この魔界はどこかおかしい5
メテオが落ちてくる。
もう、逃れる術もない。
諦めたそのときだった。
パァン!
凄まじい光に辺りが包まれる。
これが衝突の瞬間なのか?
すさまじい突風が起こり身体が飛ばされそうになる。
「うわぁぁ!」
「あ――、まさかこんな終わり方するなんて」
「へっ、どいつもこいつも死ぬときゃ死ぬんだよ」
飛ばされないように必死に地面の割れ目に手をかける。
「おい! 残ってる奴ら、あたいを守りやがれ!」
「「了解!」」
雪の命令で、俺たちの周りに人形機動兵器が壁となり突風や飛んでくるものから守ってくれる。
地球が終わるかもしれないのにこんなことをされてもどうしようもないのだが。
凄まじい光はゆっくりと消えていき、視界が開けていく。
「えっ?」
「わぁお!」
「…………へっ」
青空が広がっている。
メテオはどこに行ったのだ?
「こりゃ、驚いたわ」
ルーシィさんも唖然としている。
正直、何が起きたのかわけがわからない。
ルーシィさんも同じなんだろう。
「驚かせやがって。お前らは帰っていいぞ」
「「了解しました! 姐さん!」」
雪が呼び出した軍人たちも目の前から消え去った。
荒れ果てた大地には俺とルーシィさんと雪のみがいる。
何が起こったのか、この場にいる全員は知る由もなかった。
「ま……まぁ、ラッキーってわけで」
「そ……そうですね。わけがわかりませんし」
「あたいは少し休ませてもらう。おい、あんちゃん。ちゃんとあたいを守れよ」
「はっ、了解しました! 姐さん!」
あれ……今、俺なんて言った?
雪はすぐに深い眠りに入っていった。
起きたときには雪の人格に戻っていることを祈ろう。
おんぶをして移動を始める。
「さっきの集落に生き残りがいないか調べるわけぇ」
「雪が守った、子どものゴブリンも心配ですね」
崖の下にある集落に行くと、あまりにも酷い光景が眼前に広がる。
ルーシィさんは何も語らず、生存者を探し始める。
「ひ……ひぃ! また、人間だべさ!」
生き残りのゴブリンと目が合うがすぐに逸らされてしまう。
小さな風穴から顔を覗かせていたが、あの中に隠れているのか?
「あっ、待って!」
「なになにぃ? 誰かいたわけ?」
「ええ、そこの風穴から」
「行ってみるわけ」
ルーシィさんは風穴の近くまで行き、穴に向かって声を出す。
「ちょっと――! 村長のンマニエルいる――?」
なるほど、この村の村長と知り合いだったのか?
少し、待っていると一人のゴブリンが顔を出して、こう答える。
「あ、あんたら……勇者共の仲間じゃないのけ?」
「違うわぁ、それより村長はそこにいるわけぇ?」
「さっきの襲撃でかなり酷い怪我をしたべさ。この穴は非常時の隠れ場所になっちょるが、大人でもせいぜい五人が限界でよ」
「あらそう、治療するわぁ。あっし、趣味で看護師やってだかんねぇ」
「だ、だけんど……人間だべ……信用できん」
「村長と知り合いのあっしが敵なわけないっしょ? 頭を使うわけぇ」
「……わ、わかったべ。村長を助けてくんろ」
ルーシィさんは一人のゴブリンと一緒に風穴に入っていく。
狭く入れる人数にも限界があるとのことで、俺はここで待っているように言い渡されたから大人しく待つことにした。
「すぴ――……」
雪は俺の背中で静かに寝ている。
こらっ、涎を垂らすな。
可愛いから許してやるが……。
だけど、今回のことでわかった。
主人格の雪は相手を操ることができるが、バトルでは別人格の雪による圧倒的な物量で押し切るほうが良い。
閉所では実践的では無い作戦だが、逆に埋め尽くすほどの舎弟に守ってもらいやすくもある。
問題点は雪が作戦とかそういうものは一切言うことを聞かないことだ。
自由すぎる性格のため、正直、使いものにならないこともわかった。
結果的に使徒の一人を倒した事実もあるが、やはりそれだけでは駄目だ。
ユーナや欽治も十分すぎるほど自由人だが、雪よりは指示が通りやすい。
人を使えるかどうかで見極めてしまう俺の悪い癖だろうが、生きるためには使えるものは使う。
普通な俺ならではの人をうまく使うことでこれからはやっていかないととても生き残る自信がない。
今後の立ち回りにそのときにいる仲間をどう使うか要検討だな、これは。
「おまた――」
「ルーシィさん、治療は?」
「終わったわよ。すぐに目を覚ますと思うし、少し待ってるわけ」
少し落ち着いたことだし、今の時間でルーシィさんに聞いておきたいことがある。
「ルーシィさん、実は……」
あれを夢と言ったら良いのかどうかわからないが、一か月間、意識を失っているときに感じたことを聞いてみた。
「龍を識る? それを謎の声が言ったの?」
「幼い頃におふくろから聞かされたこともあるのですが、俺の世界に龍って実在しないんですよ。だから、意味がわからなくて」
「逆に龍に識られたら、どうなるかシィーちゃんは言ってなかったわけぇ?」
「識られる? いえ、それは無いですね」
「じゃぁ、悪龍のことを言ってるわけじゃないわけか……」
ルーシィさんがぶつぶつと何かを言いながら考え出した。
やはり、何か大きな意味があるのか?
