このラスボスはどこかおかしい7
ドレイクとユーナがグランディアに向かって30分ほど後の出来事……。
ユーナタウンのとある店で闇に堕とした人族の記憶を再度読み取り、この街の概要を知る。
ほぅ、リュージが?
くすくす、わずか数年間でここまでのことを成し遂げるとはね。
ダークドールでユーナたちを呼び出せない原因は分からないし、私もこの世界の数年間の出来事については情報が少なすぎる。
だが、半日もあればこの世界の今の状況を完璧に把握することなど容易いわ。
「タナトス様、あの兵士たち……殺りますか?」
「くすっ、再びシャドウドラゴンで街ごと消してやりましょう」
「はっ!」
ヒュン
上空に跳びレベッカをドラゴンの形に変化させる。
「お、おい……空に何か居るぞ?」
「ド、ドラゴンだぁぁぁ!?」
「漆黒のドラゴン? ってかあの構えは……」
「ブレスが来るぞぉぉぉ!」
キャァァァ
ワァァァァ
街の者たちも気付き始め少しずつパニックが広がっている。
くすくす、この瞬間だけは相変わらず楽しいわね。
見苦しく生きようとする哀れな人族ども闇に消え去りなさい。
「パパ……ユーナちゃん」
「ドレイクしゃま……どうかガイアだけでもお守りくだしゃい」
「まさか、ドラゴンブレスだなんて……ドレイク様、申し訳ございません。領民を守れませんでしたわ」
「勇者様とユーナがここに居なかったことだけが幸い……か」
「いきます! 闇龍のブレス!」
カッ!
ズッガァァァァン!
街が巨大な闇属性の沼に変わり果てている。
呆気ない終わり方ね。
さて、これでリュージの行き先を知れる。
……ふぅん、魔界にあるグランディアね?
今から向かうとしてもこれほどの時間を取ってしまったことに苛つきを隠せない。
自分の身体の違和感にまったく気が付かなかったため起きてしまった事態なのだが……くそっ、まさか魔力欠乏症で数年の間眠ってしまうなんてね。
けれどその間はこの世界を自由にさせてきた……これからよ。
「くすくす……ぷーくすくすくす、そうよ! 束の間の平和を味わったのなら、もう十分でしょう?」
「タナトス様、遂に始めるのですね?」
「くすくすくす、アポカリプスを始動させるわ。世界を終わらせる!」
ズズズッ……。
消滅したユーナタウンを見下ろし改めて決意する。
アポカリプスは神々の戦争であるラグナロクとは違い全ての終わりを意味する。
シャドウドラゴンのブレスで虫けら一匹残らず全ての生命を闇に堕とすとしよう。
ただ、そのためには魔力がどうしても足りなさすぎる。
「タナトス様、この調子で勇者の居城であるグレンも消し飛ばしましょう」
グレンか、あそこに雪が居ることはユーナタウンの者を取り込んで知った。
今の勇者は自身を魔王と名乗り相変わらず様々な街をならず者たちに襲わせているらしい。
ま、勇者だろうが魔王だろうが私にとっては雑魚に違いない。
それよりも雪の情報をこんな形で入手できるなんてね。
「そうね、まずはグレンを真っ黒に染めましょうか」
「ああっ、私の念願が遂に叶うのですね!」
「私は貴女の背中で休ませてもらうからグレンまで普通の速度で向かいなさい」
「はっ!」
シャドードラゴンの背中に乗り身体を少し休ませる。
だが絶対に眠ってはいけない。
魔力欠乏症にはまだ陥っていないが同じ轍を踏みかねない行動は慎むべきだ。
ドラゴンブレスはその強大な威力と引き換えにこちらの魔力消費量も尋常ではない。
雪の能力を手に入れて全ての生物を人形化させ互いに殺し合いさせるのも悪い手では無いだろう。
これから、闇に堕とす者たちの優先順位を付けるとすれば雪・欽治・杏樹・リュージといったところか。
リュージは本来なら殺すだけで十分なのだがユーナやニーニャ・ルーシィに持たせた龍神の御霊を持っているようだし闇に堕とす必要がある。
ダークドールで作る眷属もレベッカ一人では心許ないか?
ユーナタウンでそれなりに役立ちそうな者は居ないか?
堕とた者を一人ひとり探すのは面倒なのよね。
リュージの妻であるスイレンにローズ……ほぅ、こいつらもと悪魔か。
だが、平和慣れの影響なのか元から弱かったのか対して戦力にはならない。
娘のウンディに息子のガイアも居るのか。
くすくす、リュージの子を眷属にするのはあいつの怒りに満ちた顔が拝めそうで楽しそうね。
「ダークドール……ウンディ、ガイア出てきなさい」
ズズッ……ドロッ
うん?
形がうまく形成できない?
放ったブレスの衝撃波で人の形が木端微塵になった後で闇に堕ちたためか?
これはグレンですぐにブレスを使うのは止したほうが良いな。
雪だけでも普通の闇魔法で堕としてからブレスで街ごと消すべきね。
数十分ほどしてグレンの象徴である巨大なタワーが見えてきた。
「ここからブレスで一気に終わらせてもいいですか、タナトス様」
「その前に直接会って闇に堕としたい相手が居るの。私が指示を出すまでここで待ってなさい」
「タナトス様、私は貴女様を側でお守りすることが生き甲斐なのです!」
「あーはいはい、そうだったわね。だったら人間の姿に戻って付いてきなさい」
「はっ!」
近くの森に降り、そこから徒歩でグレンに歩みを進める。
グレンに近付くほど悪臭が漂ってくる。
「酷い臭い……これって」
「門兵も居ないし扉が開いたままね」
門をくぐるとそこはまるで地獄絵図のようだった。
至るところに人の死骸や骨が散らばっている。
誰も後始末をしていないために腐敗が進んでいる。
悪臭はこのためか。
地面は一面赤黒く染まっており店の窓や壁にも血が染み付いている。
「なんですか、ここは……こんな場所が勇者の居城なのですか!?」
人っ子一人見当たらない。
昔はこんな場所では無かった。
一体、何があった?
プォォォォン
勇者城、もとい悪魔城の方からサイレンが鳴っている。
何者かに強襲でもされているのか?
雪を間違っても惨殺されでもしたら困るわね。
「レベッカ、手を掴みなさい。どうやらゆっくりしている暇は無いようだわ」
「はいっ!」
ヒュン
レベッカの手を取り能力で一気に勇者城の見えている一角に跳ぶ。
「ひぃぃ! もう、嫌だ! 俺も魔王軍から抜ける!」
「おい、貴様ら! 逃げる気か!」
「お、俺ももうたくさんだ! あんなイカれた女に従うなんてまっぴらごめんだ!」
どうしたというのだ?
配下であるならず者たちが悪魔城から大勢出ていき街の方へ走って逃げていく。