この国はどこかおかしい2
「ルカ、俺の指示が聞けないと?」
「だって本当に雑魚なのですもの! 今のドレイク様はあの頃の素晴らしい神であった偉大なるお方ではありませんわ! そんな方の命令を聞く必要など……」
「ママをイジメるな! この雑魚め!」
ん――?
もしかしてこれって……。
「エレメンタルチェンジ、ウィンドフォーム」
パァァァ!
「ドレイク様、先程のご無礼をお詫びいたしますわ! ほら、ウンディも謝りなさい!」
「パパぁ、凄い凄い――!」
ルカもウンディも目がハートになり態度が一変する。
「エレメンタルチェンジ、ノーマルフォーム」
「雑魚はヤダぁぁぁ!」
「やはり先程の言葉は撤回したしませんわ」
また態度が一変し俺を蔑ろにする。
なるほど、ルカは俺の天使だ。
神の力を持っていないノーマルフォームと風神の力が溢れ出るウィンドフォームではこうも態度に違いが出るのか。
神格化している状態では魅了のような状態にかかっているのだろう。
ということはノーマルフォームの時の態度がルカの俺に対する本心?
なんか寂しい気もするがもう夜這いをかけられずに済むと思うと安心できる。
もう一度、風神形態になりルカに指示を下す。
「了解しましたわ。ウンディも良いですわね?」
「パパぁ、遊んで――」
「そうだな、部屋で暴れずに大人しくしていたら遊んでやる」
「やった――」
ルカに連れられてコスモスの部屋に戻る2人。
ユーナも改心できたしウンディもホムンクルスたちの下で育てられるほうが良いかもしれない。
でもずっと引き込ませるのも可哀想なんだよな。
少しホークに相談してみるか?
ユーナもコスモスの部屋で引き込ませるわけにはいかないしな。
食堂でオーク美さんが軽食を作ってくれたし食べてからで良いか。
軽く食事を済ませ屋敷を出る。
町の中を通りホークの居る研究所に行くとしよう。
中心街はたったの2年で随分と立派になっていた。
手に職を持つ領民も増えたようで多くの店が立ち並んでいた。
「おお、ドレイク様じゃ」
「ドレイク様――お帰りなさぁぁぁい」
領民はノーマルフォームの状態でも今までと同じように接してくれる。
神力の有る無しで判断する天使とは大違いだ。
「ドレイク様、畑の状態が最近良く無いのです。少し見て下さらぬか?」
今までは土神の力で豊富な土壌にしていたからな。
作物を何度も育てているといつかは土壌も痩せこけてしまう。
参ったな……今の俺では改善できない。
「ローズには頼んだのか?」
「ローズ様もお子さんを設けられていから忙しいようで……」
ふぁっ!?
子ども……だとっ!?
まだ子どもの姿のローズが子どもを産んだ?
いや、実際には子どもでは無いのは分かっているのだが……誰の?
「あっ、ドレイクしゃま――!」
俺と身長がそれほど変わらない少女が声をかけてきた。
抱っこ紐に包まれた赤子が少女の胸の中で気持ち良さげに眠っている。
「えっ、まさかローズなのか?」
「そうでしゅよ――」
「2年ほどで随分背が伸びたじゃ無いか」
「えへへ――ドレイクしゃま、貴方の息子のガイアでしゅよ――」
やっぱり俺の子かぁぁぁ!
神族の繁殖力高すぎんだろ!
ローズに襲われたのはたったの一回なのに!
くっ、俺の心に責任という重圧が重く伸し掛かってくる。
「へ、へぇぇぇ……俺の子かぁ……わぁぁぁい」
「はっはっは、ドレイク様! これでグランディアも安泰ですな!」
「もちろん次代領主はガイア様ですわよね?」
「何を言う!? 先に誕生なされたウンディ様に決まっておろう!」
この国を受け継いで貰うのはコスモスと俺の間に誕生した子どもだとすでに心に決めている。
それにルカとローズには念話で伝えたはずだ。
「俺の跡継ぎは正妃であるコスモスとの間に誕生した子だぞ」
「はっ? 正妃はローズ様なのでは?」
「私はルカ様だとお聞きしましたよ!」
ふぁっ!?
