この夜はどこかおかしい13
12歳の身長から18歳の身長までチートで一気に伸びた?
あっ、身体そのものが違うから最早別人なのだろうか?
う――ん……頭がこんがらがりそうだ。
「そ、そんなっ!? 闇堕ちから抜け出すなんてあり得ない!」
ニーニャさん……もう油断しない。
残酷だけれどこの技で動きを封じさせてもらう。
「土龍神、力を借りるぞ!」
『ええ、もちろん!』
「エレメンタルチェンジ! アースフォーム!」
髪が金色になり土属性が全身から吹き出す。
おっと、決してスーパーサ○ヤ人じゃないんだからね!
「一度抜け出せたとしても何度でも堕としてやるだけです! この世界から神族は滅びなさい!」
土龍の力を使えなくなったニーニャさんは以前の服装に戻り両手に何も持っていない。
土の造形魔法も土龍の力を借りて使っただけなのだから異空間も封じられているニーニャさんには何も為す術がないはずだ。
だが、頭の良いニーニャさんのことだ。
絶対に何かを隠していると考えたほうが良さそうだ。
もう安易に近付くことはしない。
まずは動きを確実に止めてから科戸の風をぶつける。
「ニーニャさん、ごめん! 天罰!」
パァン!
両手を合わせニーニャさんに天罰を食らわせる。
土神の天罰は石化だ。
ヒメに石化されたことで命を落としてしまったニーニャさんには酷な話だが仕方がない。
「なっ!? 身体が石に……いやいやぁぁぁ!」
一度、石化させられたことがあるためその時の恐怖が蘇っているのだろう。
ニーニャさんらしくない悲鳴を上げる。
だが闇属性の身体を対象にすると効果時間は永遠では無い。
闇属性に吸収され石化が強制解除されるのは分かっている。
「エレメンタルチェンジ、ウィンドフォーム!」
再び風神状態に戻り右掌に力を込める。
『ドレイク、科戸の風は一から作る必要があるにゃ』
「間に合えば良い! 土神の力では闇属性を霧散させられない!」
ヒュゥゥゥ
右手に風属性を集め濃縮していく。
大人の姿だからか神力のコントロールがし易い。
これなら意外と早く科戸の風を作れそうだ。
『ドレイク、石像が黒く変色し始めたわ!』
闇属性に石化が通用しないのは分かっているんだ。
だが思った以上に拘束時間が長く俺としては助かった。
ヒュゥゥ……ボワッ!
「よし出来た!」
『まだ間に合うにゃ! ぶつけてやるにゃ!』
バキバキバキッ!
「石化で動きを拘束ですか! もう一人の私が余計な真似をしたために!」
顔の部分から石化が解け始めた。
まだ身体が石なら大丈夫だ。
ヒュッ!
縮地で背後に回り込み右手をニーニャさんの後頭部に近付ける。
「ニーニャさん、俺も貴女のこと大好きでした。次の輪廻でまた会えたら今度こそ貴女に……科戸の風!」
ボッ!
ドシュゥゥゥゥ!
ブォォォォ!
凄まじい風でニーニャさんの身体を構成している闇属性が拡散していく。
「リュージ……さん……あり……がとう……」
ブワッ!
闇属性が吹き散り風が止んだ時にはニーニャさんの姿はどこにも無かった。
『ふぅ、終わったにゃ。よくやったにゃ』
ちくしょう、どうしてこんなに後味が悪いんだ。
ニーニャさん、最後の最後でまた生前の意識に戻ってくれていた。
殺した相手に感謝されるなんて……。
「うっ……ううう、ニーニャさん。ニーニャさぁぁぁん!」
『あの娘も貴方のことを愛していたのは知っているわ。あの娘の魂は13年前に冥界で浄化され新たな息吹を得ているはずよ。ハデスとしての力をこういったことに使うのはいけないのだけれど輪廻転生した先を見てみる?』
ハデスの仕事は死者を冥界に送ることだ。
冥界送り以降のことにハデスが死者に関与してはならない。
ま、冥界で浄化され輪廻転生して新たな肉体を得てしまうと何者であろうと前世とは関係が無くなってしまう。
初代ハデスが単に興味を示さなかっただけなのだが過去に例が無いのも事実だ。
たまに浄化しきれず前世の記憶を持って生まれることもあるらしいがその確率は非常に低い。
それにそのことは本人以外は知る由も無いしな。
現在のニーニャさんが運良く前世の記憶を持っているとも思えないし……でも、好きだった人が今は平和に過ごせているのか気にはなる。
『でもでも輪廻転生した先がゴキブリとかだったらドレイクはショックを受けないかにゃ?』
『それは無いわよ。魂の大きさが違いすぎるもの。人族と似たサイズの動物にはなっている可能性は否定出来ないけれどね』
つまり野生動物やモンスターにはなっている可能性が高いわけだ。
種族を悪く言うつもりはないけれど醜い生物なら確かに動揺を隠せないかも。
「やめておくよ。気にはなるけれどすでに別人だ。見るだけでも知ってしまえば贔屓してしまうかもしれないし……」
『にゃふぅ、超絶美人になっていたりしてもかにゃ?』
くっ、その可能性も否定しきれないか。
でもやっていることがほとんどストーカーだよな?
一度目だけならまだ良いのか?
ぬぉぉぉ、こういった時の処世術って何が正しいんだ?
『あはは、好きな人の輪廻転生先を見るだけ。相手には気付かれないし大丈夫よ』
「だ、だったら……見ても良いかな?」
このモヤモヤした感情を落ち着かせるには今のニーニャさんを見るしか無さそうだ。
うん、そういうことにしておこう。
「それでどうやって見るんだ?」
『アースメモリーよ。土神だった貴方なら使い方は分かるでしょ?』
「でも、ここで使っても意味が無いだろう? その周辺の大地の記憶を見るだけなのだから」
『にゃるほど……土龍ちゃん、龍神の力を使うつもりかにゃ?』
『その通り』
龍神の力?
この2体の記憶は共有しているけれど所々ブロックがかかっているようで知ることができない。
そのせいで龍を識ることもまだまだ完全では無い。
「先にアースドラゴンを元の場所に戻さないとな」
アースドラゴンを元の場所に移動するように命じ移動を開始させる。
地上でアースドラゴンに攻撃を加えている欽治は簡単には止められないだろう。
このアースドラゴンが再び大陸の一部に戻れば興奮も収まると信じて放っておくことにした。
下手に近付くと巻き添えを食いそうだしな。
それにアースドラゴンのことを土龍神と一つになったことで識った今、欽治でも倒せないことだって分かっている。
『さて、アースドラゴンは定位置に戻れば自然と大陸に戻るわ。あとは放っておけば良いわ』
『だったら彼女の最後の場所へ行くにゃ! 善は急げだにゃ』
『そうね、ヘルヘイムへ行きましょう』
「えっ、ヘルヘイム!?」
『当然でしょ? 彼女の本当の最後はヘルヘイムでの石化した場所よ。そこからで無ければ見ることができないわ。地脈がズレているけれど移動できないことは無いしアースムーヴを使えば簡単に行けるじゃない』
今の俺に行けない場所は無い。
アースムーヴが再び使えるようになるなんて夢にも思わなかった。
グランディアの再建やドリアドの町での領民のことなど仕事は多いけれど少し休憩するくらい良いだろう。
「よし、それじゃ行くぞ」
『地脈を通る感覚を味わえるなんて初めての経験だにゃ』
ヒュン