このタウンはどこかおかしい2
俺はエターニャを背負いヘルヘイムの岬から大ジャンプで海を渡った。
距離的には500メートルほどの海峡だったし、縮地による勢いでジャンプすれば何とか届くと見込んでいたが思った以上に跳ばなくて途中で落下してしまったがな。
アルス大陸側に砂浜があって助かったよ。
「服がびしょびしょです」
「エターニャ、すまん。ノーマル状態の身体では力が全く出ないんだった」
「えへへ、気にしないでください。それより海水が塩っぱいっていうのは本当だったんですね」
「そうだな、あまり飲みすぎると喉が渇くから気を付けなよ」
ニーニャの知識はあってもエターニャ自身には未体験のことばかりなのだろう。
子どもらしく砂浜を駆け回っている。
「ドレイク様、あそこに何かありますよ!」
エターニャが指し示す場所を見ると小さな漁村があった。
ミスリウリ村の一箇所か?
アルス大陸の最東端に位置する村だったよな。
そして、闇ユーナと戦い勇者が魔王となった場所だ。
闇ユーナを倒すためにホークが核兵器を使いすべて消し飛んだはずなのだが?
まだあれから一ヶ月も経っていないのに復興は早すぎる。
「行ってみよう。服も乾かさないといけないしな」
「はい!」
漁村へ近付いてみる。
放射線のことは気になっていたが雷龍神が計測してくれたおかげで、この辺は通常値と何ら変化が無いと言う。
こっちの世界の兵器って地球より技術力が進んでいることもあるからびっくりだ。
未来の地球とも繋がっているようだし、そこからの技術なのかな?
でもな……存在してはいけない兵器であることに違いはない。
「ありゃぁ、誰かやっくるべ」
「子連れ?」
「魔王様一派じゃないようじゃ」
「そこの! どこから来た?」
村に人が戻っている。
それなりに人口はありそうだ。
「え、その……私たちは……」
「エターニャ、俺が話すから良いよ」
ガンデリオン大陸からやって来たとはさすがに言えない。
嘘も方便と言うし、ここは誤魔化すのが得策だ。
「俺たちは大陸横断の旅をしている者なんだ」
「ほう、旅人さんか? こんな時代に呑気なこった」
怪しまれてはいないようだ。
エターニャが居るおかげなのだろう。
「ここってミスリウリ村ですよね?」
「ああ、そうじゃ」
「小耳に挟んだのですがここで大規模な戦闘があったとか……」
「そうみたいじゃな。俺等も見ていないから詳しくは知らん」
「現地の方では無いのですか?」
「魔王様がこの村を無くすのは実に惜しいとのことで移住者を募ったのだよ。ここに住むだけで毎月100万が支給されると聞いてな」
なるほど……でも、今までは男なら見境無しに虐殺して回っていた奴がどうして?
金を払ってまで、ここに住まわせたい理由でもあるのか?
女性だけの村なら納得できてしまうのがアレクサンダーのやばいところだよな。
「けれど、来るんじゃなかったよ。ここは……地獄だ」
「ああ、帰りてぇ」
「旅人さんも魔王一派に見つかる前に去ったほうが良い。悪いことは言わん」
なんだかヤバそうな雰囲気だな。
余計なことに巻き込まれるのも嫌だし村人の言う通りにしよう。
『けれど、そうは問屋が卸さにゃいにゃ』
『村を見つけた時点でアウトよね』
うん?
何のこと……ああっ!
『フラグが立ってから357秒経過』
俺に課せられた呪いを忘れていたぁぁぁ!
どうする?
今すぐにでも逃げないと!
「ドレイク様? 急にどうなさったのですか?」
「エターニャ、一旦戻るぞ!」
ドンッ!
エターニャの手を掴み来た道を戻ろうと駆け出した瞬間だった。
「おおん? 新入りかぁ?」
「ジュドウ様! こ、これはサボっていた訳では……」
ぎゃぁぁぁ、出た――!
久々のならず者さん、ご登場でぇぇぇす!
ガシッ
「きゃっ!」
「これはこれは……子連れで移住してくるとは」
エターニャの首筋を掴み軽く持ち上げるならず者。
身体の大きさは縦も横も俺の何倍もある。
人間なのに人間サイズではない大男だ。
髪型はスキンヘッドで棘付き肩パッドも相変わらずだし。
だが、それ以外にもあの長い耳……。
「げっへへへ! 褐色肌の美少女連れたぁ兄ちゃん中々良い趣味……ああん?」
「ひ……ひゃっ」
ならず者がエターニャの耳を触る。
このセクハラ野郎め!
俺だってお触り……げふっげふん!
「褐色肌のエルフ? こいつ……ダークエルフか! 汚物じゃねぇか!」
ブンッ!
エターニャをまるでボールを投げるかのように勢いよく砂浜に向かって投げる。
「エターニャ!」
ガシッ!
危機一髪でエターニャをキャッチしたが勢いが止まらない。
なんて馬鹿力なんだ、このならず者は!
ヒュゥゥゥ……ドゴッ!
「いててて……」
「か、神……ドレイク様、ありがとうございます!」
「大丈夫か? あの野郎め、やってくれたな」
ノーマルフォームだとすべてのステータスが一般人の平均程度まで落ちる。
砂浜のほうへ投げてくれたおかげで衝撃がそれほど無く俺も耐えられた。
「ダークエルフがどうしてここに居る!? エルフは美しい純白肌であるべき存在を否定する我らエルフの面汚しがぁぁぁ!」
あんたもやっぱりエルフかぃ!
その長い耳から何となくそう感じていたけれど、エルフのイメージを汚しているのは巨大メタボ体型のてめぇのほうだろうが!
「エターニャ、気にするな。ああいう差別主義者はどこにでも居る」
「分かってます。こういう場合の対処もニーニャの記憶で……でも、うぅぅ」
そっとエターニャの頭に手を当て慰める。
誰かに罵倒されるのはこれが初めてなのだろう。
煽り耐性が弱いことはダークエルフの民を見ていて分かっていたが、エターニャはまだ子どもだ。
これがトラウマになって他種族を嫌いにならないでほしいし、純エルフに迫害されていた歴史を考えるとこれからもエルフにだけは目の敵にされるかもしれない。
俺がお手本とならなければいけないし、暴力で解決するとそれはそれでエターニャにとって良くない知識を与えてしまう。
『殺るかにゃ? あいつは綺麗なエルフとは程遠いにゃ。おいらも力を貸すにゃ』
いや、だから暴力的な解決はまだしないって!
口で言っても理解できない相手なのは目に見えているし何より完全な悪党だ。
最初の手本となる相手が一般人なら良かったのだがならず者にはきついお仕置きしか無いのも事実なんだよなぁ。
「エターニャ、そこで休んでいろ」
「はい、その前に……そこの貴方! ダークエルフを馬鹿にしている割には貴方もずいぶんとその白い肌にシミが多くて汚い肌をしていますね。このメタボハゲ!」
やだっ、もぉう!
エターニャちゃん、全く分かっていないしぃ!