この海域はどこかおかしい13
近くにリュージがいないのなら、土人形の性能を試してみるのもいいかもね。
特に急いでいるわけではないし、欽治を相手にどこまでやれるのか見ものだわ。
ボコッボコボコ
土人形を作り、レベッカの魂を入れる。
「う……うう……あれ? ここは?」
レベッカの記憶はさっきの宿場町の入り口までだ。
説明は……適当でいいか?
「レベッカ! やっと、起きたのね!」
「リア……うわっ、なんだ? 八首のドラゴン!?」
「グガァァァ!」
ピカッ!
「きゃぁぁぁ!」
ジュッ!
バカなっ!?
光属性のレーザーを不意に喰らいニーニャが蒸発する。
「女性が蒸発した? あのドラゴン……なんてことを!」
くすくす、ナイスタイミングよ、ニーニャ。
「あいつが町を襲って……レベッカもそのときに攫われたのよ? 覚えている?」
「い……いえ。そうだ、私は宿場町に着いた瞬間に……意識を失って……」
「その後に攫われたの! 必死に追いかけて、レベッカだけなんとか森の中に……」
「そうだったのですね? リア、助けてもらってありがとうございます。それなら、私も今まで気を失っていた分、頑張らないといけませんね」
くすくす、チョロい……チョロすぎるわ。
レベッカ、人を疑うということも知りなさい。
「はわわわっ、凄い……首が8本もある! 凄いです! 濡れちゃいますぅぅぅ!」
欽治も到着したようね。
リュージの神力はやはり感じられない。
くすっ、さてさて……土人形の性能を試させてもらいましょうか?
「レベッカ、あの剣士も気を付けて」
「敵なのですか?」
コクッ
黙ってうなずく。
敵ではないが、取り込みたい相手なのよね。
だから、その手に持っている大剣で闇に沈めて頂戴。
「なんだ、ただの女剣士か? リアを狙うのなら、女性であっても手加減はしないですよ!」
「ふへ……ふへへ……ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン……やっと狩れる……もう、我慢できませぇぇぇん!」
欽治……ドラゴンを前にすると他人が見えていないのかしら?
集中力が剣士だけあって、凄まじいとも言えるのかな?
「私を無視……するなぁ!」
うん、レベッカは真面目だから無視されるの嫌うのよね。
レベッカが欽治に向かって走り出す。
さて、一撃でやられるなんて無様な姿だけは見せないでよ?
「邪魔するなぁぁぁ!」
ドゴッ!
「かはっ……」
ヒュゥゥゥ……ズガァァァン!
ひゅぅ、欽治も相手が女性なのに躊躇無しに殴るとはね。
ドラゴンを前にしていると、人と戦うのが苦手なことも忘れるのかしら?
くすくす、まるでバーサーカーね。
「ドラゴン……ドラゴン……ドラゴン……禁忌の型……」
「くっ、リアのためにも……王国再建のためにも私は負けられない……ん……だ」
ドサッ
ワンパンかい!
こりゃ駄目だわ、土人形はまるっきり使いものにならない。
これなら、ダークドールのレベッカのほうが数万倍、頼りになる。
欽治はヤマタノオロチを前にして圧倒的な力を振るう。
精神が研ぎ澄まされている状態の欽治に、隙を突いて攻撃を加えても簡単に避けられるだろう。
ガサッ……
うん?
対面の森の中に誰かいる?
……リュージ!?
神力を抑えて隠れていたのか!?
私の居場所は知られていないのか、欽治とヤマタノオロチの戦闘を注視している。
そう言えば、リヴァイアサンも何故か助けようとしていたわね?
ドラゴンを助けることによって、あいつに何か好都合なことがあるのだろうか?
……どうする?
あいつに好都合なことは世界を滅ぼすのが目的の私にとっては不都合なのは違いない。
だったら、ヤマタノオロチを闇に堕としてからすぐに撤退するか?
しかし、欽治も欲しい。
「凄い……こんな強いドラゴンを僕は待っていました! 本気で……イけます!」
欽治がヤマタノオロチを圧倒している。
彼に討たせた、その後で死体を取り込むのも有りかもね。
しかし、リュージが何を仕出かすかわからない以上、悠長にしていられない。
やつの注意を逸らし、その間に欽治がヤマタノオロチを討つのが最善策ね。
リュージはダリアの意識が私だとは知りもしないはず。
そこを突いて闇に堕とすこともできるわね。
ガサッ
「欽治君? 本当に生きていてくれた……」
欽治はヤマタノオロチに夢中で気が付きもしない。
だが、リュージは私を見て呆然と立ち尽くしている。
あくまでも、リュージに気がついていないように行動する。
……そうね、レベッカを助けるフリをするのも良いかもね。
レベッカの近くに行き介抱する。
「レベッカ……大丈夫?」
「う……ううん……」
うわっ、土人形がボロボロじゃない。
こんなの普通の人間なら胴体に風穴が空いているわよ。
土人形だから魂はまだ定着しているが人間なら即死している。
あの力、やはり今すぐにでも手に入れたい。
「ユーナ、お願い」
ズズッ……
「もう、だらしがないわねぇ。ダークヒール!」
「……うっ……リア?」
「大丈夫?」
「そ、そこの女剣士から……一発、もらってしまいました」
そんなのは見ていたから知っているわよ。
今はリュージの気を私に向けることに注力すべきだ。
「欽治君が……あの優しい欽治君が……そんなこと……」
「もうっ、欽治! そのドラゴンはこっちがなんとかするから、ダーリンに誤りなさい!」
ちょっ、ユーナ!?
また、勝手に!
欽治は今は放っておいても……えっ?
「ふぅ……満足ですぅ……あれ、偽女神様?」
へっ……もう、ヤマタノオロチを倒したの!?
いくらなんでも早すぎない!?





