このタウンはどこかおかしい8
やはり危険があると分かっている状態で一緒に行かせるのはどうもなぁ。
兄として心配だし、何より今のユーナはまだ幼い。
万が一の事が絶対に無いとも言い切れないし、もう誰一人として俺の知人をこの世界から失いたくないんだ。
「いや、やっぱり俺一人で……」
「パパ、まだそんなこと言って!」
「お……お兄様はいつまで一人で戦い続けるの?」
「えっ?」
「グランディアの滅亡もルカさんやローズさんと協力すれば防げたかもしれない。他にも仲間はたくさん居たのにどうして頼らなかったの?」
ユーナが真剣な眼差しで俺に問いかける。
「タナトスの眷属が相手では危険すぎる。触れるだけで死ぬんだぞ」
「そうやって大切な者を遠くに置いておくの?」
ユーナ、心配してくれているのは嬉しいが闇にお前たちを捕われるのはもう嫌なんだ。
「お兄様はずっと一人でタナトスからユーナ達を守ってくれるの? いつまでもそれが可能なの?」
「パパ! ユーナちゃんはね、パパのことずっと心配していたんだから! ユーナちゃんだけじゃない。あたしたちだってパパのこと凄く心配しているんだからね!」
うっ、そう言われると反論し辛い。
俺だってお前たちのことが心配だからタナトスから距離を取るようにさせていたのだが……これも言い訳か。
互いの想いのすれ違いって難しいよな。
『これから向かう先で驚異となるのはあの剣士くらいでしょ?』
『闇属性以外が相手なら連れて行ってもいいにゃ』
『フラグキャンセラーの威力を検証してみたいですし』
『この氷娘、解かしていいッスか? 解かしていいッスか?』
龍神たちまで……。
「はぁ、分かった。ユーナだけ連れて行く。これでいいだろ? ガイアの容態が悪いんだ。急がないと……」
「お兄様、ユーナの我儘を聞き入れてくれてありがとう」
「その次はあたしもついていくからね、パパ!」
「わ、私も守られるだけは嫌ですので戦います」
「その話はまた帰ってきてからにしよう」
ユーナの手を取り部屋の外に出る。
「「うぉぉぉ! ユーナ様だ!」」
「「ユーナ様ぁぁぁ!」」
街の住人がマンション前に集まっている。
ユーナめ、まさか普通に歩いてここまで来たのか?
「あのオスは一体誰!? ユーナ様の御手に気安く触れているあのクソオスは!?」
「男はユーナ様に近付くなぁぁぁ!」
あらやだ、フェミ軍団が何故か増えていないか?
と言うか、こいつらユーナの信者か?
「男だってユーナ様を信仰して何が悪い!」
「ユーナ様はこの街の守護女神様だぞ! 俺たちの信仰も力になっているのだからな!」
「はぁ? クソオスの信仰なんてユーナ様にとっては毒よ!」
「猛毒ね、クソオスどもが!」
「ユーナ様は私たちが守るんだから!」
はぁ、相手にしていられない。
男のことをオス呼ばわりする時点で結構ヤバい奴らだし。
それでメスって言い返すとさらに発狂するし……こういう輩は相変わらず無視するに限る。
「ライトニングフォーム」
バチッ!
「ユーナ、背中に乗れ」
「えっ? おんぶ……してくれるの?」
「あのクソオスめ、ユーナ様に股を開かせて何を考えているつもり!?」
「やっぱりオスは危険よ!」
「「そこのクソオス! ユーナ様から離れろ――!」」
お前ら、想像力豊かすぎない?
24時間脳内ピンクなのか?
おんぶするのに相手の両足を持たないと落ちるだろ?
それで股を開くって……あ――もう面倒だな。
「よっと!」
ユーナをお姫様抱っこし宙に浮く。
「あ、あいつ! ユーナ様をお姫様抱っこしやがったぞ!」
「なんて羨ましいんだ!」
男は男でこれかよ!?
「クソオス! ユーナ様の御足にまでその汚い手で触れるなんて!」
「天罰で死んじゃえ!」
なんか、俺だけにヘイト集まっていないか?
以前の子ども姿に戻りたくなってきたぞ。
『下々のことなんか放っておきなさい』
『あいつら燃やしていいッスか?』
燃やしたらさらに増殖するぞ。
ああいう差別主義者は手を出すと共感する相手が増えるだけだからな。
「じゃ、行ってくる。ユーナ、しっかりと掴まっておけよ」
「う、うん……」
「いってらっしゃ――い!」
「ドレイクしゃま、お気をつけて!」
バチッ!
霹靂一閃で南方に向かって移動する。
一瞬でグランディアがあった場所に到着するが未だにアースドラゴンは此処に戻っていないため大穴が空いている。
「お兄様、ここがグランディアのあった場所? どうして穴が空いているの?」
そういえばアースドラゴンがこの大陸の一部だってことは土龍神から聞いたが何頭で構成されているのだろう?
『全部で8頭よ。8頭が複雑に絡み合ってグランディール大陸になっているの』
「土龍神様、他の大陸もそうなのですか?」
ユーナが突然俺に向かって話しかける。
「ユーナ、龍神の声が聞こえるのか?」
「お兄様、そんなに顔を近付けられたら……恥ずかしい」
んもう、いちいち可愛い反応するな。
『さすが兄妹だにゃ。まさか、今まで聞こえていないふりをしていたにゃ?』
「はい、聞こえていることを周囲に知られると色々と画策する方も出てきそうでしたから。でも今はお兄様だけしか居ないので話しかけてみました……」
画策するってルカくらいしか思い浮かばないが……。
ま、龍神が俺の中に居る以上は俺の声がユーナに筒抜けになっているのと同じだ。
確かに周囲に知られるとユーナに悪い欲望を持って近付いてくる者も出てくるだろう。
『ユーナちゃん、話し相手が増えて嬉しいわ。さっきの質問だけれどアルス大陸もアースドラゴンによって作られているわ』
「ん? この世界って大陸は3つだよな。ガンデリオン大陸は?」
『あの大陸は事情が複雑でね。中心部から半分は自然にできたものよ。この星は本来なら大陸1割の海洋9割でスライムや水生生物しか住めない星だったの』
マジか……。
もともと陸生生物が暮らせるほどの環境では無いのを龍神たちが作り変えたから地球と同じように進化を遂げていったのか。
土龍神様々だな。
『おいらたちも大切な存在だにゃ!』
『土龍神は大陸を作っただけ。他は何もしていない』
『でも偉大な存在でしょ、ふふん』
「土龍神様、ここの大地を作っていたアースドラゴンはどこにいるのですか?」
『かなり動いているわね。元の位置に戻るように指示したのに逆方向に進んでいるわ』
おそらく欽治が押し返したのだろうな。
どれだけ馬鹿力なんだよ!?
いつも言ってるけれどチートや、チート!





