この能力はどこかおかしい1
「ぬぐぅぅぅ!」
凄まじい爆風が空中に放り飛ばされた俺を襲う。
ナデシコと師匠は初めから作戦を立てていたようだが、こんな内容なら俺が反対するのは目に見えていて何も言わなかったのだろう。
核兵器を躊躇いも無く使うなんて雪と同等だ。
……虐殺目的で使用する雪よりまだマシか?
ヒュッ
「キャッチしましたですぅ」
「師匠!?」
「ふわぁ、相変わらずナデシコのやることはえげつないで」
師匠が俺を掴まえてお姫様抱っこされた。
ミミも俺のポケットから顔を出し爆心地を見て驚いている。
「闇ユーナがあんなので倒せるのか?」
「分からないですぅ。激しい閃光も発生しているようだし賭けてみる価値はあるですよぉ」
まさかきのこ雲の実物を見ることになるなんてな。
この後何十年もあの辺りは立入禁止区域になってしまう。
地球とは違う世界であれ星の一部を壊したのに変わりはない。
魔法だって属性汚染があるし超威力になるものほど遺恨も残してしまうのはどの世界でも同じだ。
爆発時の激しい光は確かに光だがこの世界特有の光属性ではない。
闇は消えても闇属性が単なる光で消滅するのならこの日光の下でもダメージを負っていたっておかしくはないのだ。
俺としても倒せていて欲しいが望みは薄そうだな。
タンッ
「ここまで来れば良いですねぇ」
グランディアまで戻らないのか。
でも闇ユーナに追ってこられたら大変な目になるし一度様子を伺うのも必要だ。
『バハムートさん着弾を確認いたしましたわ。新生勇者様は?』
ホークの声が聞こえる。
どういうことだ?
ここは現実のはずなのにまだ夢の世界に居たような感覚が拭えない。
「俺のことか?」
『ほっ、良かった……』
「良かったじゃねえよ。さっきのあれは何なんだ、俺はまったく聞いていないが?」
「ドレイク、ホークを責めてはいけないのですよぉ」
だが発射スイッチを押したのは明らかにホークだろう。
だったら同罪だ。
「ナデシコがホークに命令したのか?」
『まぁそういうことですわね。ナデシコは近くに居まして? さっきから通信が届かないんですの』
ナデシコは俺を投げた後瞬間移動して消えたのは確認している。
ただ何処に跳んだかまでは俺にも皆目見当がつかない。
もしかして出現地点が核の範囲内で熱波で蒸発したなんて……ナデシコがそんな失敗をするはずが無いか。
ズズッ……
きのこ雲が急速に収束して小さくなっていく。
小さくなるというか何かに吸い込まれているように見える。
俺の予想は当たっていたようだ。
闇ユーナが何らかの魔法で煙を除去しているのだろう。
「あれは闇属性ですねぇ」
『そんな……』
「分かったか? 闇属性に強烈な閃光程度では意味が無いんだよ。目的を排除できずに無闇とこの星を傷付けただけだ」
「本当ですねぇ。やはり魔力が通っている光属性ですかぁ……」
さてどうするべきか。
ナデシコや師匠でさえも倒せない相手なのは理解できている。
だがアルス大陸に渡って来られた以上は放っておくと人族そのものが絶滅させられる恐れもある。
俺が培養槽の中で眠っている間にガンデリオン大陸の神族はほぼ死に絶えたのか?
そうでなければアルス大陸に侵攻してくるはずがない。
「ホーク先に話を聞かせろ。空気中の属性力はほぼ無くなっているか?」
『そのことですの?』
「他にも聞きたいことはあるがまずは属性力だ」
『魔術師たちの話では水属性と雷属性以外の攻撃魔法は使えなくなったようですの』
ということはその2属性以外はタナトスの手に渡ったということだ。
おふくろの故郷であるミズガルズはまだ無事だったのか。
あそこは島国だし簡単には行けないから侵攻を最後にしているのかな?
謎なのは雷属性だな。
雷神族の国であるアースガルズはガンデリオン大陸の中心部だったはずだ。
ガンデリオン大陸の国々の中で最も小国だが何故か最強の座に君臨している。
闇ユーナ以外が見当たらないのはアースガルズやミズガルズに侵攻中だとか?
それならば闇ユーナだけどうして別行動しているのか不思議に思えてならない。
そうだ、夢の中で勇者軍……ではなくて今は魔王軍だがガンデリオン大陸に侵攻し闇ユーナと対峙した時の映像を見た時に闇ユーナが言っていた。
彼女は杏樹と雪を探しているのだ。
あの映像から何百日も経っているはずなのにその間ずっとヘルヘイム内を探していたのか?
人一人を国内から探すにはそれくらいの時間がかかって当然か。
空を飛べたとしても国内を移動するには時間がかかるしな。
そして見つからなかったためアルス大陸に渡ってきたと言ったところだろう。
「師匠グランディアに戻ろう。ここに居ても俺たちにはどうしようもできない」
「そうですねぇ。その前にぃドレイク拙と繁殖を……」
「しない」
「そんなぁ……楽しみにしていたですよぉ」
『こ、こほん。では私もそちらに合流いたしますわ』
「ホークも勇者軍……じゃなかった。魔王軍を離脱するのか?」
『魔王になった彼に何の未練もありませんわ』
「そうか、でも研究所で治療中のコスモスは放っておいていいのか?」
『ああ、彼女でしたら新生勇者様が最終試練を受けている間にグランディアに移送させましたわ』
「移送?」
「ホークがグランディアに巨大な研究所を建造中なのですぅ。勇者城の地下にあるものより最新の装置ばかりですよぉ」
まじかよ?
まぁナデシコ型は新たな種族としてある程度の数を確保する予定だったし最新の培養槽ができるならそれも簡単だろう。
「というかホークは初めからアレクサンダーの側を離れるつもりだったのか? 俺がまだ眠っている間にグランディアにそんなものを建てるなんて……」
『貴方が治めている国は良いところですわ。魔族の見方も変わるほどに……』
「ドレイクが眠っている間に何度かグランディアへ訪問しに来たんですよぉ」
そうだったのか。
気に入ってもらえて何よりだ。
でもそんな程度で使徒の座を捨てるなんてやはり心の中では以前からアレクサンダーに見切りを付けていたのだろう。
……俺に依頼された勇者を倒す目的での訓練もただ俺を強くするためだけのものになってしまったな。
ま、無の境地に近付けるきっかけを与えてくれた俺としては感謝しているがな。
「他に聞きたいことはグランディアで聞かせてもらうよ。ホークはどうやって来るつもりだ?」
『それは見てのお楽しみにしておきましょう』
?
ま、いいか。
ナデシコのことは心配だがあいつなら一人でも大丈夫だと信じている。
「ドレイク背中に乗るですよぉ」
「いや、俺も自分の縮地に慣れたいから自力で行くよ」
「そうですかぁ。でも闇ユーナがこっちに向かって……」
「師匠やっぱり乗せてくれ!」
爆心地の方向を改めて向くと漆黒の翼を羽ばたかせている闇ユーナが見えた。
見つかる前に逃げないと絶対に激おこぷんぷん丸なのは見なくても分かる。