このラスボスはどこかおかしい6
「ナデシコ……うまくやったみたいですねぇ……」
師匠、いつの間にナデシコと仲良くなったんだ?
「ん、水龍神の御霊も取り替えておいた。ドレイク、これを」
ポゥ
ナデシコが懐から取り出したのは淡い水色の光を放つ水晶玉だ。
中から龍神の気配を感じる。
『水龍ちゃんだにゃ!』
『ええ、間違いないわ』
『ドレイク早く中に』
水龍神の御霊をナデシコから受け取り体内に入れる。
『ん、んん……ん? ハァイ、お久しぶりデース』
『水龍ちゃん、水龍ちゃん!』
『オゥ、相変わらずデスね――ふぅ君』
『水龍神、勝負するッス! 火が水より強いところを見せてやるッスよ!』
『起きたばかりだし今はダメデース』
俺の中で同窓会をするのは相変わらずか。
ああ、五月蝿い。
それよりここはどこなんだ?
「ナデシコ、ここは?」
「ん、まだ短距離ジャンプしか出来ないためドワーフ国へ跳んだ」
「ドワーフ……国があるのは知っていたが場所までは掴めていなかった」
「ずっと昔からミミと一緒に探していたの」
「ほんまにこんなとこにあるなんてうちらも知らんかったわ。灯台下暗しやな」
「母さんも無事で良かった」
ナデシコに聞くとドワーフの国はグランディール大陸の南部、ピグミーの漁村があった海岸の近くの洞窟から行くことができるようだ。
そうか、俺が転生してこの地に捨てられていた時にナデシコに拾われたが、あの時に探していたものがドワーフ国だったのか。
ドワーフは地下で生活するため、地上で殺戮の限りを尽くしていた勇者軍からも発見されることは無く安寧な日々を送れていたようだ。
さらに以前のグランディアと同じように他国と関わりを持たなかったのが功を奏したのだろう。
情報がなければならず者に見つかるわけがないものな。
「侵入者かと思ったらオマイラか……」
「ん、久しぶり。ヘッケルン」
一人のドワーフ兵が武器を手に俺たちの近くに歩み寄る。
手に持っている武器は淡い光を放っている。
あれって、もしかして魔法が付与された武器か?
「また余計な者まで連れてきよって……」
「少しの間でいいから場所を借りられない?」
「怪我人も居るようじゃし良いじゃろ。付いて来い」
一つの古民家に案内され、そこでユーナが師匠の治療を開始する。
ファフとニーズも応急処置に近い状態だし危険なのは変わりがない。
「あの……ヒーラーは居ませんか? ユーナ一人では負担が大きくて」
「お兄様、ユーナなら大丈夫」
「ヒーラーなどここにはおらんよ。儂らは屈強なドワーフじゃ。回復アイテムならいくつか譲ってやる」
「ありがとうございます」
「オマイラも少し休め。ここは安全じゃ」
「ん、あたしはまだやることがある。ドレイクは休んでて」
「そうだな、お言葉に甘えるよ」
隣の部屋の床で横になるが脳裏に焼き付いたあの遺跡のことが頭から離れない。
何とか逃げれたのは良かったがこの先どうする?
破壊神を相手にするなんて想像もつかない。
欽治の状態は破壊神に憑依されている状態だと過程すると破壊神を退けさせれば……いや、それでは問題の解決にならない。
神そのものがこの星を不必要だと思っているようだし……ああもう、解決の糸口さえ見つからないじゃないか!
「ええっ! そんな……」
「ドレイクにはまだ伝えないほうが良い。あいつは冷静を装っているけど短気だし確実にここから飛び出す」
ユーナとナデシコめ、俺に内緒で何をコソコソと話しているんだ?
壁が薄いせいか普通の話し声でもある程度は聞こえてくる。
そういえば、ナデシコはどうして水龍神の御霊を持っていたんだ?
『オゥ、その話をするデース』
『話さなくても同期して伝えたほうが効率的』
『対話は必要にゃ』
水龍神が俺に詳細を話してくれた。
師匠がタナトスの目的の一つに龍神の御霊を回収することだと知って、唯一在り処を知っている水龍神の御霊の回収をナデシコにお願いしたようだ。
そして、水龍神の御霊が置かれたいた場所に偽の御霊も置いてきたらしい。
これで6属性では氷だけになるが氷龍神の御霊はタナトス自身が所持している。
あの遺跡で今も破壊神と戦っているならタナトスは確実に敗れるだろう。
破壊神がそのままにして去ってくれるのを待つべきか?
「ん、それじゃ行ってくる」
「ダリアさんを助け出せるのですか?」
「方法はいくつかある」
ナデシコはやることがあると言っていたがまさかあの遺跡に戻るつもりか?
……あいつならどうにかできそうだし任せるか。
俺が下手に付いて行ってもフラグが立つだけだしな。
……いや、だがもしものことを考えると心配だな。
『ドレイク、貴方は動かないほうが良いわ。その身体にすでに5属性の龍神を持っているのだから敗れることは許されないの』
『タナトスによって闇に沈んだら形勢逆転されてしまうにゃ』
ま、そうだよな。
タナトスが光龍神以外の御霊を持つことに繋がるし俺が近付くのはまだ先のほうが良い。
『光龍神……始祖が神のツールだと言うのならドレイクが手に入れられるものなのか不明』
『でも光属性は得られるはずだわ……って、ああ!』
『どうしたッスか?』
『光龍神の卵、無事かしら?』
ふぁっ……あああ、そうだったぁぁぁ!
子どもたちを救って逃げるのに夢中で完全に忘れていた。
ブラックホールに飲み込まれていないよな?
いや、だがアースドラゴンが闇に侵食されていっている以上はあの遺跡もすべて闇に堕ちる。
ナデシコはまだ向かっていないか?
俺が行かなくてもナデシコに頼めば……急いで起き上がり隣の部屋に向かう。
ガラッ
「ナデシコ!」
ヒュン
オウマイガー!
間に合わなかったぁぁぁ。
「お兄様?」
「どうしたですぅ? 拙と交わるですかぁ?」
まだ五体不満足なのに性欲だけは相変わらずなんだな師匠。
って、それどころじゃない。
「師匠、遺跡に光龍神の卵が置いたままなんだ!」
「行ってはダメですよぉ」
「だって闇に飲まれたらタナトスを相手にできなくなるぞ!」
「あ、あの……お兄様」
「ユーナは師匠の治療に専念していてくれ!」
「ドレイク、ナデシコに迷惑かけるから行ってはダメですぅ。待っている間に拙と交わったほうが生産的ですよぉ」
「自分が楽しみたいだけだろうが!」
「お、お兄様……」
「ユーナに治療してもらっている身だし、そもそも妹の前でそんな話題をするな! 俺は行くぞ!」
「お兄様!」
「さっきから何だ! 光属性が無いとこの先……」
「ユーナがナデシコさんに卵の回収はお願いしておいたの!」
な、な、な、なんですってぇ!?
なんて気が利く妹なのでしょう!
俺ってば一人で騒いで恥ずかし――!