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俺、神様になります  作者: 昼神誠
神のいない世界
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この修行はどこかおかしい17

 だが相手は雪。

 彼女から襲い来るのは鋭いナイフのような口撃だけだ。

 当たれば即死は確定。

 今考えることは雪に近付き手刀で後頭部を狙う。

 それだけだ!

 よし……いける!


『ドレイク何をぼさっとして居やがる!? 貴様はここでおっ死んでおけ!』


 あふん


 くそぅ、まだまだぁ!

 雪に近付くんだ!

 声よりも早く動け!

 行け行け行けぇぇぇ!

 何度も雪の能力で逝かされいつの間にか俺の思考は雪に一秒でも早く近付くことに必死になっていた。

 そして試練開始から147日目……。


『くくく! ドレイクそのアホ面を……!』


 ヒュッ


 日を追うごとに雪に近付ける距離が短くなっていくのが自覚できる。

 すでに何回雪によって命を絶たれたのか分からないほどだ。

 だがそれももう終わりだ。


『すまん雪ちゃん!』


 雪の背後に回り込み首筋を強く叩こうとしたその時だった。

 

 ドゴッ!


『がっ!』


『雪様に触れるな! この無礼者めが!』


 雪に簡単に近付けない最難関の2つ目が今になって来たか!

 雪を囲うように黒服の男性が突如として現れる。

 雪のもう一つの能力サモンだ。

 音速に近い動きで雪に近付けたのに!

 それと同様の速さでサモンが発動し人形化させられた舎弟と呼ばれる者が俺の攻撃を受け止めた。

 

『くははは! 今なにかしたかドレイク? うぜぇから死ね!』


 あふん!


 ふたたびやり直しに戻る。

 俺は雪の50メートル前のいつもの定位置だ。

 先程召喚した雪の舎弟も消えている。

 厄介だな。

 残ってくれていれば対策のしようはあったかもしれないが最初からやり直しになるのでは何処から現れるか分からない。


 俺の思考がまた乱れ始めている。

 雪の言葉より早く接近することはもう出来る。

 舎弟に構っている暇など無いのだ。

 雪の後頭部を叩き意識を失わせる。

 前面を狙うのはタイマン時のみだ。

 戦闘タイプではない女性の顔や腹部を攻撃するのは俺のプライドが許さない。

 試練を終わらせるためだけにやるのは有りかもしれないが、現実で雪の気を失わせる方法はやはり弱い力でも意識を遮断しやすい後頭部が最も良い。


『ドレイクドレイクドレェェェイク! 存在が邪魔だ消えろ!』


 あっふぅぅん!

 ドサッ!


 ……もしかして雪も俺のことが好きなのではないか?

 プログラムだから適当な言葉を喋らせているだけなのかな。

 どちらにしても雪の能力は無慈悲に発動し俺に自死を促す。

 そこから雪に接近しつつ後頭部を狙うのに舎弟が邪魔をする。

 サモンで呼び出すパターンは何通りも存在するようだ。

 雪に触れることさえできない状態が40日ほど続く。

 第一試練開始前から直に1年が経とうとしている。

 外の情勢も大きく変わったのだろうか?

 俺だっていつまでもここで眠っているわけにはいかない。


『くはは! ざまぁねぇなドレイク』


 舎弟が身を挺して雪を守る。

 縮地も移動に関してはほとんどマスターできた。

 だが音速を超えるほどの攻撃はできない。

 師匠だって縮地から攻撃に繋げることが無かった。

 いや出来ないのだ。

 姿勢を変えると急速に速度が落ちてしまう。

 それにもし出来たとしても勢いがある状態で雪に触れると衝撃が雪に伝わり後頭部を叩くだけで雪の頭部が吹き飛んでしまうかもしれない。

 やはりこの方法では雪を止めるのは無理があるか?

 雪の背後を取った後に速度を自身で殺さなければならないことが課題だな。


 遠慮なく殺れるだけの相手なら俺だって非常になれるのだが雪は欽治の心の支えだ。

 それに俺だってローウェルグリン城での背信に関して違和感が拭いきれない。

 ……今考えることではないな。

 また悪い癖が出てしまった。

 集中しなければ無の境地に辿り着けない。

 

『さぁてドレイク……てめぇは』


 雪が話し始めてから動いても余裕で背後は取れる。

 50メートルや100メートルなど今の俺にとってはなんてことのない距離だ。

 舎弟を攻撃している間に雪の言葉は話し終わり俺は人形となってしまう。

 そのため舎弟を無視し続けていたがそもそもこの考えが間違えなのかもしれんな。

 

 ヒュッ


 雪の背後を取り再び手刀で首を叩こうとする。

 

『雪様に触れることは許さんぞ!』


 やはり出てきたか。

 今回は勢いを8割ほど残している。

 このまま雪を叩けば雪を死に至らしめてしまうが身を挺して守ろうとする舎弟ごと攻撃をすれば衝撃力が舎弟にほとんど持っていかれ雪に触れた時には威力がかなり落ちているのではないか?

 賭けだがこれは訓練だ。

 本当に雪が死ぬわけではない。


 ドゴッ!


『がはっ!』


 舎弟に手刀が当たり気を失ったのか消滅する。

 そして雪に手刀が届く。


 トンッ


『あっ……』


 ドサッ


 雪が意識を失い倒れる。

 

『はぁはぁはぁ……や、やったのか?』

 

 ヴ……ヴヴ……ヴン


『ドレイク様無事にクリアなされましたね。おめでとうございます』


 雪が消えコスモスが現れる。

 終わったのか?

 賭けだが上手くいった。

 舎弟が意識を失ったり亡くなったりすると消滅する仕様なのは忘れていたが嬉しい誤算だ。

 あのおかげで雪に手が届いた。


 トンッ


 腰を下ろし地べたに寝転ぶ。

 疲労という概念が存在しない夢の中なのに疲れががどっと出てきた。

 ずっと一つのことしか考えていなかったため時間の感覚さえも忘れていたようだ。

 少しは無の境地に近付くことができたのかな?

 

『ふふっ単なる気疲れです。すでに1億回を超えるほどの死亡体験をなされたのですから身体は疲れていなくとも心は疲れて当然です』


 1億回も俺は雪に殺られたのか?

 雪の能力の恐ろしさが改めてよく分かる。

 それに死の恐怖とやらもいつの間にか乗り越えていたのが喜ばしい。

 乗り越えたと言うか無理矢理に慣れさせられたと言ったほうが良いかもしれない。

 

『そうだ、現実でのコスモスは?』


『日夜順調にホークさんの研究が実ってきています。覚醒なされる日も近いかと』


 さすがだな。

 魂なんて分野は科学の領域でも無いだろうに結果を出すなんてホークの頭脳には世話になってばかりだ。

 

『他に聞きたいことは? なければ最終試験を開始致します』


 最終?

 ま、内容がかなり濃い試練だし5つもあれば十分か。

 今のうちに気になることを聞いておこう。

 最終試練のクリアには1年かかることは安易に想像できるからな。

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