この奪還はどこかおかしい9
「バハムートくんじゃないか!? あっははは! こいつぁ良い!」
「師匠、知っている人なのか?」
「ええ~、拙は知らないですよぉ?」
師匠は昔の記憶を一部失っている。
こいつとの面識も忘れているというわけか。
「そんなぁ、ぼくちんのことを覚えていないなんて……ぴえん」
「貴方は誰ですかぁ? 拙のことを知っているなら教えてよぉ?」
「ほぅ? その様子、嘘ではないようだね?」
「え、えっと……」
ドゴッ!
「がはっ!」
いきなり殴りかかって来られたぞ?
いや、それよりもなんてパワーだ。
「ぼくちんはバハムートくんと話しているのだよ? 邪魔しないでほしいね」
「ドレイク、大丈夫ですかぁ?」
「欠陥品……私は……欠陥品……欠陥品……」
「コスモス!」
ギュゥ
コスモスが俺の手から離れ再びトンネルの奥に向かって進み始めようとする。
俺はコスモスの身体を抱きしめ動くのを制止させる。
「拙の弟子を突然殴るのは良くないですよぉ。誤ってくださぁい」
「何だってぇぇぇ! あの最強種のドラゴンが人間の弟子を持つなどあってはならないことだよ!」
こいつ、師匠の正体を知っている?
バハムートって呼んでいたし、そりゃそうか。
研究員が視線を俺の方に向ける。
「欠陥品……ドレ……イ……私は……欠陥品……ク様……」
「五月蝿いねぇ……五月蝿いったらありゃしない! これだから出来損ないは見ているだけで不快になるのだよ!」
こいつ、俺ではなくコスモスを見て言っているのか?
出来損ないだと!?
貴様たちがこんな風にしたのだろうが!
「あぁぁぁ! 五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿ぁぁぁい!」
こいつはさっきから何なんだ?
情緒不安定なのか?
厄介なのに絡まれてしまったな。
早くここから出てコスモスの意識を元に戻したいのだが……。
「ドレイク! 避けるです!」
「えっ?」
ドゴッ!
「がはっ!」
こいつ、いつの間に?
目線をずっと離さなかったのに、なぜ俺は殴られる?
ドサッ……
「ふぅ! ふぅ! ふぅ! あぁぁぁ、五月蝿ぁぁぁい!」
ガシッ
コスモスの髪を掴み軽々と持ち上げる研究員。
あのヒョロい身体のどこにそんな力があるのだ?
「コスモス! 貴様ぁぁぁ!」
「あぁぁぁ、五月蝿ぁぁぁい!」
ブンッ!
ドゴッ!
コスモスを思い切り俺の方に投げつけてきた。
俺はコスモスを受け止めきれずに一緒に吹き飛ばされる。
「ドレイク、コスモスを守るだけに専念するのですよぉ。ここは拙が!」
師匠が俺と研究員の間に入り研究員の前に立ち塞がる。
「おおー、バハムートくん。どこに行っていたのかい? さあさあ、早いところぼくちんにその神秘の力を調べさせておくれよぉ」
師匠を前にすると態度が急変する。
やはり、情緒不安定なのか?
「拙は貴方のことなど知らないのですぅ。本当に誰なのですかぁ?」
「欠陥品……私は……欠陥ひ……」
ギロッ
研究員が鋭い目つきでこちらを睨みつけてくる。
コスモスの声に反応するのか?
コスモスの口をそっと俺の手で塞ぐ。
「ねぇねぇ? 早く名乗ってくださいよぉ」
「ぷひっ! くはは……ははは……あーはっはっは!」
本当にあいつの頭の中はどうなっているのだ?
今度は爆笑し始めたぞ?
何が面白いのかまったく分からない。
師匠の言う通り、早く名乗って欲しいよな。
本当に誰なんだ?
研究員にしてはやけに強すぎるし……使徒ってことはないよな?
「五月蝿ぁぁぁい!」
グンッ
突然、俺の目の前に現れ殴りかかろうとしてきた。
まただ。
視線をまったく逸らしていないのにどうして一瞬で間を詰められる?
ガシッ!
「ドレイクには手を出さないでくださぁい。これでも拙の可愛い弟子なのですよぉ」
「おぉ~、そんなところにいたのか? ぼくちんのバハムート、さぁさぁ早く君の身体を隅々まで調べさせておくれ」
「嫌ですよぉ。拙の身体を好きにして良いのはドレイクだけなのですぅ」
ちょっ!
こんなときに何を口走っているんだ、この痴女は!
「なっ……ん……ですと! ぼくちんのバハムートをよくもぉぉぉ!」
パッ
「えっ?」
師匠が研究員の拳を掴んでいたはずだ?
いつの間に研究員が師匠の手を掴んでいるのだ?
ドゴォォォン!
そのまま、師匠を俺とコスモスの方向に投げ飛ばしてきた。
相変わらず人を何だと思っている?
あ、師匠はドラゴンだったか。
「痛つ……あはは、油断してしまいましたぁ。ドレイク、大丈夫ですかぁ?」
「な、何とか……師匠、本当にあいつのことを覚えていないんだよな?」
「まったく知らないですよぉ」
ガシッ!
「ひゃぁ!」
「バハムートはぼくちんだけのものなんだぁ! 汚れたバハムートは早く浄化せねばぁぁぁ!」
ブンッ!
ドゴッ!
こいつ、怪力だけでなくなんて速さなんだ!
師匠の髪を掴み上げ、そのまま天井に師匠を投げつける。
「欠陥品……私は……ドレイク……さ……私は……」
「あぁぁぁ! 五月蝿ぁぁぁい!」
こいつ、なぜコスモスの言葉にそんなに敏感なんだ!?
コスモスの口を塞ぐと片腕しか動かせない俺は手が使えない。
だが、コスモスの言葉を聞くと何故か発狂する。
まるで理解できない。
グンッ!
「死ねぇぇぇぇ!」
防御が間に合わない!
ここままではコスモスまで巻き沿いにしてしまう!
「ドレイク、しゃがむです! 裂波猛龍蹴!」
ギュン
ドゴッ!
「ガハッ!」
ヒュゥゥゥゥゥ……
ズッガァァァァン!
決まった!
師匠が研究員の背後から高速の飛び蹴りを喰らわし、トンネルの奥に向かって吹き飛んでいった。
「ふぅ、間一髪でしたぁ。ドレイク、早いところコスモスを休ませて……」
パッ
「死ねぇぇぇぇ!」
何故、俺の目の前にいる?
師匠に蹴られ吹き飛んだはずだ。
そして、師匠は……どこに行った?
師匠の立っていた所にどうしてこいつが居る?
くそっ、訳分かんねぇよ!
ドゴッ!
防御魔法も間に合わないため咄嗟に左腕で攻撃を防ごうとする。
ボキッ!
「うわぁぁぁ!」
たったの一撃でこの怪力、ナデシコ型かよ!?
左腕の骨までやられた。
両腕がまともに動かない。
師匠、どこに行ってしまったんだよ?
「でぇぇぇい!」
バキッ!
トンネルの奥から師匠が現れ、研究員に再び飛び蹴りを喰らわす。
どうして、師匠がトンネルの奥からやってきた?
……入れ替わった?
そうだ、さっきだって研究員の拳を掴んだ師匠がいつの間にか拳を掴まれている状況になっていた。
だったら、俺の目の前に突然現れるのはどういう原理なんだ?
師匠のような縮地では無い。
ダリアやナデシコのような空間移動でも無い。
だが、これだけは分かる。
この白衣を着た男は異能力者だ。
まさか、本当に使徒なのか?





