この修行はどこかおかしい15
『ドレェェイク、貴様に命ずる! 今すぐ自身の頭を貫け!』
開始早々、雪の能力が俺を襲う。
反撃しようが無い。
すぐに身体が勝手の動き俺の掌から自身の顔に向かって攻撃魔法が放たれる。
グシャッ!
『……はっ! また?』
雪のパペットを防ぐことが第四試練の内容なのか?
いくら死なないとは言え何度も何度も死亡体験をさせられるなど心が耐えられない。
すでに2回の自死により俺の身体が恐怖で震えている。
いや身体は外にある。
この震えが心そのものなのだ。
駄目だ、次も雪の能力が俺に向けられると考えるだけで気が滅入る。
ヴヴン
コスモスが現れることなく謁見の前に切り替わる。
『ドレイク様、休憩時間など必要ありませんね? では……』
間髪入れずに再開するつもりか!?
さすがに3回もあんな恐怖を味わうのは嫌だ!
『ま、待ってくれ! 今回の試練の意図が読めないんだ! せめて考える時間だけでも……』
『乗り越えて下さい。それしか言えません』
『くははは、ドレイク! この駄神め、貴様は今すぐ消えろ!』
嫌だ!
どうして身体が勝手に動く!?
今度は自身の胸に手を当て魔法で心臓を貫く。
ドゥッ!
く……そ……。
どうして雪の能力には逆らえない?
ドサッ
ヴヴヴ……
周辺が真っ白な空間に戻る。
ガバッ!
『ハァハァハァ! う、うあぁぁぁ……』
これで3回目の死亡体験をしたことになる。
恐怖で何も考えられない。
唯一頭に残っているのは今すぐこの場から逃げたいということだ。
だが逃げられるはずがない。
そもそもこれは何の訓練だ。
『第四試練は死の恐怖に打ち勝つのが目的なのか? それとも雪の異能力であるパペットを打ち破ることか? せめて方法だけでも教えてくれないのか?』
『目的は両方とも含みます。勇者様の近くに雪様が居た場合ドレイク様は勇者様に挑む事無く終わっていますよ』
スリードも十分に脅威だと思うがどんな言葉でも強制的に従わす能力を持つ雪に出会ってしまったときは死を意味するってことか。
対策として戦闘プログラムに内容が含まれているのは必定なのだろう。
だが死の恐怖を乗り越えても死んでしまっては元も子もない。
誰だって死ぬのが怖いため抗うのだ。
『ドレイク様、当然のことを当然のように考えていてはいけません』
……もしかして考えを変えろとでも言うのか?
発想を変える?
死の恐怖ではない別のもの?
ムカッ!
心の底で自覚しているため腹が立つのだろう。
死の恐怖、それを格好悪く例えると臆病風に吹かれるとも言う。
腰抜けがタイマンを張れるわけ無いだろうってことか?
死の恐怖で身体が強張ってしまうと動きが鈍くなる。
それよりも更に酷い場合は恐怖で身体が動かなくなる。
今の俺がまさにその状態に陥っている。
……なるほど俺のためによく考えてくれている。
すでに3回も死を経験しているのに未だに臆病風に吹かれている。
死にはしないと分かっているのにだ。
こういった感情の部分は荒療治で改善する予定なのだろう。
『では第四の目的も知ったことですし今度は突破できるまで休憩はなしとさせていただきます』
『えっ? あ、い……いやそれはさすがに』
ヴン
辺りが謁見の間に切り替わり目の前に雪が立っている。
そして例に漏れず俺に非道な命令をし逆らうことが出来ず息絶える。
同じ内容を繰り返しすでに4000回が過ぎようとしていた。
『はぁはぁはぁ……い、嫌だ! もう嫌だぁぁぁ!』
『ドレイク、貴様はすぐに死ね!』
どうして逆らえない?
異能力とはそこまで万能なものなのか!?
これを打ち破らないと俺は……俺は……。
ドシャッ!
一瞬目の前が真っ暗になり、その次の瞬間には雪が目の前に立っている。
留まることのない死の恐怖が何度も何度も俺を襲う。
『うわぁぁぁ! 助けてく……』
『死ね!』
バシュッ!
そこからさらに6000回以上手段を見出だせずにいた。
俺は抵抗する時間も与えられず今も雪によって死に晒されている。
だが当初の感覚が薄れてきている。
約10000回も同じ目に遭うと心の消耗が徐々に穏やかになってくるのか。
怖いのは変わらないが恐怖で身体が動かなくなるといったことが和らいでいる。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるでは無いがこんなことも慣れてきてしまうとは人の心は上手く出来ているものだな。
この戦闘プログラムがすべて終了したときにはもはや以前の俺では無くなっているような気さえしてくる。
慣れが生じると他のことを考える余裕も出てくる。
俺が最優先ですることは雪の能力を識ることだ。
雪の能力が精神操作系だと誰かが言っていたのをふと思い出す。
欽治だったかダリアだったかはよく思い出せない。
精神操作……言葉の通りなのだろう。
それを何処から雪によって与えられているのだ?
雪の言葉が聞こえないように耳を潰せば良いのか?
いやそんな安直な考えではいけない。
過去の雪との関わりを思い出せ。
そこから突破法を見出すしか他に方法はない。
幼女時代の雪は可愛いけれどサイコパスな子どもとしか見ていなかった。
俺が居る前で能力を使ったのはすべてセツの方だ。
カビル山脈で飛竜を飼ったとき、温泉街でユーナを従わせたこと、マイケル戦のときならず者を操ったこと、他にもあるがそのすべてにおいて相手が雪の声を聞いている。
俺が転生しローウェルグリン城にやって来たばかりの頃だってそうだ。
捕虜のならず者をわざわざ謁見の前に呼び出し従わせていた。
そこから考えられるのは少なくとも相手が雪の前に居なければいけないことだ。
いや、待てよ?
雪が裏切った直後のときローウェルグリン城の者に自害を命じたことがあった。
そのときは声が確実に届いていない相手にも影響を与えている。
ユキとセツでは能力のレベルが違うと欽治が言っていたが今の雪はどっちなんだ?
……どちらかなんて考える必要はない。
最悪の想定をしておくべきだ。
ユキの能力レベルで現状が使用可能だとすると最低でも半径2キロ圏内は影響を与える。
声で無いことはユキの件から考えて疑いないだろう。
念話など使えるはずがないし……だとすると念波のようなものなのか?
超能力だしそう思ってもおかしくはないだろう。