この夜はどこかおかしい9
ズガガガガ……キュゥゥゥ
銃撃を止めた?
「この気配……そこですね!」
パァン!
キン!
ドロッ……
「わわっ! 太刀が……」
「欽治、その刀を捨てろ!」
地下遺跡に居ないため、またふらっとドラゴン狩りに行ったのかと思ったが違ったようだ。
町の異変に気が付いて助太刀に来てくれたか。
だが相性が悪すぎる。
物理攻撃で倒せるような相手では無い。
相手に触れなければならない物理はすべて無効化されるし、欽治の刀がニーニャさんの身体に触れるたび武器を失ってしまう。
それはナデシコが闇ユーナと殺りあったことでよく分かった。
「ドレイクさん左腕が……」
「このくらいなんとも無い。それより残りの武器はその脇差しだけか?」
「ええ、さすがはニーニャさんです。気配を完全に断っていたのに気付かれちゃいました」
闇属性の恐ろしさをミズガルズで強襲されたときに欽治もよく理解しているはずだ。
だからこそ気配を断って接近したのだろう。
「あのニーニャさんに説得を試みても無駄なんですよね?」
「少し前なら聞いてくれたかもな」
見た目で騙されてはいけないと何度も心に誓った。
しかし、あんな姿を見せられてはそうもいかない。
ニーニャさんを助けてあげたい。
助けると言ってもすでに亡くなっている者を生き返らせることなどできない。
だから俺がしてあげられることは死した後も人形として操られている今の状態を終わらせることだ。
それも苦しまずに……難しいことは分かっている。
それでも初恋の人が自身を消して欲しいと俺に願い出たのだ。
自分自身を危険な存在だと認知できているからそれが我慢出来ないのだろう。
俺だって本気で惚れていた女性の最後の願いくらいは叶えてあげたい。
他人に興味を持たなかった俺がこの世界に転移させられて楽しく生きてこられたのはニーニャさんの影響が大きい。
俺も一度は死んでしまったがリュージであったころの心までは無くなってはいない。
「欽治さんでしたか。神族に従うなど貴方も堕ちてしまいましたね。この世界の理から外れている貴方なら神族とも十分に渡り合えたはずでしょうに……」
「ニーニャさん、先輩は……先輩はどこに居るんですか!?」
「先輩? ああ、ダリアさんなら壊れましたよ。いいえ、最早亡くなったと言ったほうがいいでしょう。今のダリアさんはタナトス様のことを指します」
「そんな……」
亡くなった?
精神崩壊は死亡扱いしていいものなのだろうか?
いや、魂がある以上死んではいない。
精神を治せる魔法など思い当たらないが治療術が皆無なわけでもない。
「そうでした……タナトス様は欽治さん貴方も欲しがっていましたね。ここで闇に堕ちて私達と一つになってください」
あぁぁぁ、そうだったぁぁぁ!
欽治も標的の一人なの完全に忘れていた!
これって……まずい!
パァンパァンパァン!
「わわっ!」
有言実行するまでの行動力が早すぎるんだよニーニャさん!
少しくらい考える時間もくれ!
欽治がなんとかニーニャさんの攻撃を躱す。
カンッ
いや、違う。
また跳弾か!
ハンドガンのような単発なら軌道も比較的計算しやすいのだろう。
「欽治!」
ガシッ
欽治の手を取り上空に回避する。
「ドレイクさん、ありがとうございます」
だがニーニャさんと距離を取ってしまうと……。
パァァァン!
「わっ!」
ほら来た!
スナイパーライフルを取り出して狙撃されるのは分かっていた。
欽治の手を振り上げ更に上空に投げ飛ばす。
空中戦を仕掛けるにしても空を飛べない欽治が邪魔だ。
「ドレイクさん、仕掛けてみます!」
ヒュゥゥゥ
欽治が空中で脇差しを抜き構えを取る。
見たことのない構えだ。
欽治の流派はあらゆる状況を想定してその状況にあった技が存在する。
敵の頭上から放つ技は何度か見たが今回は敵との距離がかなり離れているぞ。
「禁忌の型……」
近畿だとっ!?
大阪・兵庫・奈良は見た。
だとすれば残りは4県だ。
どれだ、どの県名が出るんだ?
オラわくわくすっぞ!
「死牙剣!」
滋賀県キタ――!
脇差しをその場で大きく振り下ろす。
何をやってんだ?
ニーニャさんと距離が離れているのに刀を振っても意味が無いだろう?
ビシッ!
「きゃっ!」
ニーニャさんが持つスナイパーライフルが真っ二つに切断された。
あんな遠距離から何をしたんだ?
『凄いにゃ! 物理的に真空の刃を生み出すなんてとんでもない力だにゃ』
真空の刃、つまりはかまいたちか。
広島県で火属性、沖縄県で水属性の剣戟を放ったり出来ていたが、やはりとんでもチートの持ち主だよな。
くそぅ、うらやましい。
「まだまだ! 死牙剣番外、飛影斬!」
比叡山だとぅ!
バシッビシッビシッ!
「そんな……」
ニーニャさんが急いで異空間から武器を取り出そうとするが異空間を切断して武器を取り出せない状況を作り上げてしまった。
んもう、どれだけチートなんだよ!
欽治のやつめ、闇属性相手でもほぼ対等に戦えるのでは無いのか?
「ニーニャさん引いてください! 武器を扱えない貴女は僕の敵ではありません」
確かにニーニャさんの恐ろしさは無尽蔵に扱える武器を収納している空間だ。
それさえ破壊してしまえば何とかなるかもしれない。
でも異空間を斬るってどんな原理なんだ?
え、チートに理由は不要?
それって作者さん、ただ説明できないだけなんじゃ……。
ストン
欽治が地面に着地しニーニャさんに刀を向ける。
俺も降りて欽治の横に立つ。
「逃げろと言うのですか? タナトス様の命令に背くことなど出来ません。なんとしてでも欽治さん貴方はいただきます」
武器を持っていないニーニャさん相手なら科戸の風をぶつけるために接近できそうかな?
しかし、あの落ち着きようニーニャさんらしいと言えばそれだけだが何か策を残している様子にも感じられる。
ポウッ
ニーニャさんの胸にある土龍神の御霊が弱々しい光を放つ。
『土龍ちゃん苦しんでいるにゃ。あれは土属性の力を強制的に引き出している証拠だにゃ』
「土龍神、私に力を貸しなさい。アースドラゴン」
ピクッ……
「ドラ……ゴン?」
欽治がドラゴンという単語に反応する。
「ニーニャさん、アースドラゴンって何ですか!? どこに居るんですか! 早く、早く早く教えてくださぁぁぁい!」
こんなときでもドラゴン狩りのことを考えているのか?
いつでも自分の欲望には忠実なやつだ。