この奪還はどこかおかしい8
「ドレイク……」
「何もできないのかよ! くそっ!」
見捨てるしか他がなかった。
腕を掴んで制止しようとも考えたが、その後が怖かったためだ。
ナデシコ型にとって俺はターゲットの一人だ。
掴んだ手を振りほどき光の中に俺を投げ飛ばすかもしれないと思うと恐怖で何もできなかった。
あいつらは足元がおぼつかなくても怪力なのは変わりがない。
「ドレイク、ここからもう離れるのですぅ。その光を長時間浴びると危ないですよぉ」
そう言えば、この光は何なのだ?
緑色の光……どこかで見たはずなんだよな?
「師匠はこの光の正体を知っているのか?」
「それはマナですぅ。この星の魔力そのものですよぉ」
マナだと?
今更、そんなものが出てくるのか?
……思い出した!
この光を見たのは勇者城の周囲を囲む堀の奈落から見えていた光と同じものだ。
「でも、そんなものがどうしてこんなところに?」
「地面を深く掘ればどこからでも出てきますよぉ。この街もマナを使って電力を確保しているのでしょうねぇ」
石油や石炭がそれほど重要視されていなかった理由はマナを使っていたためか。
しかし、マナを電力として使うと……いやいや、この世界はゲームではない。
「ここの人たちはマナを使い過ぎると星が死ぬことを分かっているのか心配ですぅ」
やっぱりか!
マナなんて星の生命と同様のものを吸い出して電力として使うなよ!
死の惑星になっても良いのか、勇者軍は何を考えているんだ!?
まさか、本当に知らないのではないのか?
「……ナデシコ型がマナの中に飛び込む必要がどこにある?」
「マナは高濃度の魔力ですぅ。生命体が直に浴びると瞬く間にその個体の魔力が吸い取られ蒸発してしまうのですよぉ。良く言うと星に還ったのですぅ」
まさか、勇者軍はそれでリサイクルでもしているつもりなのか?
だとしたら、使い過ぎると星が滅びることも知っている?
ここで考えてもどうしようもないか。
「あたしは……廃棄……あたしは……」
また、ナデシコ型がやってきた。
アップデートできない個体もそれなりにいるようだ。
勇者軍にとっては新たに作ればいいと思っているだけなのだろう。
「よっ!」
ドンッ!
ドサッ……
「師匠?」
師匠がナデシコ型の背後に素早く移動し手刀で首筋を強く叩き気絶させる。
「ドレイク、ここを崩してもいいですかぁ?」
「マナの噴出孔を塞ぐつもりか?」
「これ以上、この子たちが飛び込むのは拙も見ていられないですよぉ」
「力加減はしてくれよ。俺たちまで危険な目に遭わないようにな」
「分かっているですよぉ」
ドゴォォォン
師匠が天井部を蹴り上げ一部を崩壊させる。
魔封石でも物理攻撃の前では普通の岩石だよな。
ゴゴゴゴ……
ドゴッゴゴッ!
岩でマナの噴出孔が塞がれ辺りは再び暗闇になってしまった。
「ふぅ、これでこの子達も身投げをやめてくれますかねぇ?」
それは無理だろうな。
だが、ここは塞いだし後は勇者城周辺の堀になるか。
そこまで移動して身投げをするプログラムがされていないことを願おう。
「師匠、ここの用件は済んだ。コスモスを探さないと」
「そうですねぇ。うっかり、忘れかけていましたぁ」
おいおい、大丈夫か?
師匠に手を引っ張られトンネル内を進む。
「暗すぎて何も見えませんねぇ」
「あっ、そうか……さっきはナデシコ型を追っていたから相手を見ていたんだよな?」
やっべぇ……トンネル内で遭難とか最悪だぞ。
火属性魔法を俺は使えないためファイアで明かりを灯すことができない。
鉱石感知も周囲がすべて魔封石で妨害されているためなのか、他の鉱石が感じられないため現在地が把握できない。
ズルッ……ズルッ……
足を這う音が聞こえる。
アップデートできなかったナデシコ型か?
だが、誰か来てくれるのなら師匠には見えるはずだ。
「師匠、足音の聞こえる場所に」
「そうですねぇ、行ってみるですぅ」
足を引きずりながら来るってことは脳によほどのダメージを負ったのだろう。
ホムンクルスといえど機械では無い一人の人間なのだ。
「欠陥品……欠陥品……」
近くにいるようだ。
俺にはまったく見えない。
「師匠、また気を失わせてやってくれないか?」
「んん~、あれって……」
ズルッズルッ……
「欠陥品……私は……欠陥品……ドレイ……ク様……」
えっ?
今、何て言った?
ズルッ……ズルッ……
「欠陥品……私は……欠陥品……」
「コス……モス……なのか? 師匠!?」
「手遅れだったようですねぇ」
「手遅れじゃない! まだ、生きているんだ! コスモス!」
暗闇でまったく見えないが相手を介抱する。
足が動かないのか?
這いずりながらここまで来たようだ。
遠くにうっすらと光が見える。
培養槽のある方向だ。
「欠陥品……私は……欠陥品……」
「コスモス! しっかりしろ! コスモス!」
「欠陥品……欠陥品……私は……欠陥品……」
まるで返事がない。
脳にダメージを負うとコスモスの人造魂魄にも影響が出るのか?
「コスモス、しっかりしろ! コスモス!」
「欠陥品……欠陥品……私は……欠陥品……」
「ドレイク、とにかくコスモスを安全な場所へ連れて帰るのですぅ」
「くそっ! 勇者軍めぇ!」
コッコッコッコッ
しまった、誰か来る!?
コスモスに専心し過ぎて声が大きかったか?
「五月蝿いなぁ……ひゃははは!」
遠くから白衣を着た研究員がやってくる。
使徒ではないよな?
使徒でもホークであれば会いたいとは思っているのだがどう見ても男性だ。
身長は普通、髪型がマッシュヘアなのもならず者とは違い知性を感じられる。
性格はどうか知らないがな。
まともなやつなら会話だけで済ませたいものだ。
パッ
「明かりが付いたですぅ」
あんな場所に電源があったのか?
まったく気付かなかったぞ?
俺たちの苦労って何だったのだ……。
「ほぅ? これはこれは? 五月蝿いのは欠陥品だったかぁ」
目の前に立つのは一人の白衣を着た男性だ。
無断で入った俺たちを見て臆せず、逆に話しかけてくるとは変なやつだな。
「おや? おやおやおやぁ?」
師匠を食い入るように見つめる研究員。
あぁ、美少女に見えるからクローン化させようとか思っているのかな?
やめてくれ。
欽治とダリアのクローンだけですでにキャパオーバーなのに、バハムートのクローンまで作られたらそれこそ最悪な状況を軽く超えてしまう。





