この雷はどこかおかしい5
「エターニャ、許しておくれ。これしか村を守る手段がないんだ」
「うぅっ、エターニャ。本当にごめんなさいね」
「ううん、平気。村の平穏のためなら私だって嬉しい」
エターニャが十字架にかけられる。
足元には可燃物が多く置かれている。
供物として火あぶりにされることは明確だろう。
でも雷神を呼び出すのに火って何か意味でもあるのかな?
「雷神様、この村を救ってください!」
「雷神様、どうかお助けを!」
異様に強い信仰力のおかげで村の位置はすぐに把握できた。
俺は今、村の連中から見えない森の木々に隠れ様子を窺っている。
雷鳴一閃で儀式の中に飛び込みたいのだが土龍神に止められてしまったためだ。
『ダークエルフたちをこれ以上外界と関わらせたくないのなら顔を隠しなさい』
「顔を隠せばトラブルが起きない?」
『少し抑えられるだけにゃ』
『しかし、無いよりかは何倍も安全』
『ドレイク、顔を隠せるものを持っているでしょ』
また、この仮面を付けることになるとは思わなかった。
幼少時に命を喰らうため使った鬼の仮面だ。
新しい身体は小顔のため十分に隠すことができる。
俺ってもしかしてイケメン?
「うぅぅ、熱い」
「雷神様来てください!」
「あああっ、エターニャ!」
「クッ、許せ! エターニャ」
生きたまま焼かれるのは流石に残酷すぎる。
昔の火刑だって慈悲で命を奪ってからやっていたこともあるらしいしな。
可燃物が燃え始め火が大きくなる前に助けないと取り返しがきかなくなる。
「雷鳴一閃」
カッ!
ドォォォン!
「雷が落ちた!?」
「雷神様か!」
「儀式が始まったばかりだぞ!?」
バチッ……バチバチバチ
「けほっけほっ……けほっ」
良かった、足に少し火傷をしている程度だ。
エターニャを十字架から助け出し抱きかかえていると僅かだがニーニャさんの気配を感じる。
何だか物凄く愛しい気持ちが込み上げてくる。
ギュッ
「雷……神様?」
「良かった……無事で」
ザワザワザワ……
ダークエルフたちが俺を疑うような眼差しで見ている。
本来なら儀式が済んでから雷神が姿を現すためだ。
「あれって雷神様か?」
「全身から雷属性を感じるぞ」
「だが供物が生きているのに早すぎないか?」
ダークエルフたちだってエターニャを焼き殺すことが目的では無い。
せっかちな雷神だって居るかもしれないだろ?
儀式が何だって言うのだ?
「あんな不気味な仮面を付けているのが逆に怪しいよな?」
ですよね――!
俺もそう思っていました!
でもこれ以上あんたたちをトラブルに巻き込むわけにはいかないんだよ。
『偽物だってバレたらエターニャがどうなるか分からないわ。なんとかしてごまして』
『いっそのこと滅ぼしても良いにゃ。おいら個人としてはそっちを優先したいにゃ』
『大丈夫。ドレイクは現在進行系で雷神状態だ。パチもんでも雷神は雷神。自信を持って対応すれば良い』
誰がパチもんやねん!
一瞬そう思ったが土人形の身体だから元は神でも無いんだよな。
人族で無ければ神族でも無い。
分類的にはゴーレムになる。
ま、元は単なる土だから何でも入れることができ龍神の御霊を複数持つことができている。
「雷神様、娘を助けていただきありがとうございます」
「あっ、母様!」
「娘をお返し願えますか?」
リリーニャが宙に浮く俺を見上げ言葉を発する。
母親として心配はしていたようだ。
だったら供物にすることを許可するなよ。
「待ってください。貴方は本当に雷神様なのですか?」
父親のリッドが妻のリリーニャの前に立ち俺に問いかける。
「そ、そうだ! 雷神様に慈悲が無いのは村の民なら誰しもが知っている! 供物が燃え尽きるまで姿を現さないのが常識なんだ!」
いやいや、そんな慈悲を持たない神様を崇めるなよ。
ダークエルフってもしかして狂信者なのか?
