この夜はどこかおかしい10
「くすっ、ここに居ますよ。土龍神の力を使えば……」
ズズッ……
ニーニャさんの背後の地面が盛り上がる。
せっかく築き上げた建物が倒壊していく。
「何が起きるんだ?」
『アースドラゴンはこの大陸の大地の一部だにゃ。そんなものを起こすなんて非常識極まりないにゃ!』
バキッ!
バキバキバキバキ……
「欽治、一旦空に避難するぞ」
欽治の手を掴み上空に飛ぶ。
「はわ……はわわわわわ! ど、どどどどどど、ドラゴンだ!」
アースドラゴン、巨大なんてものではない。
背中にグランディアを乗せても十分に足りるほどの大きさだ。
ヨルムンガンドが小さく見えるほどの体格なんてそんな存在知らないぞ。
土神のヒメの記憶にもあんなドラゴンの情報は無かった。
風龍神と一体化した今でも龍神に関してまだまだ分からないことも多いのか?
ニーニャさんも移動を開始しドラゴンの口内に入る。
「食われた!?」
『違うにゃ。自身が傷付かないように口の中に逃げ込んだだけにゃ』
その手があったか。
このドラゴンの口を開けるのは至難の業だ。
ズズッ
アースドラゴンが片足を上げそのまま下ろす。
チュッドォォォォン!
「うわぁぁぁぁ!」
凄まじい衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
下を向くと地面に巨大なクレーターが出来ていた。
グランディア周辺にあった美しい田園風景はすべて消滅している。
「グランディアが……」
『諦めるにゃ。もう滅んだも当然だにゃ』
「研究所のある場所まで荒れ地に……そうだ、コスモスは!?」
心に大きな不安が過る。
『ルカ、ローズ聞こえるか?』
『はいでしゅ』
『ドレイク様、住人の約半数はドリアドの町に移動が完了しましたわ。ですが何故か先程から転移装置が動かなくなって……』
『故障でもしたのかしら? 少し調べてみますわ』
『いや、原因はこっちにある。今、グランディアとその周辺の施設や村は壊滅してしまったよ』
『そんな!』
『ホーク、コスモスは?』
『すでにこちら側の新造研究所に移送済みですわ』
そうか、良かった。
コスモスにもしものことがあればと不安だったがさすがはホークだ。
研究所が消滅したため転移装置が動かなくなっても当然だ。
コスモスが無事なのは安心だが、せっかく増え始めた住民がまた半数も亡くなってしまった。
一歩進むごとに核弾頭並みの衝撃波を発生させるなんて近寄ることも出来やしない。
あんなやばい化け物を相手にどうしろってんだ?
「はわわわわわわ! ドラゴンドラゴンドラゴンドラゴン……おっきくてぶっといドラゴンだぁぁぁ!」
ここにもやばい変態が居たわ!
そうだ、バーサーカーモードの欽治ならアースドラゴンを倒せるかも知れないよな?
「欽治、あのドラゴンはすぅんごぉぅい強いぞ。油断せずに思い切り殺ってこい。グランディアの建造物は気にするな」
「は、はい! 僕ももう我慢が……こんな相手がまだ居たなんて濡れちゃいますぅぅぅ!」
だから、どこが濡れるんだよ!?
欽治をグランディアの中央広場に下ろし俺は再び上空に飛び上がる。
欽治を見捨てたわけではないぞ。
バーサーカー状態のあいつの近くに居たら俺も危険だから離れているだけだ。
「はぁぁぁ! 神倒の型……神哭牙環剣!」
バコォォォン!
ブシュゥゥゥ!
アースドラゴンの背中だからか地面に攻撃を加えると赤い砂が吹き出す。
赤い砂はアースドラゴンの血液のようなものなのだろう。
だが、あの身体の大きさだ。
アースドラゴンにとってはちょっとした切り傷程度なのだろう。
叫ぶこともなくそのまま前進を続ける。
一歩進むごとにグランディール大陸が荒れ果てた大地に変わっていく。
『駄目だにゃ。まるで効いていないにゃ』
「風龍神、この科戸の風をあいつにぶつけたらどうなる?」
『属性反応の風化が起きるだけだにゃ。直撃した部分は脆くなるけれど……あっ、その手があったにゃ!』
風化は土属性に高濃度の風属性をぶつけることで発生する。
普通の風化はかなり長い年月がかかるが属性反応は別だ。
だが、問題はこいつを作り出せる神力があと一回あるかどうかだ。
ニーニャさんにもこの科戸の風でなければ一瞬で仕留めきれない。
苦しませずに逝かせてやりたい思いは今でも変わらない。
「このクソドラゴンめぇぇぇ! これならどうだぁぁぁぁ!」
バチッ!
欽治のやつは相変わらず張り切っているようだ。
いつの間にかグランディアの街がすべて倒壊し更地になっている。
それどころか鮮血で地面が赤く染まり、ちょっとした赤い砂丘のようになっていた。
これってかなりの重症になるのでは?
それでもまだ失血死に至るほどの量では無いか?
「禁忌の型、死牙剣んんん!」
欽治が飛び上がり上空から真空の刃をアースドラゴンに浴びせる。
それも一発だけでは無い。
何度も何度も……いや、ちょっと待て。
アースドラゴンに出来たあの傷の形は……ま、まさか!?
「毘輪孤!」
琵琶湖だとぉぉぉぉぅ!?
なんということでしょう。
アースドラゴンの身体にその体格の6分の1ほどの巨大な傷をこの短時間で作り上げてしまいました。
「グギャァァァァ!」
アースドラゴンの雄叫びが聞こえる。
それはつまり口を開けたということだ。
今なら口腔内に侵入できる。
「縮地!」
ヒュッ!
体内にしては単なる洞窟のように見える。
ニーニャさんはさらに奥へ行ったのか?
トンネル工事をしたかのような跡……ここってもしかしてグランディアの坑道だったものか?
地下遺跡がアースドラゴンの胃だと想定すると光龍神の卵は胃酸で溶けて無くなったりしていないよな?
坑道を奥に進む。
ゴゴゴゴゴ!
ドォォォン!
背中の部分で暴れている欽治とアースドラゴンの一歩が大きな振動となり伝わり巨大な地震のような感覚だ。
左腕を失っているためバランスを崩すと立ち上がるのも一苦労する。
科戸の風を維持した状態で土属性に触れてしまうと暴発する可能性もあるため右手を庇いながら転け起き上がるのも手を着くことができない。
「わわっ!」
何度も転けるが奥へ奥へと進む。