この魔界はどこかおかしい1
どうやらルーシィさんは魔族というものを俺に見せたいようだ。
人族の敵では無いということを俺に教えたいのだろう。
「じゃ、三人で行くしぃ」
「三人? まさか、おじさんも行くのですか?」
「ジョンは頼んでも行かないわけぇ。ちょっち、呼んでくる」
ルーシィさんが部屋を出て行った。
おじさんじゃないとすると誰がいるんだ?
ユーナやダリア、欽治、杏樹、ニーニャさんは勇者軍に連れ去られたみたいだし。
ガチャ
「お兄ちゃん、おはよ――!」
「ゆ……雪ちゃん?」
「もう、お怪我は大丈夫なの? 血がぶしゅ――って出て面白かったのに!」
いやいやいや、それを面白がってはいけませんよ!
この子の将来、なんかサイコパスになりそうだな。
「あっはは! 雪っち、ウケる――!」
……こんな大人のせいで子どもが危ない方向に行くんだよなぁ。
「コギャルちゃん、早くお散歩行こ――!」
「あいよ――、テレポートぉ!」
ヒュン
空は薄暗く大地は赤茶けており、広大な荒れ地が眼前に広がっている。
しかも、ものすごく蒸し暑い。
まるで沖縄旅行に行ったときのような暑さだ。
ここが魔界?
「さて……んじゃ、住人をいっちょ探しますか!」
おもむろにルーシィさんが地図を取り出す。
あれ……この世界の地図じゃないか?
「ルーシィさん、その地図って……」
「リューくんは魔界初めてなわけ。今、いるのはここ」
世界地図の南部にある広大な大陸をルーシィさんが指差す。
「この世界の別大陸が魔界?」
「そそ、ちなみにアルス大陸の東にある大陸が天界ね。リューくんのお母さんの生まれ故郷」
天界までこの世界の一部なのか。
「あっしたち人族の住む大陸がアルス大陸で、この大陸はグランディール大陸、人間たちは魔界って呼ぶけどね。で、東方の大陸がガンデリオン大陸、神族たちの大陸なわけ」
神族って簡単に言うから、普通に神様を想像しちゃうけど多分違うんだろうな。
背中に翼の生えている人くらいな感覚が良いのかもしれない。
特殊な力は持っていそうだが。
「余計な話をしちゃったわけ。ちょっち、歩いて村を探すよ~」
「あ、はい」
「あはは、変な草がいっぱい生えてる――」
南の大陸だけあって暑い。
それでもって緑の少ない大地、こんな過酷な環境下で暮らしているのだから、魔族はおそらく屈強な方たちなんだろうな。
太陽が日食なような感じで黒い物体に隠されているため、辺り一面薄暗い。
植物が育たないのは太陽を隠しているあの物体のせいか。
「ルーシィさん、あの太陽を覆っている黒い物体ってなんですか?」
「ん――、あれはいわゆる前大戦の残り傷なわけぇ」
「人族と魔族の戦争の残り傷ですか?」
「そそ、失敗したメテオね」
失敗したメテオ?
巨大隕石か?
失敗したというだけあって、太陽と地球の狭間の宇宙空間を漂っている感じでいいのか?
いつか、落ちてきたりしないだろうな?
破壊するには……宇宙まで行く技術など無いから無理か?
「おっきい石が宙に浮いてるね――!」
「落ちてこないように祈らないとな」
雪は無邪気にいろんなものを探索しながら、先へ先へと進んで行く。
「雪ちゃん、あまり離れすぎると危ないぞ!」
「大丈夫なわけ、ここら辺はモンスターもあまり出ないしぃ」
そうは言ってもなぁ……迷子になられると困るし。
「お兄――ちゃ――ん!」
雪ちゃんが俺を呼びながら戻ってくる。
「雪っち、どうしたん?」
「あのね――、あっちにね――、煙がいっぱい出てるの」
煙?
雪ちゃんが指をさす方向に少し進んでみる。
どうやら崖下から煙が立っているようだ。
「ん――、こりゃちょっとマズいわけ」
「えっ?」
「ちょっち、ステルスをかけて進むわよ」
ルーシィさんには何かわかるらしい。
あの煙は生活の中で出る煙では無いことは俺にもわかる。
どう見ても争いで起こる黒煙だ。
「ヒャッハ――!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「殺せ、殺せ――!」
「うわぁぁぁ!」
ここでもならず者特有の雄叫びが聞こえてくる。
まさか、あいつらじゃないよな?
崖上の端まで来て、そこから顔を覗かせてみる。
緑色の肌……小柄な体格……あれはゴブリンか?
豚の獣人らしき者はオークだろうな。
どうやら襲われているようだ、襲っているのは……人間?
「あの旗は勇者の紋章なわけぇ」
「まさか、大戦がすでに?」
「いんや――、もう一つの旗を見ると勇者軍本隊じゃ無いわけ。あれは救恤の使徒ね」
救恤の使徒?
「勇者軍の幹部か、何かですか?」
「八人の使徒の一人なわけぇ」
スリードの仲間か!?
……ヤバくないか?
