バリバリバリ!
ドォン!
街の中から発砲音や何かが壊れる音が聞こえる。
「街の中で何か起こっているようでござるな?」
「確か、中に入れる門が東西南北にそれぞれ一つずつあったはずだ。行ってみよう」
一番近い門のある所まで壁沿いに進んで行く。
30分ほど進んだであろうか、壁沿いだとかなりの距離がある。
門はまだ見えないが、信じられないものが目に映った。
「か、壁が破壊されている?」
「こりゃ、酷いわけ」
壁の向こうには倒壊した建物が見える。
ドォン!
ドォン!
何者かが破壊しているのか?
「リュージ殿! こっちに見たこともない大きな足跡があるでござる!」
「あ……こっちにもあるわけぇ」
……いや、まさかな。
考えてはダメだ。
俺のフラグ予測はほぼ100%当たってしまう。
こんな異能力いらないからな、設定するなよ作者!
「街には人っ子一人いないでござるな」
「みんな、逃げたっぽいわけ」
確かに急いで何かから逃げたような感じで落とし物が散らばっている。
ドォン!
ドォン!
「さっきからうるさい音なわけぇ」
「音のするほうに行ってみるでござる」
いや、行かないほうが……。
って、俺を無視して壊れた壁から街に入る2人。
ドォン!
「これって足音なわけ!?」
「かない大きいモンスターが街を破壊しているでござるか?」
いや、やめて!
それ以上は言わないで!
フラグ立てちゃダメだから!
ドォン!
バリバリ!
「あのタワーの向こうに何か見えるでござる!」
「あ、あれって……」
いや、見たらだめだ!
特に愛輝、お前はそれをよく知っているから特に見るな!
「はわわわわ! あれって、昭和の映画で見たことがあるでござる!」
そ、それ以上は言うなぁぁぁ!
ドォン!
ドォン!
アーオォォン!
こんなときに、その独特な咆哮はやめて!
「あれが何か知ってるわけ?」
「あれは怪獣の頂点に君臨する者でござる! その名も……ゴジ……」
「はぁぁぁい! 愛輝君、ちょっと黙ろうか!」
ヤバい!
なんで、こいつがいるんだ!
しかも、すでに街を壊しながら北上中じゃないか!
あのタワーが無傷なのは不幸中の幸いだが。
「愛輝、まだダリアは街の中心にいるのか?」
「大丈夫でござる。動いていないようでござるよ」
まさか、放っておかれたのか。
だが、ならず者共がいないこの状況ならむしろ好機なのかもしれない。
ドォン!
ドォ……
あれ?
怪獣の動きが止まった?
そのまま、前進してどこかに行ってくれ。
クルッ
怪獣がタワーの方を向く。
そして、口を開けている。
ま、まさか……!?
「あのポーズは!? 口から熱線でござるか!?」
だから、フラグやめて!
怪獣の背鰭が光り始める。
ヤバい!
タワーを壊したら、自重で地下も壊れてしまう!
その時。
ズッ!
バァァァン!
怪獣の片足が真っ二つに斬れ、倒れる。
「いったい、何があったわけ?」
「何かが怪獣を攻撃した?」
「ふむ、あの怪獣の王をたかが人間がどうこうできるとは信じられないでござるが」
いや、あの足の斬れかた。
俺は何度か見たことがある。
「とにかく、ユーナちゃんたちを助けるわけ!」
「そ……そうですね」
「ダリア嬢――今こそ100万ゼニカを渡すでござる――!」
怪獣とタワーの距離はそれなりにある。
帰りはルーシィさんのテレポートがあるし、急いで向かえば何とかなるか?
怪獣の動きも注意しながらタワーを目指す。
「あれって……怪獣の足が再生してきてないわけぇ?」
「あいつは怪獣の姿をしたスライムなんです」
「何ですと――、あれでスライム!? 素晴らしい造形美ではござらぬか!?」
……愛輝はあれを作ったマッドサイエンティストと気が合いそうだな。
ズバァァァン!
足が再生し終わり再び立ち上がろうとするものの、また足を何者かが切断する。
俺の知っている奴なら、あれが倒せないのはよく知っているだろうからな。
足を切断し、動きを止めるのが一番だろう。
「ひぃひぃ! 小腹が空いてきたでござる」
「あと、少しだ! 頑張れ!」
ザッ
「……誰?」
タワーを目前にしたところで何者かが侵入を拒むかのように立ち塞がる。