この奪還はどこかおかしい3
大岩の裏で息を殺し、じっとする。
しかし、大岩のせいで基地のほうが見えないな。
小さな覗き穴くらいなら俺の土魔法で開けられそうだ。
「ストーンニードル」
ジッジジジ……
ゆっくりと錐のようなドリルで岩に覗き穴を開ける。
急いで穴を開けると大きな音が出てしまう。
焦らず、ゆっくりとだ。
ポンッ
「よしっ、覗いてみるか」
開けた穴から基地の方を覗く。
ナデシコ型はどこに行った?
まだ、基地内にいるのか?
夜間であるためよく見えないな。
2階の明かりを点けっぱなしにしていたおかげで基地の方向は確認できる。
「ドレイク様、今の間に先に進んでしまいませんか? まだ、荒野は続きますし、夜が明けると我々の姿も相手にとって発見しやすくなります」
「そうだな……」
どうするべきだ?
コスモスの見解も確かに予想できる。
グラウンドムーヴさえ使えれば、地脈に隠れて移動できるのにな。
失ったものを悔やんでいても仕方がない。
「ドレイク様、窓の方に人影が」
「見せてくれ」
覗き穴から再び基地の方を見る。
2階の窓から動く人影が何となくだが確認できる。
ナデシコ型が俺たちの居場所を探っているのか?
だとすると、ここで隠れ続けるのも危険だな。
「よし、コスモスの提案を受け入れよう。先に進むぞ」
「ド、ドレイク様……」
コスモスが俺の方をみる。
顔が青ざめているぞ、何かあったのだろうか?
「ド、ドレイク様……後ろ……」
「後ろ? 大岩があるぞ」
コスモスが俺の頭部よりやや上方向に指をさす。
振り返ってみてみると……。
「ん、見ぃつけた」
ふぁっ!?
な、ななな……ナデシコ型!?
どうしてここが分かった!?
「画像と一致……ローウェルグリン城の宰相。ドレイク、生存を確認した。もう一方は……データに無い。誰?」
宰相?
いつの頃の話をしている?
……そうか、こいつが造られたのは3年前。
覇王として全世界に知られるより以前のことだから、俺が土神となったことさえも知らないようだ。
「ドレイク様、お逃げ下さい!」
「ん、人族? 違う……DK243420? あたしより32583代後?」
この5年間でどれだけのナデシコ型を作ってんだよ!?
もう、勇者軍のならず者より多くなっているのではないのか?
というか、ホムンクルス同士では俺たちが見れないデータでも見える様になっているのか?
「俺たちをどうするつもりだ?」
「ドレイクの生存が確認できた場合は即刻排除。だから、死んで」
ヒュン
ドゴォォォン!
ボキボキボキッ!
「ぐぉぉぉぉ!」
ウォール系の魔法は距離が近すぎて防御としては役に立たない。
骨が何本か折れるのを覚悟して、アースシールドを展開する。
くそっ、覇王として世界に名前が出る前から俺は勇者軍にとって排除指定とみなされているのか!?
「ドレイク様に近寄るなぁぁぁ! ロックスラッシュ!」
ヒュン
無駄だ。
あいつの回避能力は尋常ではない。
殺るにはナデシコ型の不意をつくしか無いのだ。
「ん、姿形が異なるのはステータス異常だからなのは分かっている。でも、どうしてドレイクを庇う? まさか、エラー? 不良品?」
「私はまともだぁぁぁ! アダマイトメテオ!」
ちょっ、そんな大魔法をこんな近距離で放つな!
俺たちまで巻き添えを食ってしまう。
ヒュゥゥゥ
上空からサッカーボール程の大きさの隕石が複数降り注ぐ。
ドォォォン!
ドォォォン!
ドォォォン!
「うわっ、あっぶね! コスモス、ここから離れるぞ!」
「はいっ!」
鉱石感知のおかげで落下地点は読める。
だが、隕石の恐ろしいところは地表に衝突した時の破壊力だ。
サッカーボール程度の大きさでもその威力は強大なものとなる。
「ん、逃さない」
ヒュン
ナデシコ型が太刀を持っていないため、相手の出現位置が特定できない。
武器を持たれたら厄介だが、素手でも十二分に厄介だな。
ドゴォォォォン!
「うわぁぁぁ!」
「きゃぁぁぁ!」
俺達の目の前に出現し地面を殴りつける。
その時に発生した爆風で吹き飛ばされてしまった。
だが、どうして俺を直接攻撃しなかった?
コスモスが近くにいたからとは考えにくい。
「ん、大型アップデート? 了解、帰還する」
アップデート?
ネトゲかよってツッコミたいところだが我慢しよう。
「DK243420も更新するべき。その後でもエラーが起きるなら処分する」
「何を言うのです! 私はまともだって言っているでしょう!」
「不良品はみんなそう言う。強制的にも連れて行く」
ヒュン
ガシッ
「コスモス!」
ナデシコ型がコスモスの側に跳び、コスモスの髪を掴む。
「貴様ぁ、俺の大事な人になんてことしやがる!」
「更新は地下研究室。一気に跳ぶ」
「ドレイク様! ドレイクさ……」
ヒュン
嘘だろ……。
コスモスが攫われてしまった?
「コスモス! コスモォォォス!」
どうしてこうなる?
どうして、コスモスまで連れて行く必要があるんだよ?
勇者軍め、もう堪忍袋の緒が切れた。
今すぐにでも乗り込んでぶっ潰してやる。
そのためにはルカの水脈移動が必要だ。
「ぐっ、ぉぉぉ……腕が折れていたんだった」
必死になっていたため、骨折したことさえ忘れていたが我に返ると痛みが蘇る。
また、右腕が動かなくなってしまった。
こんな状態でグランディアに戻るだけでもかなりの時間がかかってしまう。
近くに湖や川は無い。
ルカを呼ぶにしても水場がなければ意味がない。
ルカを呼ばなくても、ルカを通して師匠に伝えてもらうか?
そのほうが早そうだ。
『ルカ、聞こえるか?』
『ドレイク様! やっと、繋げてくれましたのね!』
あ、そうだった。
コスモスを正妻にした件でやかましくなりそうだったから、念話をできないように切っていたのだった。
だが、今はそんな事は後回しだ。
『師匠に伝えてくれ。勇者軍の基地にいるから迎えに来てくれと。場所はローウェルグリン城とグランディアを結ぶ地点にある』
『ドレイク様、その前にこの前の件で話がありますわ!』
『今はその話をしている場合ではない! いいから、さっさと呼んで来い!』
『はっ! し、失礼いたしました!』
くそっ、またやっちまった。
天使を怒鳴りつけるような真似はしないと心に誓ったのに……。
もっと、冷静にならないとこのままでは勇者軍の卑怯な罠にかかってしまいかねない。





