このラスボスはどこかおかしい1
アースドラゴンの居る方向に向かって進むとアチラコチラで地割れが起きている。
アースドラゴンが絡み合って大陸を作っているため、その一頭が離れただけで他の七頭に悪い影響を与えているようだ。
「お兄様、あれ!」
ユーナが指差す方向を見ると大きな土煙が上がっている。
アースドラゴンはその巨体さ故に全貌を把握できない。
あの土煙はアースドラゴンの歩行で発生しているものだな。
欽治を探すのもかなりの手間だしどうすれば良い?
「遺跡……お兄様、遺跡に向かって。ユーナが見た未来の背景が遺跡だったの」
そこで良くないことが起こるっていうわけか。
正直、その未来を起こさせないようにするには俺が遺跡に行かなければ良いだけだ。
フラグ発生の前提条件さえ崩してしまえば、その事象は起きないしな。
『それは無理。ドレイクは必ず遺跡に行くことになる』
『遺跡って言えば光龍ちゃんの卵があるにゃ。あれにもしものことがあると後々不味いことになるにゃ』
そう言えばそうだったな。
でも、あそこにはファフとニーズが居るし……。
『あの子たちの身に危険が訪れるのかもね。それでも行かないつもり?』
なるほど……未来を簡単に覆せないってのはこういうことか。
ユーナが俺に知らせてくれなくとも欽治を探す途中で遺跡に行っていた。
俺の思考的にファフとニーズに欽治を見ていないか聞くために向かうだろうしな。
だったら少しでも早く辿り着いたほうが良さそうだ。
「遺跡は……グランディアの廃墟から察するにあっちか」
ビュン
雷神状態での速さは本当に役立つ。
坑道の入り口前を見つけ立ち止まる。
「お兄様、遺跡に行かないの?」
「行くよ。でも霹靂一閃は坑道内では危険だからな」
曲がりくねっている坑道内で壁に激突するわけにはいかない。
自動車が急に曲がれないのと同じだ。
どうしてもこういう場所では速度が限られてしまう。
「ノーマルフォーム……」
雷神化状態を解除し本来の俺に戻る。
ユーナの身体がひんやりしていて心地いい。
雷神状態ではその体温を感じることが余り出来なかった。
『あらあら変態さんね』
『違うにゃ、シスコンだにゃ』
『炎神化すると一気に解かすことができるッスよ』
いやいや、炎龍神はどうしてユーナに対して当たりが強いんだ?
俺の大事な妹にそんな事するはずがないだろ。
ユーナを抱えたまま坑道内に走って入る。
「お兄様、ここから先はユーナも歩ける……から、えっと……その」
そうだな、いつまでもお姫様抱っこっていうのは俺も両手が塞がってしまうし……失敗したな、ユーナは動きやすい服ではなくドレス姿のままで装備は杖だけだ。
ユーナが治める街ということで身嗜みをそれなりにしっかりさせているのはホークからの指示だろう。
人々の想いを封じる手段も無い状態で連れてきてしまったし色々と急がないといけないよな。
唯一の装備品と言えば、ずっと手に持っている杖はなんだろう?
見たことのないデザインだが殴打武器にも使えないほどの様々装飾を施している。
「ユーナ、ずっと手に持っているその杖は?」
「お母様が作ってくれたの。外出するときはずっと持っていなさいって言われていて……」
ホークが作った?
立ち止まり杖を見せてもらう。
スンッ……
杖に触れると身体の周囲にずっとつきまとっている人々の思念を感じなくなった。
ユーナタウンの中に入ったときのような感覚と似ている。
もしかして小型のデザイアキャンセラーでも搭載されているのかな?
ホークには昔から本当にお世話になっているよな。
この発明は後々の神族に多大な影響を与える。
人々の思念によって心が穢れていくことも無くなるのだ。
それは人族との共生が可能ということに繋がる。
既に手遅れの神族たちに持たせたらどうなるのかは試してみたいよな。
といっても、ほとんどの神族はタナトスに駆逐されたようだしこれからも誕生していくだろう神族たちに持たせるほうが優先だな。
「ユーナ、ありがとう。もう少しで遺跡だし後ろから付いて来てくれるか?」
「うん!」
ユーナと一定の距離を取り俺が先行する。
ドォォォン!
ズガァァァン!
戦闘音?
何者かがファフたちと戦っているのか?
ちっ、欽治を探すことを優先したいのに余計な侵入者まで居るなんて……もしかしてこれがフラグか?
遺跡の入り口から中を覗いてみる。
「あはっ!」
ドゴォォォン!
俺は目を疑った。
中で暴れているのは欽治だ。
アースドラゴンを倒すのにご乱心しているはずでは無かったのか?
と言うより欽治が相手をしているのは……。
「欽治、いい加減に止まるですよぉ!」
師匠だ。
バハムートが欽治と戦っている?
俺はミャク島で見た遺跡のことを思い出す。
「おいおい、ここでその状況が来ているのかよ……」
欽治を全力で止めなければいけない。
師匠も欽治に倒され世界が滅びてしまう。
『あの女性ってもしかして……』
『おいらたちの欠片が生物化した種族だにゃ』
風龍神以外はまだ出会ったこともないんだよな。
ドラゴン種のいくつかはこの世界を支える重要な存在だ。
それを趣味で狩りまくった欽治が世界を滅ぼすとミャク島の遺跡には書いてあった。
ヤマタノオロチも倒された今、残っているのは師匠だけだ。
あの遺跡によれば師匠もいずれ殺られてしまう。
これだけは絶対に止めなければいけない。
「あは、あはははは! もっと! もっとぉぉぉ!」
欽治は完全に狂乱状態で聞く耳も持たない状況なのは一目で分かる。
「ファフ! 母ちゃん、ファフが息してないよぉ!」
遺跡の奥で倒れているのはファフ!?
一体、何があった?
ニーズも血だらけで……もしかして欽治の仕業か!?
「ニーズ、ファフを連れてここを出るです!」
「母ちゃんを置いてなんて嫌だ!」
「ニーズ!」
「あははは! 五月蝿いドラゴンめ!」
ドスッ!
欽治が狙いをニーズに定め一気に距離を詰め刀で腹部を貫く。
「いっ……つぅぅぅ!」
「母ちゃん!」
縮地でニーズの下に駆け寄り欽治の斬撃を受け止める師匠。
だが、狂乱状態ですべてのリミッターが外れている欽治の馬鹿力を片手で受け止めれるわけも無く……。
ズシャァァァ!
「ふぬぬぬぬぬ……」
師匠の右腕が残虐的に両断される。
ピキン!
「お兄様? 中の状況は……お兄様?」
俺の後を付いてきたユーナも遺跡の中を覗く。
「ユーナ、ここから動くな」
「お兄様、いけない! 行っては……」
俺にはユーナの声が届いていなかった。
怒りで完全にキレていたためだ。