このタウンはどこかおかしい4
アレクサンダーのやつ魔王プレイを存分に楽しんでいるのかねぇ……。
「はぁ……下らない。ここで働いている者に給与を支払えない以上、今すぐに労働者を故郷へ帰せって言っても貴方の独断では止められないのでしょうね?」
「へへ、大将も分かっていらっしゃる」
誰が大将やねん。
ま、古墳が完成すれば終わるようだし俺たちにとっても何の害も無い。
俺はエターニャを連れてドリアドに向かっている途中だが巻き込まれてしまった以上付き合うのは仕方がないか。
「すぐに終わらせるから労働者に帰り支度をさせておいて下さい」
「はっ?」
土操作で設計図通りに古墳を作り始め10分ほどで完成した。
労働者もならず者たちもあっけらかんとしている。
「な……な、な、な、何が起こったんじゃ?」
「完……成……したのか?」
「俺たち帰れる?」
「はい、この村での仕事はすべて終了しました」
「「いやったぁぁぁぁぁ!」」
「「帰れるぞぉぉぉ!」」
「大将、ありがとうございます! これで俺も胸を張って魔王軍を辞めることができます!」
「辞める? どうしてなんです?」
「妃殿下の暴虐ぶりに魔王軍を離れる者が増えているのです。俺も使徒として選ばれてしまったため下手に辞められず、どうにかこうにか懇願しこれを最後の仕事として離れることを許可してくださいました」
普通に労働者だけでこの古墳が完成するのに数十年はかかっていただろう。
つまりジュドウに魔王軍を辞めさせるつもりは全く無かったということだ。
滅茶苦茶ブラックな企業になっているし。
「酷い……まさに魔王の手口ですね」
これも魔王のせい!?
悪と言っても下らない悪事ばかりで全然魔王らしく無いじゃねーか!
アレクサンダー、お前の考える悪はその程度なのかよ!
どちらにしても犯罪者であることに変わりはないしその時が来たら遠慮なく裁かせてもらうがな。
「貴方様は一体……」
「儂らの救世主なのじゃ」
んほぉ、こいつらの信仰心がめっちゃ伝わってくる。
暑苦しそうな筋肉だるまの男性たちでも信仰心に老若男女は関係ない。
心地良すぎて……ほへぇ。
「ドレイク様、何をニヤけていらっしゃるのですか?」
おっといかんいかん。
早くドリアドに戻らなければ。
「ただの旅人ですよ。皆さんも早く解散してください」
エターニャをおんぶし縮地で西へ飛ぶ。
ドォォォン!
「一瞬で見えなくなった……あれがただの旅人なのかね?」
「さぁ?」
ドォォォン!
「エターニャ、また疲れたら言ってくれよ」
「はい、でも随分と慣れてきました……ドレイク様、一つ聞いていいですか?」
「何だ?」
「どうしてさっきの人たちには自身が神であることを伝えなかったのですか?」
何故、あのような悪人を助けたのか聞かれると思ったが予想外の質問が来たな。
古墳を完成させたのはこの世界に大した害が無いことと労働者を救済するためだ。
何もならず者を全滅させて解決する必要は無いし、少し懲らしめて力の差を見せつけたら戦う気力も失っていたしな。
「ドレイク様?」
「ああ、そうだったな」
俺が神であることを伝えなかった理由は無闇矢鱈と大勢の人々に知られたくないためだ。
信者が多くなればその分信仰力も得られるが欲望という黒い願いも知らず知らずの内に取り込んでしまう可能性が高くなる。
純神と違いスライムの身体では無いため取り込んでも大した影響は受けないが毒素が蓄積され続けていくと俺も狂ってしまう可能性がある。
俺はグランディアの親しい領民たちから信仰されていればそれでいい。
神も欲をかきすぎては駄目なのだ。
信仰を広めすぎた結果が悪神化なんて悲惨な末路だしな。
「なるほど……そうだったのですね」
「だからエターニャもドリアドの町で出会う人たちには話さないでほしい」
「分かりました」
休憩を挟みながら3日ほどかけてドリアドの町にようやく辿り着いた。
アルス大陸の東端から横断したのは初めてだったが縮地のおかげで予想以上に早く到着したのは助かった。
「わぁ、高い鉄の壁……」
「霧の森が元に戻るまではここで暮らすんだ。さ、付いてきて」
以前までのドリアドの町にはユーナの結界が張られていたが今は違う。
頑丈そうな鉄壁に囲われ外からでは中の様子がまったく見えない。
「そこの君たち旅の人かね?」
門兵のゴブリン兵士が俺たちに話しかける。
俺が誰だか分からないのは当然だ。
なんたって外見が変わってしまっているしな。
「ええっと……」
ドレイクと言っても簡単には信じてもらえないだろう。
ルカかローズを呼んだ方が話が早そうだ。
俺の眷属だし姿が変わっていても俺の神力で誰だか理解してくれるはず。
『ルカ、俺だ。今、手が空いているか?』
『ド、ドレイク様!? 念話がまったく届かなく心配してましたのよ!』
またまたぁ、町の様子を知られるのは怖くて連絡しなかったくせに。
風龍神が突然、口を挟んできた。
『テレパスは相手の姿を意識しないと届かないにゃ』
え、まじで?
向こうから一切念話が来なかったのは俺の姿が変わってしまったためだったのか?
『今、門の前に居るんだが門番に通せんぼさせられていてな、説明のために来てくれないか?』
『今すぐですか? 私は手が離せないのでウンディを向かわしますわ』
ウンディだと?
あの子はまだ幼すぎるため、こんな大きな町の中で外にいると欲望を取り込みすぎる。
『まさかウンディをまた勝手に外出させているのか!?』
『大丈夫ですのよ。見ていただけると分かりますわ』
何か対策済みなのか?
しかし、2才児にお使いを出すって人族ではとても考えられないことだよな。
「門兵さん、少し待って下さい。知り合いが来てくれる手筈になっていますので」
「そうなのかい? では詰め所で待ってもらっても構わないよ」
「はい、そうさせていただきます」
詰め所に入ると町の中がちらっと見えた。
人族と魔族が仲良く共存できているようで一安心できたが、たった数時間でここまで馴染むとは凄いな。
住民の様子からもよく分かるが平和な状態を維持できているようだ。