この子どもはどこかおかしい3
空中戦艦を屋敷の横に持ってきたのには2つの理由がある。
1つは俺の住んでいる場所の近くに置いておくことだ。
グランドムーヴが使えなくなった今、わざわざ遠い墜落場所まで行くのも面倒だし、モンスターの棲み家にされて精密機器を壊されたら大変だしな。
そして、2つ目は空中戦艦のメイン電源を使って、電気を生み出すことが出来るからだ。
切断せずに残していた配線を街中に行き渡らせることで明かりも付けることができそうだからな。
鉱脈から大量の銅も見つかっているから、銅線を使って電気くらいなら延長して、どこへでも持っていけそうだしな。
勇者軍の置き土産のおかげで時代がさらに進むことになる。
だが、電柱作りや街中に電線を引くのはユーナを復活させてからだ。
いつまでもユーナを赤子の状態で放っておくわけにはいかないからな。
欠片だって、いつまでも存在しているのか分からないし。
「よぉし、夜分遅くまでご苦労だった。今日はゆっくり休んでくれ」
「おまいら、解散だ!」
「覇王様、おやすみなさいませ」
「ああ、おやすみ」
さて、俺も遅めの夕食を取るとするか。
昼寝を意外と長いことしてしまったし、夕食後は研究フロアでいろいろと試してみたいことも有るしな。
「オボロ、ここが主要拠点だ」
「了解。平時はここで家事を行います」
しかし、何も頭に入っていないはずなのによく不安にならないよな。
だからこそ他人の言うがままに従ってしまうのだろうが……。
「ドレイクしゃま、お帰りなさいましぇ」
「ドレイク、遅かったですねぇ。師匠を放っておいて一人でほっつき歩くなんてぇ、いけない子なのですよぉ」
「別に遊んでいたわけではないさ。仕事だよ、仕事」
「バハムートさん、貴女は今日一日、ずぅっと屋敷の中でぐうたらしていただけではないですか! ドレイク様、働かざる者食うべからずでは無いのですか!」
あー、そう言えば、朝食を食べた後、何をするべきか伝えていなかったからなぁ。
とは言っても、初日から目を離して一般兵の訓練をお願いしても心配だよな。
オークはともかくゴブリンは殺されかねないし。
「すまんすまん。師匠、後で俺の部……いや、食堂で話そう」
「分かりましたぁ。では、それまで拙は夜の散歩に行ってきますぅ」
「コスモス、オーク美さんは食堂にまだいるのか?」
「ええ、ドレイク様の夕食が済むまで待ってくれております」
「あぅあぅあー」
ユーナはコスモスに抱っこされながら、俺の方に手を振っている。
早く、食べに行けってか?
はいはい、分かっていますよ。
こうやって見るとコスモスが赤ん坊の世話をしているようにしか見えない。
俺たちも入れると子沢山の若ママって感じだな。
俺もローズもまだ身長は130くらいだし。
「オーク美さん、遅くなってすみません」
「いえいえ、今日はお疲れのようですね。滋養強壮に良い肉料理を用意しておりますよ」
「おー、ステーキですか? それにコンソメスープ」
しかし、肉と言っても牛や豚はまだ飼育できていない。
鶏も家畜用コカトリスの肉を使っての、いわゆるチキンステーキというやつだ。
ま、味は鶏肉と変わらないから気にはならない。
にんにく醤油に付けて食べるのか。
これは確かに疲れが吹き飛びそうだ。
「あ、今日の昼にルカから飲ませてもらった紅茶に入っていたハーブなんだけど、オーク美さんが育てたって聞いたんだが、何ていうハーブなんだ?」
「はいはい、お昼に来ましたね。確かにハーブですが乾燥させて粉にし、睡眠薬として使うことの多いもので、ルカ様が最近寝付きが悪いということで少しお譲りしました」
ふぁっ!?
睡眠薬だってぇぇぇ!?
まさか、俺はルカに睡眠薬をもられ……いやいやいや、仲間を疑うなんて駄目だ。
しかし、なぜそんなことをしたのだ?
後で聞いてみるか?
ガチャ
「ふわぁぁ、オーク美さん、少々お茶を淹れてもら……ド、ドレイク様!?」
「よぉ、ルカ、もしかして今まで眠っていたのか?」
「あらあら、ルカ様、今ドレイク様にお昼に譲った睡眠薬のことをお話したところですよ」
「最近、寝付きが悪いって?」
「え、ええ……」
「それで自分用に用意した紅茶を俺にも飲ませたって?」
「えーと……その……」
「ま、俺もぐっすり眠れたから別に良いんだけどさぁ……」
「えっ、ドレイク様にも飲ませたのですか? ルカ様」
「そ、そうですわ! ドレイク様も朝早くからお忙しかったので昼休憩に少し休んでもらおうと……」
この焦りよう、何か隠しているな?
何も盗られたものは無いし、本当に俺を気遣って眠らせ……いやいやいや、それで睡眠薬をもるのもおかしな話だ。
ガチャ
「ふぅ、夜の散歩も楽しかったですぅ。オーク美、冷たいお茶を用意して……あっ、ルカ、今日のお昼は楽しめましたかぁ? 妊娠できるといいですねぇ?」
「ちょっ……バハムートさん!」
えっ、師匠……今、なんて言った?
妊娠?
はっ!?
そう言えば、あの時……。
『覇王様、その……お盛んな時期なのは分かりますが……時と場所くらいは……』
あのオークが言っていたお盛んって、やっぱそっちの話だったのか?
だが、俺はそんな覚えはないぞ。
まさか、また寝ている間にハーレム王の資質が!?
いやいやいや、だからってお触りだけで妊娠なんてしないだろっ!
そもそも、何度も言うが第二次性徴期が訪れていない俺が出来るはずもない!
もしかして、神族はそっち系に前兆なんて来ないのか?
「師匠、一つ聞きたいことが有る」
「はぁい、なんでも聞いてくださぁい」
「か、神の子作……神の子作りってどうやるんだ?」
ひぃぃ、恥ずかしい!
だが、神の生態について詳しく知らない俺は学ぶ必要がある。
もしかして、師匠やルカに寝ている状態でお触りしまくった行動も分かるかもしれない。
「そ、それじゃ私はこのへんで……」
「ルカはここにいろ。命令だ」
「あらあらぁ、ドレイクはもしかして知らなかったのですかぁ? でも、責任はしっかりと取ってくださいねぇ」
その責任って、やっぱアレだよな?
アレしか無い!
いや、アレでないことを祈りたい!





