この夜はどこかおかしい12
『土龍ちゃんの御霊もこの先から感じるにゃ』
土龍神の御霊と契約すれば俺は再び土神に戻れる。
そしてヒメから神力を奪っただけでは知り得なかった知識も得られるだろう。
『土龍ちゃん、苦しがっているにゃ。ドレイク早く助けてあげるにゃ』
「分かっている。けれど……」
目の前に有る心臓の一部を削ぎ落とすと大量の砂の血が吹き出し、そのまま地下神殿まで流れ出てしまうかもしれない。
それに巻き込まれて俺も流されてしまう可能性がある。
『その時はなんとかしてやるにゃ! 土龍ちゃんに言ってアースドラゴンを止めてもらう方が大事にゃ』
考えなしに突っ込めってか?
そんな馬鹿な真似ができるはずないだろう。
でも液体では無く砂だし風の力で何とかなりそうな感じもする。
「よし、破るぞ。風龍神、力を貸せ!」
『了解にゃ!』
科戸の風を右手で持っているため右手は使えない。
そして左腕は闇に侵食されかかったため切断しすでに無い。
あるものと言えば両足だけだ。
ここでホークの特訓が再び役に立つ。
詠唱しながら力を溜めるのはどちらかの掌が普通だ。
俺も幼少時にそうやって母さんから学んだし何も変とは思わなかった。
そもそも魔道士が接近戦で戦うことや一人で最前線に出ることなど無いから両腕を損傷してしまえばそれは自身の敗北を意味する。
だが実際には悪あがきをすれば良いだけなのだ。
腕が使えないなら足を使えば良い。
利き足の右足に力を込め詠唱を開始する。
『手が使えないから足で放つとは考えたものにゃ。その詠唱はウィンドスラッシュだにゃ?』
「そうだ。傷口を広げ過ぎるとそれだけ出血量も多くなるからな」
暫く待つはめになるがある程度は心臓内の血も無くなってくれなければ俺が入ることは出来ない。
「切り裂けウインドスラッシュ!」
バシュッ
………………
「あれ? 砂の血が出てこないぞ?」
『これなら入れるにゃ』
傷口から心臓内に侵入する。
鼓動を打っているため非常に歩きにくいためエアロで空中に浮く。
ニーニャさんは何処だ?
『土龍ちゃんの御霊はこっちから感じるにゃ』
風龍神の指示に従い先に進む。
非常に薄暗いため先に何があるのか見えにくい。
臓器の中なのに真っ暗で無いのはどうしてなのかな?
ま、おかげで明かりがなくても先に進めるし助かっている。
「やめて、これ以上は!」
ニーニャさんの声だ。
誰かと話している?
「このままアースドラゴンで魔界を蹂躙してやれば良いのです。死した後でも闇に堕とせば同じこと」
「ここはもう昔の魔界ではありません! リュージさんが変えてくださったのを見たでしょう!?」
「リュージ? アレは神族よ。タナトス様の敵を見逃すつもり?」
全部同じニーニャさんの声だ。
闇ユーナと同じように精神が分離している?
タナトスからの供給が無くなり枯渇気味だったところに鴉の闇属性で一時的に力を取り戻しただけなのかもしれない。
それももう枯渇し始めているのだろう。
「おっと噂をすればですね」
ニーニャさんが俺に気付く。
「……土龍神、力を貸しなさい」
ズズッ……
造形魔法で弓を作り出す。
銃のような複雑な構造は簡単には作れない。
そのための弓か。
あれにも闇属性が付与されているなら危険だな。
「ニーニャさん正気に戻ってくれ!」
「神族の聞く耳など持たないと……くっ!」
やっぱり敵対的な状態を保てなくなってきている。
「邪魔しないでください! タナトス様のためにも神族は!」
ヒュッ!
弓を放つ動作など見極めが簡単だ。
ただ薄暗いのが難点だな。
ニーニャさんから視線を外さないようにしないと。
弓の恐ろしいところは音がしないことだ。
『ドレイク、声をかけ続けるにゃ』
「ああ、分かっている。ニーニャさん終わらせに来ましたよ」
「リュージさん……早く……私を」
動きが止まった!?
生前のニーニャさんが強く出ているのか?
だが、このチャンスを逃すわけにはいかない!
「縮地!」
ヒュッ
ニーニャさんの眼前に移動し右手を前に突き出す。
『ドレイク、フルパワーだにゃ!』
「ああ! ニーニャさん今までありがとう……科戸の!」
ドスッ
えっ?
俺の腹部にナイフが刺さっている?
「くすっ、油断大敵ですよ。神族の坊や」
演技だったのか!?
ステータスが文字化けしたり数値が急激に減少していく。
闇属性に侵食されているのは確実だ。
「腕は切り落とせても胴体は切り落とせないでしょう? 私の勝ちです」
「ぐぅぅ!」
力が抜けて立っている事もできなくなる。
これはマジでヤバイ!
『ドレイク、根性だにゃ! またおいらも闇の中に行くのは嫌だにゃ!』
そうだ、この状態で闇堕ちすると風龍神の御霊もまたタナトス側に移ってしまう。
だからといって風神状態を解除しても御霊はこの場に残りニーニャさんに奪われてしまう。
ドロッ……
身体が溶けていくのがわかる。
冷たい……寒い……そして何も分からなくなる。
「ニー……ニャ……さん」
「リュージさん!? ああ、どうして!?」
「貴女が殺ったのよ。無闇に近付いた神族の坊やが悪いし気にしなくて良いわ」
「またしても私の大切な人を!」
ガシッ
バリン!
ニーニャさんが胸のブローチを掴み俺に近付ける。
「リュージさん! これでどうかどうか……」
「タナトス様から頂いた土龍神の御霊を!? なんてことをするのです!」
『土龍ちゃん!』
『あの娘も可哀想ね。風龍神、力を貸して。土人形なら治せるわ』
『了解だにゃ!』
土龍神の御霊が俺の中に入ったのか?
だがもう手遅れだろう。
闇が俺を覆いすでに堕ちている。
『ドレイク、目を覚ますにゃ!』
『ドレイク、二代目ハデスとしてあの娘を送って差し上げて』
「え?」
あれ……生きている?
闇属性に侵食されたはずだよな?
『土龍ちゃんが新しい土の身体を作ってくれたにゃ』
『貴方が二代目ハデスで良かったわ。ハデスの魂は特権として妾でも動かすことができるからね』
おいおい、そんな都合の良い展開ありかよ?
これで闇属性に侵されて生き延びたの何度目だ?
兎に角、立ち上がってニーニャさんの攻撃から身を守る必要がある。
「うん? なんだか目線が……」
『子どもの姿だと何かと不自由だと思って大人サイズにしたわ。人間の年齢で言うと18歳ほどかしら?』
な、なんだってぇぇぇ!?