この国はどこかおかしい1
ガチャ
「あら? やっと帰ってきやがったですかマスター。居ても居なくても対して役に立っていないのが証明されましたね」
あんれぇ?
オボロのきつい口調がさらに激しさを増している?
って誰が役立たずだよっ!
「ただいま。ルカとローズは?」
「スイレン様は自室です。ローズ様は民たちの手伝いに。ところで髪を緑色に染めて何をやっていやがったんですか? それでグレているつもりなんですか? 似合っていないのでさっさと洗面台で髪を洗ったほうが良いと思いますよ」
誰がグレタちゃんだ!
そう言えばウインドフォームの状態を解除していなかったか。
身体の浮遊感も慣れて違和感が無くなっていたのですっかり忘れていた。
『にゃんにゃん、もう解くのかにゃ?』
「ああ、またお願いするよ。エレメンタルチェンジノーマルフォーム」
パシュッ
オボロの目が点となりこっちを見ている。
この程度のことで驚いたのか?
いや、次はどんな口攻めをするのか言葉を選んでいるのか?
俺にはそんな興味はないからとっとと離れよう。
「むにゃむにゃ……」
ユーナが俺の背中でぐっすりと眠っている。
睡眠中でも想いを吸い取ってしまう神族の性質は変わらない。
早く部屋に連れて行かないとな。
「ド、ドドド、ドレイク様!?」
食堂からオーク美が出てきた。
突然の帰還だったから驚かせてしまったかな。
後で領民を集めて謝罪させてもらうか。
「オーク美さん、小腹が空いたから何か作ってくれないか? ユーナを部屋で寝かせたら食堂に行くよ」
「は、はい」
コスモスの自室へ行きユーナをベッドの上で寝かせる。
コスモス本人が居ないのに埃が1つも無い。
オボロが毎日掃除をしてくれているようだ。
ま、メイドだしな。
使用していない部屋でも掃除をするのは当然か。
「きゃっきゃ!」
「あらあら、いたずらしてはいけませんわよ」
隣は俺の部屋のはずなのにルカの声が聞こえた。
それに子どもらしき笑い声も聞こえたような?
光龍神の御霊も置いてあるし行ってみるか。
「くぅぅ……すぴー」
「ユーナ、後で遊ぼうな」
コスモスの部屋から出て自室に戻る。
「きゃはは!」
バシャッ
扉を開けた途端、俺の顔面に水を浴びせられた。
「ド……ドレイク様!? いつお戻りに!?」
「ルカぁぁぁ、ここは俺の自室のはずだが?」
「ドレイキュ?」
子どもが俺の方を見て首を傾げている。
2歳ほどの幼女だ。
幼女枠はもう良いって?
俺もそう思う。
「ほら、ウンディ。貴女のお父上ですわよ」
「あっ! パパぁぁぁ!」
ふぁっ!?
パ……パパだとっ!?
誰が?
子どもが俺に飛びついてくる。
肉体があるから半神か。
水属性の力を強く感じるが土属性も若干混じっている?
えっ……ま、まさか?
「ルカ……この子って……」
「ふふっ、もちろんドレイク様と私の愛の結晶ですわ。ポッ!」
なんやてぇぇぇ!?
俺の寝込みを襲ったアレでできちゃったのか?
……そんな馬鹿なぁぁぁ!
納得がいかねぇ!
だが男の責任を取らねば……ぐぅ!
「んん? ママぁ、パパから神力を感じない。本当にパパなの?」
「そう言えばそうですわね。ドレイク様、それって……」
「ああ、堕天使と遭遇してな。土神の力はすべて取られてしまったんだ」
「あら、そうですの? でしたら今は……」
「単なる土人形に過ぎない状態ってところかな」
「ママぁ、こんな雑魚がパパなんてヤダ!」
雑魚だと!?
いやいやいや、子どもの言うことだ。
ってか半神のルカと純神の俺の間でできた子どもなら人々の想いを取り込む性質は残っているはずだ。
それでこのお転婆だったら良くない傾向にあるのでは?
