この能力はどこかおかしい6
「すぅぅぅ……ドラゴンブレスですぅ!」
チュッ……ドォォォォン!
師匠のブレスが南の大門に直撃する。
凄まじい爆風で足下は何も見えないが確実に破壊できたはずだ。
ビービービー!
「敵襲! 敵襲! 総員速やかに戦闘配置に着け! これは演習ではない! 繰り返す、これは演習ではない!」
警報だと?
師匠の攻撃で破壊しきれなかったのか?
ドォォォウ!
「うわっ!」
足下からビーム砲が飛んでくる。
爆煙が晴れ南の大門の全景が見える。
「なんで壊れてないですかぁ?」
壊れていないどころではない。
傷一つ入っていないし要塞の外に居たならず者たちも無傷だ。
「もう一回……ドラゴンブレスぅ!」
ドゴォォォン!
さっきの攻撃より威力を弱めて師匠がブレスを放つ。
爆風で見えなくなると何故防がれたのか分からないからな。
ジ……ジジ……ジ
「光の壁ですかぁ?」
ドーム型のビームシールドだと!?
それを要塞に覆う形で展開して師匠のブレスが効かなかったのか?
ドォォォン!
ビュンビュンビュン!
「むぅぅ、あっちの攻撃は飛んできてこっちの攻撃は当たらないなんてずるいですぅ」
師匠のブレスを2回も耐えられるほどの強度だ。
魔王軍も俺たちの位置を確認できたのか砲塔の狙いが俺たちに向けられる。
「こうなったら突撃しちゃいますぅ」
それしかないか。
だが、いくら雑魚とは言えあの数のならず者を相手にするのは少々骨が折れる。
それにナデシコ型が出てこないのも気になるところだ。
『烏合の衆には天罰でお仕置きにゃん』
「天罰が使えるのか!?」
『当然にゃん。風神族を生み出した神が言うことにゃ。まさか信じていないのかにゃ?』
そうだった。
天罰は龍神が人神に使うことを許した神力の1つだ。
「ヒャッハー!」
「撃て撃て撃てぇぇぇ!」
「ぎゃははは! 女や子どもでも容赦しねぇ!」
馬鹿にはお仕置きが必要だよな。
「エレメンタルチェンジ、ウィンドフォーム」
スゥゥゥ
「わぁ、やっぱり凄いですねぇ。ドレイク、後でたっぷり味わいたいですぅ」
師匠が目をハートにして俺を見つめる。
土神とはヤったから次は風神とヤりたいってか?
すまんが却下だ。
天罰の使い方は分かる。
龍神に使用許可をもらうことで空気中に漂う属性力を毒性化させるものだ。
土属性の場合は毒性化すると触れた相手の細胞に侵入し石に変えていくものだった。
風属性の場合はどういった作用があるのか試してみる価値は十分にある。
環境を傷付けず敵のみを葬り去る……地球で言うところの細菌兵器のような位置付けになるのかな?
「風龍神頼むぞ……天罰!」
『了解にゃ』
ビシッ
「ぐわぁぁぁ!」
「息が……息ができねぇ!」
「く、苦しい!」
ならず者どもが次々と倒れていく。
息ができないとか叫んでいたよな。
『空気中の酸素のみを取り外したにゃ。苦しくて当然にゃん』
うわぁ、それはまた残酷な技だな。
砲撃も止み辺りが静寂に包まれる。
要塞内に居たやつらも全滅したようだ。
天罰は無双プレイには適しているがフェアじゃないよな。
「ドレイクぅ、もう我慢出来ないですぅ! 今ここで生殖を」
「わぁぁ! 師匠やめてくれ!」
『うんうん、増やすことは生き物の宿命だにゃ』
風龍神まで何を納得しているんだ!
俺の身体をがんじがらめにされて身動きが取れない。
でも師匠の胸が当たって背中には良い感触が……げふん!
「はぁぁぁ、ドレイクの匂いですぅ。風属性が濃くて良いですねぇ」
師匠の馬鹿力に敵うはずもなく俺はまた貞操を奪われるのか!?
嫌だ、そんなのは絶対に嫌だ!
「エアー!」
ヒュゥゥゥ
「ああん、ドレイクこれからなのに逃げないでくださいよぉ」
身体を風にすれば簡単に抜け出せた。
師匠が怖いから少しの間このままで居ておこう。
「先に遺体を片付けないと。狩った者の責務だからな」
「先にってことは後で絶対にヤらせるですよぉ」
んもう、この痴女め!
今に始まったことでは無いしいちいち怒るだけ無駄か。
襲われそうになったら全力で逃げてやる。
「さてとかなり広い場所だし一箇所に集めるだけでも大変だな」
「放っておけば良いのですよぉ」
「そうはいかないだろう。衛生管理はしっかりしないとな。もしもこの場所から疫病が発生でもしたら放置した俺たちの責任になるわけだし」
「真面目ですねぇ……今はヤらせてくれないみたいだし少し探検してくるですぅ」
俺一人で片付けろってか!?
手伝ってくれないのかよ。
ヴ……ヴヴ……
『勇者様ご無事ですか? 今どちらに?』
ホークの声が聞こえる。
これもどうなっているのか後で説明してもらわないといけないか。
「南の大門だよ。魔王軍が集結していたから片付けていた。ホークはグランディアか?」
『いえ、まだ地下研究所ですの。ちょうどよかったですわ。今すぐそちらに向かいますのでお待ちになっていて下さい』
ナデシコじゃあるまいし瞬間移動などできないだろう?
もしかして空中戦艦の一隻でも奪ってきてくれるのだろうか?
ホークに言われた通り暫くの間待っていよう。
ただ屋外は暑いし、じっと待つのは時間の無駄だ。
要塞内に必ず存在するであろう司令室でこの要塞のことを調べたい。
せっかく綺麗な状態で残っているしな。
ここにグランディアから兵をある程度駐留させておくのも悪くなさそうだ。
「勇者様みっけ」
司令室を探して廊下を歩いていると近くの部屋からナデシコ型を数体引き連れたホークが出てきた。
まさか、もう着いたのか?
いくらなんでも早すぎるぞ。
「どうやって移動したんだ?」
「Dシリーズの能力を分析し限定的に使える装置を開発しましてよ」
「ん、マスター凄い」
「マスターは天才」
ホークの出てきた部屋の中を覗いてみるとワープ装置のようなものが置かれていた。
ダリアの能力だけを使える装置を開発したのか?
それならば過去に戻ることも……いや、同じ時間軸に辿り着ける可能性は低すぎるし今更意味のない事だ。
ヴヴン……
ワープ装置が再び稼働し幼子と手を繋いだナデシコ型が出現する。
言わずもがなその幼子とはユーナだ。
「ほら、ユーナちゃん。貴女のお兄様ですわよ」
「お……兄様?」
なっ、何だとっ!
今、何と言った!?
あのユーナが俺のことをお兄様だって!?
ナデシコ型の後ろに隠れ恥ずかしそうに俺の顔色を伺っている。
「ん、恥ずかしがり屋のユーナ。兄に挨拶しなきゃ」
スッ
ナデシコ型に背中を押されユーナが俺の前に立つ。
大きくなったな。
まだまだ元の姿には程遠いが想いを吸収し成長はしている。
体格的には幼稚園児くらいかな。
「ほら挨拶の時はこうやって」
「お……お兄様、ユ……ユーナ……です」
スカートを少し摘み上げ膝を軽く曲げ挨拶をする。
まさか貴族令嬢のようなお辞儀までできるようになっているとはホークとナデシコ型に育児を任せて正解だったようだ。