この夜はどこかおかしい5
「ゴブフェ美、ドレイク様の御前ですわよ! これ以上の無礼は……」
もうこいつの相手をするのはよそう。
杏樹関係のフラグを立てるとろくな目に合わないのは目に見えている。
「覇王様!」
一人の領民が走ってくる。
げ、もうフラグが立ってしまったのではないだろうな?
「何事ですの!? ドレイク様の御前でこれ以上騒々しいことは……」
「覇王様、あの者は壁外の村の一つであるドッコドッコ村の村長でございまっせ」
戦いでもあったかのように傷だらけになっている。
これはタタごとでは無さそうだ。
しかし、この卵を地下神殿へ持っていくのが先決だしルカに対応を任せよう。
「ルカ、話を聞いて報告を頼む。俺は地下神殿に行っているから」
「了解しましたわ」
「ウンディ付いておいで」
「はい……パパ」
風神化した状態を保ち地下神殿へ歩む。
「「覇王様万歳! グランディア万歳!」」
これも本心でやっているのか疑問に思えてきた。
はぁぁ、領民のために今まで頑張ってきたのになんだかなぁ。
本当にスローライフを満喫するためにローズかルカに領主を譲ってしまうか?
でも、あの2人も付いてきそうだし子どもの養育に何かと必要なものは多い。
領主をやっているとそういったものに困ることは無いし……責任がどうのこうってのも有耶無耶に出来ているのが現状だ。
幸いなことに俺の子どもたちはみんな人間では無いため成長が早い。
2歳とはとても感じさせられないほどの成長速度だ。
独り立ちできるまでは領主を続けるしか無いよな。
その後は国を捨ててコスモスと一緒にスローライフを満喫する!
皇位継承争いなど御免だ。
コスモスとの間に誕生するだろう子には欲望渦巻くドロドロな関係に関わらせたくなくなった。
ルカとローズに対する領民の見識を調べることとウンディとガイアのどちらが領民のことを思って行動できるか見極めさせてもらおう。
もちろん、このことは2人に伝えない。
伝えたら伝えたで世論を動かすために色々と画策しそうだしな。
「父ちゃん!」
「今度こそ遊ぼ――!」
地下神殿内へ入るとファフとニーズがすぐに俺のもとに駆け寄ってくる。
あれ、欽治はどこに行ったのだろう?
ま、四六時中一緒に居るわけでも無いか。
稽古だってずっと続けられるものでも無いからな。
「卵を置いてからな」
「この子だぁれ?」
「パパのニオイを感じる?」
なんだ、ウンディと会ったことが無いのか?
一応、血の繋がりは有るわけだし互いに知っておいたほうが良いか。
「ウンディだよ。ママは違うけど俺の血は通っている」
「ふぅん、強いの?」
「父ちゃん、戦ってみたい!」
ウンディと戦いたいなんて2歳とは思えない発想をするな。
戦闘狂なのは欽治譲りか。
でもウンディは封印中だし本気で戦うことなど出来ないだろう。
それに神殿を壊されたら困る。
「いずれな。今はこの子をそっとしておいてくれ」
「分かった、約束だよパパ」
卵をヤマタノオロチと話した壁の側に置く。
『にゃにゃ、これでどうなるのかにゃ?』
『やっと持ってきよったか』
「ああ、だけどこの卵の中はもう……」
『大丈夫じゃ。命ならここにある』
スゥゥゥ
一筋の光が壁から卵の中に入っていく。
『これは光龍ちゃんの欠片かにゃ?』
師匠の卵から強い力を感じる。
『おい、貴様の持っている光龍神様の御霊もその卵に近付けろ』
壁からヤマタノオロチの声がまだ聞こえる。
卵の中に自身が入った訳では無いのか?
とりあえず言われた通りにしてみよう。
光龍神の御霊を卵の殻に触れさせる。
ズズッ……
「わっ、御霊が!」
卵の中に取り込まれてしまった。
もしかしてこの卵から生まれるのって……。
スゥゥゥ……
「光が収まったの?」
「父ちゃん、凄い凄――い!」
『あとはしっかりと温め孵化するまで待てば良い』
『まさか光龍ちゃんが復活するのかにゃ!?』
『ええ、その通りでございます。さすれば風龍神様も新たな肉体を得られることでしょう』
予想外の出来事だが光龍神が復活すると言うことは光属性そのものが復活するということだ。
タナトスを葬ることができる唯一の力を誰もが取得することが出来る。
この破茶滅茶な世界の一つはこれで解決しそうだ。
となると問題は現魔王であるマイケルか。
でもあいつらの部下はみんな人族だし俺の天罰を持ってすればマイケル以外は敵では無い。
マイケルの能力が問題だよな?
そう言えば能力と言えば雪が居たな。
核兵器は使うわ、暇潰しに殺し合いはさせるわ、悪逆非道以外の何者でも無い。
あいつはもう救いようが無いし天罰でならず者共々朽ち果ててもらおう。
ま、真の天罰ってわけだ。
『ドレイク様!』
念話でルカの声が頭の中に聞こえる。
壁外の村からやってきたゴブリンの件だろう。
『そんなに慌ててどうした?』
『大変です! 闇属性が……』
パァァァン!
ブツッ……
銃声らしき音が聞こえたのを最後に念話が途切れてしまった。
闇属性?
もしかして堕天使がここに?
なんて最悪なタイミングだよ!
それにルカはどうなった?
念話が途切れたということはまさか?
『にゃにゃにゃ、光龍ちゃんはいつごろ誕生するにゃ?』
『少なくとも数年は……』
そりゃそうだよな、なんせこのサイズの卵だし鶏のように早くは無いだろう。
しかし盛って2日耐えられるかどうかの相手だ。
下手すれば数時間後にはグランディアが堕天使に滅ぼされてしまう。
風神の力を持って闇ユーナを倒せたのが奇跡みたいなものだ。
拡散で闇属性を細かくしていって堕天使の身体を崩壊させる同じ方法が通用するかどうか……。
「う……うぅ……マ……マ」
「ウンディ?」
封印しているのに自ら言葉を放った?
ゴゴゴゴ……
パシャパシャ
「水の礫?」
「わぁぁ、パパこの子凄いよ!」
綺麗に整地された地面にヒビが入り地下水が礫を作り浮かび上がってくる。
この力はウンディのものか?
『凄まじい力だにゃ。ドレイク、封印を解除してやらないと心が割れてしまうにゃ』
ルカの身に何かあったのは確実だろう。
突如としてウンディがこのような怒りを持つわけが無い。
「仕方ない。ウンディ頼むから勝手な行動はするなよ」
パキン
「うわぁぁぁ、ママぁぁぁ!」
ドゴォォォン!
封印を解いた瞬間に坑道に飛び出してそのまま地上へ向かってしまった。
まるで人の話を聞いちゃいない。
怒り狂っていれば当然か。
「ファフとニーズはここで卵を守っていてくれ。絶対に外に出るなよ」
「うん!」
「父ちゃん、あの子泣いていた。助けてあげて」
ローズとガイアは無事だろうか?
それに研究所も……コスモス無事で居てくれ。