この海域はどこかおかしい12
欽治がリヴァイアサンを攻撃する。
睡眠状態にあるはずだ……まさか、効いていない?
しかし、目は閉じているし……気持ち良さそうな顔をして口から涎を垂らしている。
ごくごくごくごくごくごく……
……あんたら、いっつも場所に関係なく湧いてくるわね?
リュージのほうは必死にリヴァイアサンの背にしがみつき海に落ちないように耐えている。
くすくすくす、やはり運の女神は私を応援しているようね。
あの体制では欽治に近寄ることもできまい。
『ニーニャ、今よ!』
『了解! ターゲット……欽治さん……』
「これで……どうだぁ! 倒剥の型……荒忌裁剣!」
ギュルルル
ズシャシャシャシャ!
「キュェェェェ!」
パァン!
『外した!?』
欽治が変わった体勢でリヴァイアサンを斬りつけたことによって、銃弾が欽治が横を通り過ぎ、リヴァイアサンに当たる。
『ニーニャ! 何をしている!』
『申し訳ございません!』
いや、ニーニャに当たっても仕方がない。
あのような体勢になるなど誰も予想できるわけがない。
リヴァイアサンが徐々に闇に沈んでいく。
欽治は……動きが止まり、リュージが背に抱きかかえようとしている。
『タナトス様、今なら……』
リュージがロープを橋の上にいる神族に投げ、引っ張り上げられようとしている。
『そうね……ちょっと待って』
私の神力に何か知らないものが流れ込んでくる。
これはリヴァイアサンの魔力?
いいえ、違うわ。
今までにないほど強力な水属性の力?
まさか、これが水龍神の欠片か?
……くすっ、欽治は逃してしまったけれど、この力は素晴らしいわ!
この水属性があれば、リュージの身体を浸食させ破壊することができる!
『ああ……欽治さんが』
予想以上にリヴァイアサンの身体は大きく、近くにあった橋脚も闇に沈んでいく。
このままでは橋も沈んでしまうわね。
橋の上にいるリュージたちは走って離島へ向かう。
『ニーニャ、一度戻ってきなさい。私が島へ行くわ』
『はい!』
ドロッ……
確か、あの島にはヤマタノオロチがいるのよね?
……くすくす、あのドラゴンにも欠片があるのなら、それはもう貰うしかないじゃない。
リュージたちより先に行き、ヤマタノオロチも闇に堕とす。
その後で欽治を……くすくす、相手の行き先がわかっていると先手が取れて助かるわ。
ヒュン
ニーニャのおかげで座標軸を合わせるのは簡単だ。
島に跳び、高天原を探す。
「ダークドール、ユーナ出てきなさい」
ズズッ……
「ふふん、タナトス様! 何か御用!?」
「空からヤマタノオロチを探すわ。風龍神の御霊を使って風を起こしなさい」
「まっかせて! ハイウィンド!」
ブワッ!
黒翼を展開し大空に舞い上がる。
上空からヤマタノオロチを探すのは簡単だった。
ま、巨大な体格だからね。
近くの森の中で身を隠し、ユーナに討伐を任せる。
「それそれそれぇ! ダークアイスショット!」
氷の礫がヤマタノオロチの首に当たる。
くすくす、初手の一撃で十分よ。
闇は当たっただけで終わりなのだから。
「グガァァァ!」
「わわっ!」
別の首がユーナに襲いかかる。
へぇ、意外と元気ね。
頭が八つあるからかな?
でも、首の一つは真っ黒になって闇に沈んでいる。
ブチッ
「自分で自分の首を切った!?」
トカゲの尻尾みたいに切れた部分から首が再生する。
闇が身体全体に浸透しない?
「この! さっさとタナトス様のものになっちゃいなさい!」
ピカッ!
「ひゃぅ!」
光属性の攻撃!?
どういうことだ?
あいつは水龍では無かったのか?
ユーナの持っている闇の杖が蒸発して消え去る。
光属性の攻撃なんて太古の時代にこの世界から失われたはずだ。
「もぉ! まったく、闇に堕ちないじゃない!」
「グガァァァ!」
ボウッ!
バッシャァァァン!
火属性と水属性の攻撃だと!?
まさか、ヤマタノオロチは一つの首に一つの属性を持っている?
火・水・土・風・雷・氷の六つに光と闇の二つで八つ。
私の闇神力の中に感じられるのは若干の風属性……さっき、侵食した首の一つね。
欠片の力はまだ届いていない。
あるとしたらもちろん胴体部分よね?
「火や水なんて私には効かないわ! これでいい加減に逝っちゃいなさい……ダークフロストスラッシュ!」
ビュン!
ブチブチブチブチブチ!
「ギュワァァァ!」
ピカッ!
「ひゃぁぁぁ!」
八つの首が胴体を守っているようにも見える。
首は千切れてもすぐに再生するから、向こうも構いなしにユーナの魔法を受けているし。
ユーナの魔法は範囲が広がるほど長い詠唱時間が必要だ。
ここはニーニャに変わってもらったほうが良さそうね?
『ユーナ、一度退きなさい。代わりにニーニャを出すわ』
「うん、わかった。ニーニャん、変わって!」
まだ、人形の不具合は治っていないか?
リュージたちもここに向かってきている以上、余計な魔力は使っていられない。
それにドラゴン一体を相手に、ダークドールを二体も使うのは闇の神としてのプライドが傷付く。
「……仕方ありませんね」
キュルルル……
ズガガガガガガ!
ズガガガガガガガ!
『ニーニャ、ヤマタノオロチの胴部を集中的に狙いなさい』
ボウッ!
バチッ!
どういうことだ!?
胴体に当たっても表面が黒く変色するだけでしばらくしたら元に戻る。
闇属性も持っているから抵抗力が作用しているのか?
『ニーニャ、もっと高威力の兵器を使うのよ』
「身体に当てても無効ですか。それなら……」
ガシャン
いくら抵抗力が作用していようと圧倒的な闇で相手の闇を飲み込めばいい。
ズガァァァン!
身体が巨大なため、ロケットランチャーも一撃では仕留めきれないか?
ふと、山のほうを見ると欽治がすごい勢いで、こっちに向かってきているのが見える。
リュージがいない?
もしかして、別行動を取っているのか?
くすくす、まったく……私はツイているわ。