おいおいおい、それって……。
ローズの顔を見ようとすると視線を逸らされる。
「ローズ、これはどういうことだ?」
「……えへっ」
「えへっじゃ無いだろぉぉぉ!」
確信犯だ!
まさか俺の居ない間に国を乗っ取ろうと画策していた?
いや、そこまでのことをするほどルカとローズは愚かではない。
まさか世論を操作して無理矢理にでも自分を俺の正妃になろうとした!?
世論の力は絶大だ。
いずれは民主主義化を考えている俺として全領民に俺から何かを強制するわけにはいかない。
これは昔から徹底して貫いていることだ。
それを逆手に取って世論を味方に着けるとは……考えやがったな!
こんちくしょう!
「ドレイク様、俺はローズ様が正妃にふわさしいと思います!」
「何を! ルカ様の下でずっとお仕えしてきた我々がルカ様を推すのが当然だろう!」
この町の多くはルカが悪魔だったころに仕えていた者の子孫だ。
ゴブリンの寿命は短いため奴隷のような扱いをされてきた者は数が少なくなっている。
そして奴隷時代のオークたちは勇者軍の強襲で殉職してしまったか、今も兵役で駐屯所に留まっている者が多い。
ルカの過去を知る者が少なくなってきているためルカ派も増えてきているようだ。
これは参ったな。
俺の居ない時にルカとローズが好き勝手に領民たちに誤情報を伝えて分断化が出始めている。
ウンディ派やガイア派で衝突が起こらないだろうか?
最悪、国が二分するかもしれない。
「ローズ、後で説教な」
「しょ、しょんなぁ……」
「それよりローズはノーマルフォームの俺を見てもいつも通り接してくれているよな?」
「のーまるふぉーむ? それってなんでしゅか?」
俺が神力を持っていないことに気付いていない?
「しょれよりもゴブ昌しゃん、畑が何とかって聞こえたのでしゅが……」
「あ、ああ。ローズ、畑の土壌管理を俺が居ない間やってくれていなかったのか?」
「どうしゅればいいのか分からなかったのでしゅ」
「そうか、教えれば出来るか?」
「もちろんでしゅ!」
だったら土壌管理をローズに教えれば任せられるだろう。
「よし、それじゃ後で教えるよ」
「ゴブ昌しゃん、後で伺うでしゅ」
「わ、分かりました。よろしくお願いします」
「ドレイクしゃま、一緒に行ってもいいでしゅか?」
「ああ、良いよ。ガイアを抱いて良いか?」
「えへへ、ガイアも喜ぶでしゅ」
この子は土属性の力がかなり強い。
3代目ハデスになれる資格もありそうだ。
「ガイアもウンディと同じようにずっと外に?」
「起きているときはずっとコスモスしゃんの部屋に籠もりっきりでしゅ。日光に当たるのも大事なことかと思いたまに寝ている時に外に連れ出す程度でしゅよ」
それならウンディより精神汚染は遅いはずだ。
外に出たがらないのは何故なのか気にはなるがそれが神族にとって良いことなのは間違いがない。
ローズと一緒にホークの研究所に入る。
「ユーナは寝かせてきましたの?」
「ああ、ぐっすり眠っているよ」
「それなら良かったですわ。あら、その子……勇者様もお子さんにやっとお会いできて嬉しいことでしょう?」
それがそうでもないんだよなぁ。
ウンディもガイアも可愛いし大切にしたいとは思っているが、そこまでの課程がアレではなぁ……。
俺がルカやローズに夜這いをかけられた側なんだぞ。
言ってみれば被害者だ。
ま、こうなった以上は徹底的に可愛がって立派な神族になるように育てるつもりだがな。