この雷はどこかおかしい3
「アースムーヴ」
ヒュッ
アースガルズに移動する。
目の前にある神殿は霹靂宮か。
アースガルズに来るのは初めてのはずなのに土龍神と同化しているためなのか見たことの有る感じがする。
中国の天安門に似ている建造物だ。
『あら?』
『どうしてこんなところに跳んだにゃ? 霧の森はもっと南方だにゃ』
「何かに吸い寄せられ強制的にここに跳ばされた感じがしたが……」
ゴロゴロゴロ……
バチッ!
バァァァン!
一筋の稲光が霹靂宮に落ちる。
そして数名の神族が姿を現した。
「他属性の神族がこの至高なる雷国に不法侵入とはどういう了見じゃ?」
和服姿の女神?
ディーテを彷彿させる容姿だ。
『あの神力はどうみても5代目ゼウスね。アースガルズの総大将が直接姿を現すなんて……』
『相変わらずピリピリする嫌な感じだにゃ』
あいつがゼウス?
グランディアの民を人質に俺とタナトスを引き合わせた張本人だ。
隣にラファエルを引き連れて俺を霹靂宮の舞台から見下ろしている。
ディーテと同じ血筋なだけあって容姿が似ているのも当然か。
「ゼウス様、今のドレイクは龍神2体の力を得ています」
「ふん、所詮は風と土じゃ。雷には勝てぬわ。それに人神に裏切られ滅ぼされた龍神などすでに過去の遺物にすぎぬ。我らの創造主というてもそれも何億年も前のことじゃ」
『ムキ――! やっぱり雷神は嫌味満載だにゃ!』
だが本当のことでもある。
雷属性を無効化できる土属性を持っていても、こちらにも決定打が無い。
風属性で霧散させることも電気には意味が無いし現状では殺りあいたくない相手だ。
そもそもゼウスや雷神に用事があってここに来たわけでは無い。
早くダークエルフの村に行かないとエターニャが供物にされてしまう。
それに堕天使の件も気になる。
「ゼウス、俺はお前たちに用事があって来たわけではない。ダークエルフの村が危険なのはお前たちだって気付いているはずだ」
「ぷっ……ぷはははは! それがどうしたというのじゃ? 下等種がどうなろうと我らの知ったことではない。それに見ておったぞ。どうやら我らの供物に燐廻転生した貴様の想い人を使うようじゃな」
雷神は魔力の籠もった電気を操作できる。
つまりジャミングはお手の物だということだ。
盗撮を平気でするなんてそれでも神かよ。
「だから俺たちの邪魔をするっていうのか?」
「分かっていて結構。エターニャというダークエルフが供物として捧げられるまで相手をしてやろう。ああ、そうじゃ。無駄死にしたエターニャの魂は我らが玩具として再利用してやるから安心しろ。ぷっはははは!」
うわっ、本当に性格が最悪だな。
風龍神が目の敵にするのもよく分かる。
相手にしている暇など無いし、こういう手合は無視するに限る。
「縮地!」
ヒュッ!
ゼウスの前から離れ南方へ向かう。
体型が成人になったおかげか一歩でかなり進む。
敵前逃亡だと思われようが構わない。
あいつら雷神は人をイライラさせる天才のようだし相手をするだけ無駄だ。
バチッ!
ドゴッ!
「ぐあっ!」
雷光が俺の眼前に降り注ぐ。
同時に俺に飛び蹴りを食らわせてきた。
「稲光の速さから逃れられるとでも思うたか?」
縮地より速いってマジかよ!?
……いや、冷静に考えれば物理移動と雷光ならどちらが速いか簡単なことだよな。
でも、これじゃ逃げ切れないぞ。
やはり相手をするしか無いのか?
それこそ雷神の思う壺だし……。
『ドレイク、なんとしても振り切りなさい』
『駄目だにゃ! こんなに煽る人神にはきついお仕置きが必要だにゃ!』
『何を言っているの!? 土と風じゃ雷神に決定的なダメージを与えられないの分かるでしょ!』
『風を舐めてはいけないにゃ! 闇にだって使いようによっては勝てるにゃ!』
堕天使限定だけどな。
それもタナトスの供給を失った自動修復しない状態で無ければ拡散させることはできない。
ま、確かに使いようによってはどうにかなるかもしれないけれど、そんなことより俺の中で土龍神と風龍神が口論している。
はっきり言って五月蝿い。
人の頭の中で口論とか止めてくれよ。
龍神の御霊を確保するたびにこういうことが増えてくると思うと嫌になる。
……うん?
龍神の御霊……そういえば雷龍神の御霊はまだタナトスに奪われていないのか?
アースガルズが滅んでいないことからそうなのだろう。
ニヤリ
「良いことを考えたぞ」
『くすっ、それは良いわね』
『雷龍ちゃんに会えるかにゃ?』
土龍神と風龍神も俺の考えたことにすぐに同調してくれた。
稲光に対抗するには稲光。
稲光の速さを手に入れるには雷龍神の御霊を入手さえすれば簡単なことだ。
そして御霊のある場所は霹靂宮であることは神族の間では周知の事実だ。
問題は急に方向転換して霹靂宮に戻ることをゼウスたちに気取られてはいけない。
御霊を奪うつもりであるとすぐに察しが付いてしまうからな。
追い詰められるふりをしながら雷電宮に戻るしか無いか。
バチッ!
「ほれ、雷鳴一閃」
「クッ!」
ヒュッ!
アースフォームで雷属性の攻撃は無効化できる。
それを知ってか物理攻撃も同時に加えてくるゼウスと天使たち。
急がないとエターニャの命が危険だというのに追い詰められるふりをするのも中々面倒だ。
「ゼウス様、ダークエルフの村へ堕天使が侵攻中のようです」
「ほう? ……これはこれは村そのものが滅ぶほうが早そうじゃな」
なんだって?
アースメモリーでは確認できなかったが堕天使がダークエルフの村を探しているのか?
『御霊さえ手に入れればダークエルフの村の場所も分かるにゃん』
『そうね、それに縮地ならすぐにこいつらに追いつかれて邪魔されてしまうだけよ』
「ゼウス様、一つご進言をさせていただきたく……」
「申せ」
「堕天使に滅ぼされるのも癪なので我らの天罰でダークエルフを一掃してしまうのも有りかと……」
「ぷっ……ははは! お主も悪よのぉ! 気に入った。じゃがエターニャを供物として捧げてからにしよう。丁度、母親も説得に応じたようじゃしな。儀式の準備から察するにあと2時間ほどってところか。神に見捨てられたと知った奴らはどれほど絶望的な表情をするか楽しみだのぅ」
俺の目を見て不敵な笑みを浮かべながら言う。
本当に嫌な奴らだ。
信仰力の大きな支えになっている種族がタナトスらに襲われているのに助けもしないのは闇を相手に雷であろうと対抗できないのを分かっているためだろうな。
死の恐怖には神であろうと勝てない。
ま、他を見下げて自尊心を保つ塊のような雷神にとっては勝ち目の無いことには近付きたくも無いのだろう。