この雷はどこかおかしい16
「神様、ユーナさんやダリアさんは?」
俺は頭を横に振った。
「まず俺が何故ニーニャさんのことを知っているか話そう。そうしないと信じきれないだろ?」
「あっ……はい。でも何となく察しは付いています。これはニーニャの記憶からなのですけれど」
えっ、マジで?
いやいや、まさかリュージであったことまでは考えられないだろう。
「ほぅ、それは興味深いな。俺が誰だか言ってみ」
「ニーニャの記憶を引き継いだ私と同じだと考えています。リュージさんという方の記憶を引き継いだ神族か、それに近い存在……」
うわっ、何という洞察力。
殆ど当たってるじゃねぇか。
「どうしてリュージだと確信しているんだ?」
「これもニーニャの記憶からなのですが、ニーニャさんと呼んでくれた方はニーニャの知っている限り一人しか居ませんでした。ドリアドの町では町長であるルーシィの娘ということで名前に敬称を付けられる方々は様ばかりでしたし、勇者の仲間であった時にもニーニャさんと呼んでくれた方は居ませんでした」
マジ?
そんなことまで気にしたことが無かったから全然気が付かなかったぞ。
ってか、俺が唯一の人っていうのがちょっと嬉しかったりする。
そこまで印象に残ってくれているなんて闇ニーニャの俺が好きだったというのもあながち間違いではないのかな?
でも今のニーニャさんはエターニャだ。
ニーニャさんとして見てはいけない。
「う――ん、さすがニーニャさんだな。当たっているよ。俺の前世はリュージで今はドレイクと名乗っている。あと、俺は本物の神族では無いんだ。身体は土で出来ているしゴーレムみたいな存在……」
「あの神様、リュージさんという方のその後についてはそんなに関心がありません。それよりもユーナさんとダリアさんは?」
ガ――ン
おおぅ、幼さ故のド直球で胸に刺さる言葉を吐かれちまったぜぇ。
俺がリュージだと知っても対して興味を持たないなんてオジサンちょっと悲しいわよ!
もしかしてニーニャの感情までは引き継がれないのかな?
いや、ユーナやダリアに対して不安に思っているのなら感情も引き継がれているはずだ。
ということはニーニャさんはそんなに俺に惹かれていなかった?
なんだよぉ……あの闇ニーニャの暴走故の感情だったとでも言うのか?
『はいはい、残念ね。前世帰りしたのがニーニャの全てでは無いということも考えられるわよ』
『肯定。その考えは同意します』
『龍神に恋心なんて言うものは分からないにゃ』
『なんかよく分からんけど残念っスね!』
龍神たちに励まされてもなぁ。
ま、今の俺は嫁も子どもも居る身だし浮気になってしまうから別に良いか。
子どもが居るという事実はマジで実感が沸かないんだが……はぁ、気が重い。
「神様、早く教えてください」
「おっと、そうだった。ユーナはドリアドの町に居るよ。一度ヒメに殺されたがあいつの神の部分が残っていてな。今は純神としてゆっくりと成長していっている」
「ユーナさんは生きているのですね!? 良かった……」
ま、人の部分は完全になくなってしまったけどな。
そのため人々の想いの影響をより受けやすくなっているから今は外出させることだけは禁じている。
ほとんどお姫様扱いされているのが今後にどう響くかは何か対策を考えておかないとな。
「ダリアさんは?」
「ダリアは……生きてはいるが」
「生きているのですね!? でも何かあったのですか?」
『言っては駄目よ。絶対に首を突っ込むわ』
『いいえ、話すべきです。協力者は一名でも多いほうが戦力的に有利です』
『まだ子どもだにゃ。話して協力されても邪魔にしかならないにゃ』
『んっと、よく分からんっスけど雷っちの言う通りにしたほうが良いっスよ』
だぁぁぁ、頭の中で五月蝿い!
取り敢えず話題を変えよう。
話しにくいことは後でじっくり考える。
「そう言えばルーシィさんの姿が全く見えないな。まさか逃げたのか?」
「おか……ルーシィの姿をしたモンスターなら異空間に閉じ込めています」
へっ?
異空間ってニーニャさんの得意な空間魔法か?
『魔法の知識を引き継いでもすぐに使えるはずなんて無いと思うけれど……』
『種族はエルフです。知識だけで十分に使用可能かと推定』
「えっと、エターニャが閉じ込めたのか?」
「はい、母様を助けたい一心で無我夢中でしたが……相手も今にも消えそうな状態だったのが功を奏したのかと」
ということは異空間の中で生きている可能性もあるか?
……まずいな、あの人形どもは酸素など無くても動けるし相手は天才のルーシィさんが元になった存在だ。
供給元であるタナトスから途切れてはいるが時間を与えれば与えるほど自己修復が進んでいく。
そして異空間側からこちらに出ることもいつかは成功するはずだ。
いや、絶対に出てくる。
手負いの状態である今がチャンスだが下手に空間を開けてもらうのも危険だな。
「神様? 心配なら開けましょうか?」
「いや、少し対策を考える。その時が来たら開けてくれ」
「はい、分かりました。それでダリ……」
「この森も元に戻さないとなぁ」
「えっ、神様……元に戻せるのですか?」
無理に話題を変えたが乗ってくれて助かった。
「木を植えることには変わりないよ。ただ成長を早くして短期間で以前に近い状態までは持っていける。ただ小動物が住み着くまではここに村を作っても生きてはいけないぞ」
「それでもお願いします! 霧の森は私たちダークエルフにとって大切な存在なんです。今は私しか居なくてもいつかは必ずここに戻ってきたいです!」
「そうか、分かった。考慮しておくよ」
植林と管理は定期的にここにゴブリンたちを連れてきてすればいい。
ホークが開発した転移装置を先に設置すれば、その問題は簡単に解決できる。
ワープポイントとしてガンデリオン大陸の中心部は何かと便利だからな。
ただ機材や人員を連れてくるのに相当な時間が必要だろう。
ドリアドの町からアルス大陸を横断しヘルヘイム側からガンデリオン大陸に上陸することになる。
そのため道中にも何箇所か転移装置を作っていくと交通の便も良くなるだろう。
ま、エターニャは長命なダークエルフだ。
10年くらいは余裕で待てるだろう。
こんな大規模工事は俺の一存では決められないし、元勇者軍ならぬ魔王軍の邪魔が入ることも考えないとな。
「エターニャ、ここが元に戻るまではドリアドの町で住んでくれ。住居などは俺が用意する。ユーナも幼いし仲良くやっていけるだろう」
「はい! それでダリアさんは……」
話したくないことを悟ってくれって子どもには難しすぎるか。
「また後で話すよ……」
ちくしょう、はっきりと言う勇気を持てない自分が情けない!
『ま、初恋の相手の記憶を受け継いでいると思うと意識しちゃうわよね』
『どんまいっス!』