この修行はどこかおかしい9
ブォォォン!
ラグナの右ストレートを躱し右手に持ったフルーレを前に突き出す。
構えは片手平突き。
武器を激しく揺らさずに攻撃するには最適な技だ。
本来なら日本刀で放つ技だが数多くの剣技を刷り込まれた俺でならのオリジナル技にでもなるのだろうか?
ラグナの心臓部……見えた!
『そこだぁぁぁ!』
ラグナのみぞおちに刃先が触れる。
頼む折れないでくれ。
注射針のようにそのまま突き刺されば確実にラグナの心臓を射抜くことが出来る。
どれだけ分厚い筋肉で身体を覆っていても一点突破をされたらどんなものでも孔を開けることくらいは出来る。
『ぬぉぉぉぉ!』
『貫けぇぇぇ!』
ビシッ!
フルーレにひびが入る。
すでに先端から3センチほどはラグナの体内に突き刺さっている。
だが心臓まではまだ先だ。
ラグナの突進力が俺に向かってくるおかげで力を逆に利用できてはいるがうまく突き抜けないものだな。
『ぬぉぉぉぉう!』
ラグナが左腕を振り上げ手刀で俺の頭上に向けて振り下ろす。
ここで体勢を変えられたら確実に折れる。
いや、その前に俺の脳天がすぅんごぉいことになってしまう!
『ええぃ儘よ!』
フルーレをねじり前に向けて力を込める。
ドスッ
この感触は……心臓に達した?
『……くく、くははは! やるではないか。俺の負けのようだ』
パァァァン
目の前のラグナが消滅する。
えっ、まだ生きているのにあれでいいのか?
『ドレイク様お見事です。2つ目の試練も突破できましたね』
『だがラグナはまだ生きていたぞ? 心臓に刺しただけでクリアなんてなんだか納得がいかないのだが……』
『それでも急所です。大抵の人間は致命傷ですよ。ラグナがおかしいだけです』
ですよね――!
俺もあいつを基準に考えていたから感覚がおかしくなっていたのか?
『ま、クリアしたのならそれでいい。しかし、あまり鍛えられなかったな』
特に筋力を鍛えたという感じがしない。
今回の試練は一撃で倒すことに特化さえすればよかったのだろうか?
『鍛える? 肉体のことならドレイク様は眠っておられる間にすでに鍛え上げておられますよ。この戦闘プログラムで鍛えるのは戦いに必要な勘と感覚だけです』
『えっ? でも第一試練のならず者では素早さを鍛えたのでは無いのか?』
『違います。あれはいかに効率的に敵を倒すかの戦闘プログラムです』
そうだったのか。
でも肉体はすでに鍛え上げていられるとはどういう意味だ?
『なぁ、俺の身体には何もしていないよな?』
『内部を改造するなどのことはしておりません』
げっ、まさかの改造人間手術までできるのか?
変身できるのならちょっとは見てみたいような気がしないわけでもないが誰か改造人間手術を受けた人っているのかな?
『内部を改造って内臓のことだよな? 誰か受けたことがあるのか?』
『はい、シャオ様です』
あのマッドサイエンティストか。
見た目は20歳くらいだったが昔ここに来た時に読んだことのある日記から推測するには今では60歳を越えている老人のはずだ。
『もしかしてあいつの頭がオカシイのも改造の影響か?』
『はい、脳を若返らせる改造を施した時に性格分離が起こりました。発作的にああなりホークさんも手を焼いています』
自分の脳を改造するなんて本当にマッドなやつだな。
それでヤバい奴になっているのだから自業自得か。
『あいつの能力も改造で得たものか?』
『脳改造により発現しました。能力ではなく脳力と言ったほうが良いかもしれないほどまだまだ謎に満ちた力ですね』
おっと話がずれてきたな。
俺が改造されていないか聞いているところだった。
『俺の身体の内部は改造していないと言っていたが外部には何かしているのか?』
『はい、外部から電気信号を流し筋肉を動かすEMSで全身の筋力は爆上げさせていただいております』
へっ?
EMSって電気で筋肉を刺激させて運動効果を与えるやつだよな?
それを全身にかけている?
もしかして俺の身体はゴリマッチョになっていたり……電気刺激でそんなに筋肉が発達するはずはないか?
『今もずっと電気刺激を与えられているのか?』
『はい、ドレイク様が眠っている間はずっと作動しています』
ということは約1年間もずっと電気刺激を与え続けられているわけか?
戦闘プログラムが終わるまでの残り2年近くも眠っている状態だ。
運動不足になって筋力が痩せ細るよりかは良い。
ってか土人形である俺の身体にEMSが効くほうが驚きだ。
雷属性がほぼ無効化できるのが土属性の特徴なのだがな。
属性力が失われて俺の身体にも変化が起こったと考えたほうがいいのか?
『では戦闘プログラム3つ目を開始いたします。ドレイク様、頑張ってくださいね』
ニコッ
はい、可愛い。
本物で無いにしてもこの笑顔に俺は癒やされる。
俺が戦闘プログラムを終了することにはコスモスも目覚めていることを祈るばかりだ。
そして……うへ、うへへへ。
おっとっと妄想したら余計にヤりたくなってきてしまう。
『こほん……次はどんな内容なんだ?』
『次は2500時間耐久となります。ノーダメージで2500時間が経過するまで耐えて下さい』
ふぁっ!?
2500時間って……約100日!?
それをノーダメージで耐えろって相手にもよるぞ。
ヴヴ……ヴヴン
背景がグレンの廃墟から広大な山の麓に切り替わる。
『ここって……』
『カビル山脈です。あくまでも仮想空間で作り出したものですが……』
カビル山脈か。
初めて雪ちゃんと出会った場所だ。
そういえば側に色んな意味で危ないやつが居たような……うっ、頭が。
思い出さないほうがいい相手なのだろう。
うん、そういうことにしておこう。
ヴン
コスモスが消え一人の男が俺の前に立ちはだかる。
ラグナ程ではないが筋骨隆々の体格の男だ。
はて、こいつもどこかで見たような?
特徴的なピンク色の髪で棘パッドを装着しドレスを着ている。
『あっらぁぁぁ、なんて可愛い坊やなのかしらぁん』
チュッ
うぇぇ、投げキッスをされた。
思い出した。
この喋り方、俺が初めてグランディール大陸に行った時に遭遇した救恤の使徒だ。
名前は……なんだっけ?
マイク?
マイケル?





