この決戦はどこかおかしい7
『弱いな小僧。期待外れだよ』
『きゃ――勇者様カッコイイ!』
『ぎゃははは! 坊主の方は無様だな』
たったの一撃で俺のHPがごっそりと削られている。
たかが右ストレートだと思ったがそれだけでは無いのか?
勇者のすべてを無効化する能力は魔法だけが効かないはずだ。
そのためにホークが俺を肉体改造してまで近接特化型にしてくれた。
『ほっほっほ小童よ。降参したほうが身のためじゃよ』
合気道は基本的に投げ技が主体だ。
勇者に触れることがなければ一撃を与えられるかもしれない。
『ぺっ……武器を使っても良いのか?』
『構わぬよ。俺に一撃でも浴びせられたら褒めてやろう』
自信満々に言ってくれる。
さて武器だがこの世界では何でも取り出せる。
大抵の武具は使いこなせるように学習済みだがどれが良いかな?
まずは単純に刀でいっておくか。
カチャ
『ほう太刀か? 爺、確か我々の軍にも使い手が居たな?』
『DKシリーズや雪妃の姉君ですな』
姉ではなくて兄なんだよなぁ。
まさかホーク以外は欽治のことを女性だと思っているのだろうか?
それはそれで面白そうだし放っておこう。
『その構えは居合というやつだな。坊主からかかってこい。受け止めてやる』
『ああ、勇者様がカッコよすぎて死んじゃいそう!』
『勇者様ぁぁぁ私たちの愛も受け止めてぇ!』
側室の大勢が黄色い声を上げて五月蝿い。
集中しろ!
縮地を使っての居合なら威力は絶大だ。
天翔ける……ごほん!
似ているけれど違うからね!
ググッ!
勇者を斬る勇者を斬る勇者を斬る勇者を斬る……。
いける!
ヒュッ
『消えた!?』
『あの坊主速ぇぇぇ!』
ピシッ!
『なっ、なんと!』
ビシビシビシ!
パキンッ!
勇者も俺がここまでの速さを出せることは予想外だったようだ。
だが咄嗟に取った身の躱しは流石だった。
斬るには斬れたがかなり浅い。
しかもどうして刀が折れる?
ツ――
『ふはははは! やるではないか小僧!』
『勇者様の頬に傷じゃと!?』
『ブーブーブー!』
『何なのよあのガキンチョ! 勇者様に傷をつけるなんて!』
『勇者様、そこのクソガキを容赦なく殺っちゃってぇぇぇ!』
アウェイだから多少のブーイングは気にならないがここまで露骨だと傷付くなぁ。
『俺も少々本気を出さねばいけないようだ』
サッ
ファイティングポーズがさっきと微妙に違う。
下手に近付かない方が良さそうだ。
武器を薙刀に変える。
『ほぅ次は薙刀術とな? あの小童多くの格闘技を取得しているようですな』
『小僧、貴様の名を聞いていなかったな? 名はなんと言う』
『ドレイクだ』
『ドレイク? はて……どこかで聞いたような名ですな』
あっ、しまった。
咄嗟に本名で答えてしまったが良かったのかな?
『ドレイクって……あの覇王じゃないの?』
『そうですわ!』
『あんなガキが覇王だって!?』
『ぎゃははは! そりゃ無いぜ!』
あーもう外野が五月蝿い。
『覇……王……だとっ!? 小僧貴様が!?』
勇者には俺の容姿まで伝わっていないのか?
ま、知っていれば顔を見た時に分かっていただろうしな。
ゴゴゴゴゴ……
地響き?
いや、これは闘気で大気が震えている?
『貴様が覇王かぁぁぁ!』
どうしてそんなに怒っているのだ?
勇者の血でも騒いでいるのか?
『勇者様いけませんぞ!』
『爺、俺は激昂している。いや、この覇王に嫉妬していると言っても過言ではないだろう!』
『勇者様!』
嫉妬って?
俺からしては整形で美男子になってハーレムを作っているお前のほうが……げふん!
『羨ましい……羨ましすぎるぞ! 覇王ぅぅぅ!』
ふぁぁぁぁ!?
どうして羨ま……あっ!
もしかしてこの勇者って。
絶対にそうだ。
世紀末風悪党の格好をしていたり村や町を襲っていたところから容易に想像が付く。
『爺、俺も魔王プレイしたかったのにぃぃぃ!』
やっぱり!?
勇者が魔王に憧れを持っているから覇王を名乗った俺に嫉妬しているのだろう。
『あぁ勇者様がまた……』
『アレクサンダー様しっかりするのじゃ!』
勇者の名前ってアレクサンダーなのか。
地球の歴史上存在した英霊とは大違いだ。
『俺だって魔王になりたいなりたいなりたぁぁぁい! どうして勇者なんかやらないといけないんだよぉぉぉ!』
幼児退行していやがる。
『アレクサンダー様、貴方は勇者の血を受け継ぎし者! 勇者が悪逆非道な魔王になりたいなどと言うてはなりませぬぞ!』
『爺はいつも同じことばかり言う! やりゃぁいいんだろ! やりゃぁ!』
嫌々そうな顔で勇者が俺の前に立つ。
『ドレイク……覇王……こんな小僧に俺の夢を!』
別に俺は悪逆非道の限りを尽くしていないんですけど!
お前と俺を同じにするんじゃねぇ!
しかし部下であるスリードに叱られているとは情けない。
……なんだか白けちまったな。
勇者なんて格好良い職業に就けているのに本人は渋々とやっている。
むしろ勇者の本質を忘れているのではないか?
魔王ごっこを初めてアルス大陸の同族を襲ったりグランディール大陸のゴブリンやオークを絶滅させようと人外な行為にまで及んでいる始末だ。
もと魔王であったアネモネをナデシコ型に襲わせたのはホークかシャオのどちらかだろう。
本来なら最前線に出て戦わねばならない勇者は魔王を他人任せに放っておいて自身は魔王気取りで各地点の町をならず者と共に襲撃して楽しんでいた。
この世界では勇者と魔王は水と油のような決して交じることのない存在と聞いていたが実際には違っていた。
俺が転移してきた時にはアネモネは戦うことをすでに放棄しており勇者は魔王ごっこでアルス大陸の町や村を襲撃していた。
いっそのこと勇者を魔王として祭り上げてしまうか?
いや、だがスリードや他の配下の者はどう思うのだろう?
ホークが俺に依頼した内容は勇者の暴走を止めることだ。
暴走って魔王ごっこがエスカレートしていることだったのだろう。
本人が望んでいないことを無理矢理させられている現状を無くせばいいだけだろ?
提案だけでもしてみるか。
『なぁ再戦前に一つ提案がある』
『覇王が勇者の俺に提案だと!?』
一応勇者という自覚はあるようだ。
勇者であるのに勇者をせず魔王をしたいって……隣の芝生は青く見えるものな。
『お前さぁ魔王やらね?』
『やる!』
即決かよ!
これほどの固い決意を持っているやつだ。
意識を変えることなど絶対に無理だろう。