俺にもチートな力なら最高なんだけど……。
えっ、タイトルに反するからそれは無い?
酷いなっ!
俺の希望も少しは聞いてくれよ!
「以前、言ったと思うけど、東の大陸には神族がいるわけね」
「あ……はい。それは聞きました」
「神族の中でも、ちょっと変わったっていうか何ていうか……とにかく龍神族ってのがいるわけ」
「龍神族ですか?」
「その龍神族って人族や魔族は当然ながら神族ともほとんど関わらない一族でね、謎が多いわけ。もしかしたら、シィーちゃんが識れって言ったのは、龍神族に関わっているかもしれないわけ」
他種族とほとんど交流の無い一族か。
それなら、確かに謎が多そうだな。
おふくろが俺にそれを託したのも何か理由があるんだろうけど。
「何で俺の名に付けるほどこだわったとかわかりますか?」
「う――ん、あっしも龍神族と会ったことないしぃ、そもそも会えるのかって話になるしぃ」
「それってどういう……」
「この世界のどこかにいると思うんだけどね、誰も知らないわけでぇ」
「おふくろや神族でもですか?」
「そそそ」
これは変な話だな。
誰も知らないのに、その種族が存在するってなんで確信できるんだ?
昔はいたがすでに滅んだとか?
それなら、識ることもできないか。
「すでに滅んだ一族ってことは無いのですか?」
「どうなんだろぉ? こればっかりはあっしも知らないわけぇ」
これに関しては今はどうしようもないみたいだ。
あまり深く考えても何も進展はしないだろう。
「おお――、ルーシィ殿……ゴホッゴホッ」
風穴から年老いたゴブリンが若いゴブリンの肩を借りて出てきた。
この人が村長か?
「ンマンマ、元気になって良かったぁ」
「ふぉっほっほ、ルーシィ殿。どうやら儂の怪我を治療してくれたみたいで……おおっ!」
村長が驚いている。
何かあったのか?
「そ、空が青い! いったい、どういうことじゃ?」
「あ――、これね。そこの子がちょっちねぇ」
「なんとっ!? そなたらは救世主様か!? まさか人間の救世主が現れるなんてのぉ」
いや、勝手に決めないでくれ。
太陽を覆い隠していたメテオが消えたの俺たちの仕業じゃないし。
って……えっ、救世主?
「まさか生きている間に青い空が見れるとは思わなかったですぞい」
「きゅ……救世主?」
「でも、さっきの悪党のような恰好してないッスよね?」
「ああ……幼女はいいが、男のほう雑魚っぽいよな」
おい、外野!
誰が雑魚っぽいだ!
「以前の大戦でこの大陸が闇に包まれてから草木は枯れ、農業などとてもできぬ状況だったのじゃ。まさか、また日の目を拝める時がこようとは、救世主殿、ありがたやありがたや」
ちょ、ちょっと!
拝まないでくれ、俺たちは本当に何もしていなんだ。
……でも、悪い気はしないんだがな。
「ま、まぁ……この魔界の住人たちのためにあの邪魔な……石っころどけただけ……ですけど」
……あれ?
何を言っちゃってるんだぁ、俺は!?
こんなホラ吹き野郎は俺のキャラじゃない!
ほんの出来心だったんです!