「ルカ、この子は生まれてからずっと外に? 神族の性質は以前教えたはずだが」
「ご安心を。ウンディは水神の力が強いですわ。以前、ミズガルズで出会った源様の提案したバブルウォールを常時展開しておりますのよ」
そう言えばそんなこともあったな。
だが、それも完全ではない。
この子のお転婆が人々の想いを取り込んでの結果で無いことを祈るしか無いか。
「ママぁ、雑魚はやだぁ!」
「はいはい、今は雑魚でも以前は相当な使い手でしたのよ」
「今が雑魚だったら意味が無いのぉ!」
雑魚雑魚うっせぇな。
戦闘時になればすぅんごぉぅい強いんだぞ。
……師匠には劣るがな。
「ウンディだったか。俺の部屋を随分濡らしてくれたようだが室内では水魔法は厳禁な」
「べーだ! 雑魚の言うことなんて聞かないもん!」
ムカッ!
これが本当に俺の子か?
腹黒なルカのことだ。
土属性を若干持った半身の子どもを何処かで見つけてきたとか……流石にあり得ないか。
「あらあら、ウンディお父上に失礼ですわよ」
「だって本当に雑魚なんだもん!」
それで終わりか?
まるで反省していないのに……ルカも叱る時はしっかりと叱らないといけないぞ。
ウンディが手遅れになる前に再教育をしないとこの子の将来が第2の魔王と成りえそうだ。
「ウンディ、だったら俺と勝負するか? 俺が勝ったらパパやママの言うことをしっかりと聞くこと、良いな」
「ふんだ! 雑魚になんか負けないもん!」
2歳にしては言葉がしっかりとしているな。
頭はルカに似て良いのかもしれない。
「ここは俺の部屋だし外に出るぞ」
「ママ、おんぶ!」
「仕方無いですわね」
いやいや、自分で歩けよ!
ルカもそんな言われ方で従うな!
「ドレイク様、パンケーキが焼けましたが……」
「オーク美さん、後でいただくよ」
3人揃って屋敷の外に出る。
屋敷前は広場になっているため誰かに危害を加える心配はない。
フォームチェンジしてウンディを圧倒してやる。
この状態でも勝てなくは無いだろうが下手に苦戦でもしてしまうと反省しないかもしれないからな。
「雑魚には絶対に負けないもん!」
「勝敗はどうやってお付けになられますの?」
ウンディが負けを認めないと意味が無いよな?
「どちらかが参ったと言う自己申告制でどうだ?」
「絶対にそんなこと言わないもん!」
本当に言わなさそうで心配だが認めさせないといけないし仕方が無いよな。
「では始め!」
「とっととくたばりやがれぇ! ウォーターニードル!」
まぁ、なんて下品な言葉を使うのかしら!
お父さん悲しくて泣いちゃうわよ!
ヒュッ
縮地で避けつつウンディに接近する。
開始早々に無詠唱魔法を放ってくるとはこの子なりに戦闘を早く終わらせるコツというものを知っているようだ。
「消えた!? どこ?」
「ドレイク様もバハムートさんと同じ縮地を極めましたのね?」
パッ
ウンディの眼前で立ち止まり姿を表す。
目つきを鋭くしこの子を見る。
「ひっ!」
この程度の威圧だけで怖気付くとはやはり口先だけのようだ。
わざわざフォームチェンジをしなくても決着が着くかもな。
「負けを認めろウンディ」
「い……嫌だ! 雑魚になんか絶対に負けないもん!」
ギロッ
瞳に殺気を込めウンディを睨みつける。
「び……びぇぇぇぇん! ママぁ!」
大泣きしてしまった……。
しっかりしていそうでやはり2歳児だな。
このくらいにしておいてやるか。
手を出すつもりは始めから無かったし結果としては上出来だろう。
「おーよしよし。ドレイク様この子は相当な負けず嫌いなのです」
「うっ……うっ……負けてないもん!」
負けず嫌いだからっていつでも勝てると思い込むのは良くないだろ?
上には上が居ることをしっかりと知るべきだ。
「神じゃない雑魚なんかに負けてないもん!」
「ウンディ!」
神族至上主義の思想が出ている。
やっぱり悪い想いを取り込み精神が侵されつつ有るではないか。
「ルカ、この子をコスモスの部屋へ。バブルウォールも完璧では無いことが分かっただろ?」
「例えドレイク様の命令でもお断りしますわ!」
ええぇ!?
親バカかよ!?
将来やばいやつになったらどう責任取るんだよ!