『ダークエルフ族はエルフ族の亜種。肌の色が違うというだけでエルフの森を追われた過去を持つ。救いを与えなかった風神が悪い。そして風神の責任は風龍神の責任』
子どもの責任は親の責任ってか?
でも元凶はエルフの森から追い払ったエルフ族だよな。
しかも、それってもう何万年も昔のことだろう。
エルフ族も村を捨てアルス大陸で暮らしているし、今ではパリピなエルフだって居るくらいだしな。
『おいらはその頃はすでに滅されていたにゃ! だからおいらは悪くないにゃ!』
「雷神様ならその怪しげな仮面を外せぇ!」
何だか少しずつ俺に対する風当たりが強くなってきている。
『神に向かってあんな態度を取る民族なんて聞いたことがないにゃ!』
『ドレイク、仮面を取っては駄目よ』
『一人だけ天罰を与えてみるのが効果的。そうすれば雷神であることを証明できる』
それって結局、誰かが犠牲になってしまう。
相手がエターニャかエターニャで無いかの違いでしか無い。
ガサッ
「だ、誰だ!」
森の奥から何者かが来る。
「ふぅ、やぁっと見つけたわけぇ」
げぇ、ルーシィさん!?
流石に早すぎ……はっ、しまったぁぁぁ!
雷鳴一閃での稲光で村の位置を知られてしまったのか?
『ほらぁ、ドレイクはフラグ作成だにゃ。にゃははは』
いや、これは完全に俺のミスだ。
「耳が長い……まさかエルフ族? どうしてここに!?」
「あの顔立ち、村長に似ていないか?」
「いや、まさか……」
「ダークエルフの村、本当に作っていたわけね。こりゃ驚きだわ」
「部外者には死あるのみ! かかれ――!」
武装したダークエルフ族が7人、ルーシィに向かって魔法の矢を放つ。
あれはマジックアーチャーか。
ニーニャさんも好んで使っていたな。
パンッ!
「なっ、手で払っただと?」
「気性が荒い種族ってのは知ってたけどぉ、ちょっち話くらい聞きなよ」
「問答無用!」
「「うぉぉぉ!」」
ルーシィさんに斬りかかるが無駄だ。
逆に闇の中へ堕とされるのは分かっている。
あっ、そうか。
天罰は堕天使にも効く。
これはダークエルフ族に雷神であることを信じてもらう絶好のチャンスだ。
「エターニャの母親リリーニャだったな。この子を」
「雷神様、ありがとうございます」
「母様ぁ」
リリーニャの近くに降りエターニャを引き渡す。
天罰の発動には両手を合わせるのが必要なためエターニャを抱きかかえた状態では無理だからだ。
「雷龍神、力を貸してくれ」
『了解』
パンッ!
「天罰!」
「えっ?」
ボンッ!
ルーシィさんが内部から破裂する。
だが予想通り闇属性はその場に残っている。
「あれって雷神様の天罰だよな?」
「外敵を排除してくれたのか?」
「うぉぉぉ、雷神様に違いない!」
ダークエルフの民たちが歓喜の声を上げている。
だが、まだ終わってはいない。
ズズッ……
「雷神族が来ているのは知ってたけどぉ、いきなり天罰って酷くない?」
「なぁっ!? 再生した? 奴はエルフではないのか!?」
「あの黒い物質は森の大地を穢したものと一緒だ」
「それってエンドロイを溶かしたという?」
ルーシィさんがここに何の用があって来たのか知らないが闇属性を撒き散らすと霧の森やダークエルフ族が滅茶苦茶になってしまう。
攻撃した後で都合の良い話だが会話をしてみるしか無さそうだ。