「ちなみにリューくんを殺り損ねたスリード爺さんは勤勉の使徒なわけでぇ」
「勤勉って?」
「八人の使徒には勤勉・譲渡・忍耐・節制・純潔・救恤・慈悲の七人の使徒とそれらをまとめる爽快の使徒で構成されてるわけでぇ」
どれもならず者に相応しくない二つ名だな。
あれだって、どう見ても助けを求める人たちを虐殺しているようにしか見えないんだが……どこが救恤なんだよ。
「スリード爺さんって言いましたが、ルーシィさんはあいつのこと知っているんですか?」
「そりゃそうよ――、30万歳のエルフで最古の勇者の仲間なわけ。勇者に忠誠を誓って、今も考え無しに従う老害爺よ、まったく!」
30万歳!?
年齢も驚くが少なくても30万年前から人族と魔族の対立があったってことか。
俺の世界でもそんなに長く争い合った歴史は無いぞ。
いや、それ以前に30万年前ってまだ元の世界じゃ猿人だし石器時代だぜ。
こんな不毛な争いがそれだけ長く起きてりゃ、文明も進まないわな。
ビルやらタワーやら全部、俺の世界のおかげじゃ無いか。
「どっちにしても、この状況は助けないといけないわけで――」
「助けるって、あのゴブリンたちをですか?」
「そうよ――、ただ肌の色が緑色だからだとか、姿が醜い豚ってだけで人族から外された者たち、それが魔族の大半を占めるわけ」
確かにステータスを見るとゴブリンもオークもドリアドの住人たちと似たようなステータスだ。
鍬を持って抵抗しようとしているゴブリンをみると職業はファーミスト。
おじさんと同じ農民だ。
これが魔族だって言うのか?
偏見で見なければ普通の人たちじゃないか。
なんか、見ていて人族側に対し腹が立ってきたぞ。
「リューくんもわかってきたじゃん」
「そうですね、確かに彼らは俺たちと同じ人族です。この人たちを追いやった奴らのほうが腹立たしいですね」
「ま、こんな状況がずっと続いていたらね――。1000年生きてるあっしやシィーちゃんはいろんな考えが出てくるわけで――」
17年しか生きていない俺だって、虫唾が走る光景だ。
このゴブリンやオークらが絶対悪?
どう見てもそうには思えない。
それを何の躊躇いもなく虐殺していく勇者軍。
あいつらこそ絶対悪なんじゃないのか?
「く……くそっ!」
「ん――どしたん?」
「この勇者や魔族にわかれての争いって、勇者側を倒せば終わるんですか?」
「そりゃ無理ね――。幼いときから魔族は絶対悪って教わってきた人族と、その逆のことを教わってきた魔族。簡単にはいかないわけ」
暴力を振るう奴らを倒せば済むって話じゃないのは確かにわかる。
今は何か行動したい衝動に駆られるが、使徒の一人があそこにいるとなるとまたやられかねないし。
「ちくしょう、なんでこんなに無力なんだ……俺は!」
「あっしも使徒が相手じゃね――」
ルーシィさんでも勝てないのか。
ここは大人しく見ているしか無いのか?
「この子だけは助けて!」
「ヒャッハー!」
「きゃぁぁぁ!」
ゴブリンやオークたちの断末魔が渓谷に響き渡る。
「ぎゃはは! ガキを殺しても面白くも何ともないがなぁ! ま、ちっと逝っとけや!」
幼いゴブリンにならず者が襲い掛かった、そのとき。
「ダメぇぇぇ!」
ゆ、雪!?
いつの間に崖を降りたんだ?
ヤバい、雪を助けなくては欽治に顔向けできん。
「ああん? なんで、こんな所にヒューマンがいるんだ?」
「どうでもいいだじょ。殺ってしまえば同じだじょ!」
ならず者が雪に斬りかかる。
「雪ちゃん!」
あれ……辺り一面のならず者共の動きが止まっている。
「雪っち、どちゃくそ最高……マジ沸いたわ!」
「雪ちゃんが何かしたんですか?」
「あいつらの動き……能力使われたしぃ」
能力……欽治から聞いたパペッタ―だったか?
相手を隷属させる力。
欽治の世界では最強クラスの使い手って聞いたことがあるな。
「子どもに暴力を振ったらいけないんだよ!」
「「は、はは――」」
「すいやせん! お嬢!」
ならず者共が雪に土下座をしている。
なんという、恐ろしい力だ。
これは確かに欽治でも勝てないわけだ。
操られたら元も子も無いもんな。
ドゴッ!
「ぎゃぁぁぁ!」
ズガーン
「ゲベッ!」
渓谷の奥のほうから、ならず者共が吹き飛んでいるのが見える。
目を凝らしてみると馬に乗って、誰かがこっちに向かってきているようだ。
「リアタイでヤバみなわけ……」
他のならず者共はピクリとも動かない。
こっちに向かって来ている一人……雪の能力が効いていないのか?
「雪ちゃんの能力が効いていない?」
「やばたにえんだしぃ」
馬に乗っているのは女性……じゃない女装をした男だ!
だって、青ヒゲのせいでアゴが青くなっているんだもの。
あのオカマっぽいのが救恤の使徒って奴なのか?





