この映像はどこかおかしい2
目を閉じて映る内容は思った通り会見ではなくライブだった。
しかし、本当に上達したよな。
一年間、ダリアの世界でアイドル活動をしていたのは動きからしてわかる。
だが、性格は変わっていないらしい。
「さぁ、私の眷属たち! この世界に女神二人が舞い降りた限り、魔王の好きにはさせないわ! 安心なさい!」
「「なにこれ?」」
「「可愛い!」」
誰がお前の眷属たちだよ。
だが、目を閉じるとユーナのかけた通信魔法により同じ映像を見ている人たちの歓声も聞こえる。
「「おお! まさか、女神様が魔王を滅ぼしてくれると言うのか!」」
「「なんか、どこかで見た顔だけど女神様だったのか? 魔族を滅ぼしてくれるなら何でも良いわ。早くしてくれ」」
「「あれって結城ダリアじゃね? もう片方は知らんな」」
「「魔界も人族が住めるようにしてくれぇ」」
「「あの二人、ワイの嫁。おまいら、手を出すなよ」」
「「草生える」」
なんか、どいつもこいつも自分勝手だなぁ。
しかし、どうして急に魔王の話なんか出してくるんだ?
「欽治、なんでユーナは魔王討伐の話なんかしているんだ?」
「あはは、ここに戻ってくる二日ほど前に女神様の思いつきで魔界に行くことになったんです」
またか!?
あいつの急な思いつきには何かと迷惑をかけられる。
「まさか、魔王に喧嘩を売ったとかか?」
「僕が興奮しちゃって魔王軍幹部の一人を肉塊にしてしまいました! えへっ!」
えへって何だよ!
ってか、何をやっとるんだ!
「だって凄い悪魔だったから……僕……その……我慢できなくて!」
顔を赤らめて言うなぁぁぁ!
「その後、どうなったんだ?」
「女神様も魔族に容赦情けはいらないからって言って、魔王軍駐屯地にメテオを落として帰ってきたんです」
何をしとんじゃ!
あほんだらぁぁぁ!
だけど、あいつが言っていたメテオは発動まで一週間かかるはずだ。
「本当にメテオを放ったのか? あいつのメテオは一週間ほど詠唱が必要って聞いたぞ?」
「はい、巨大な隕石でした。女神様のレベルも物凄く上がっているので、早く放てたと自慢していましたよ」
どうしよう!?
これはアカンやつやろ!
魔王軍幹部を一人倒し、その上魔王軍の拠点を一つ吹っ飛ばすなんて真珠湾攻撃より酷い奇襲だぞ。
そもそも、こっち側も開戦準備をしていない状態で奇襲なんてしたら魔界側はこちらの戦闘準備が整っていると勘違いをさせてしまう。
「まったく、あの子はいつでも無茶をする! こりゃ帰ってきたらキツイお灸を据えてあげないといかんね」
本当ですよ。
おじさん、あいつをボコボコにしちゃってください。
「しかし、その話が本当だとしたら勇者様が遥か南方の峡谷で軍を整えていないといかんね」
あの世紀末勇者がそんなことをするのだろうか?
「もし準備をしていなかったらどうなるんですか?」
「魔王軍が扉を開いて、そのまま雪崩れ込んでくるだろうね」
「私たち二人は仲間を連れて先日、魔界に潜り込み魔王軍に大ダメージを与えてきたわ! 後は貴方たち眷属が乗り込んで魔族をちゃちゃっと滅ぼしちゃいなさいっ!」
「大丈夫です! 私たち二人の女神が貴方たちをサポートします。決して臆することはありません。この世界に真の平和をもたらしましょう!」
ダリアもやる気満々じゃねぇか。
その言葉に勇気付けられたのかライブを見ている人たちの反応は満更でも無さそうだ。
「「うぉぉぉ! 今の曲を聴くとヤル気が出て来た!」」
「「なんだこのみなぎる力は!?」」
「「うわっ! 小石を握っただけで粉々になったぞ!?」」
「「きゃぁぁ! 娘がライブ見ながらトランポリンしてたら天井を突き抜けてお星さまになっちゃったわ!」」
「「うわぁぁぁ! 愛犬とフリスビーしてたら、フリスビーが建物を真っ二つにしてしまったよ!!」」
「「やっべ! 屁こいたら地面が陥没しちまった!」」
どんなバフだよ。
筋力アップか?
先にいっておかないと逆に混乱させるだけだろうが。
「はわわわ! 私のユーナと隣にいる美女は誰なんだ! 今すぐ行きゅ――!」
ちっ、変態も目覚めたか。
しかし、曲に魔力を込めて全人類にバフをかけるか。
自分の身を守るぐらいにはなるかもな。
俺にも効いているのか、試してみるか。
先程、騒いでいた人たちが言っていたように小石を手に取り力を込めてみる。
「あれ? 俺にはかかっていないのか?」
「ふむ、凄い魔力だね。儂も久しぶりにハッスルできそうだよ」
おじさんも同じように庭に出て適当な石を見つけ……えええ!
大きな庭石を片手で軽く持ち上げ、アイアンクローでいとも簡単に握りつぶす。
「これは凄いね。儂も本気を出せそうだよ」
「俺にはかかってないみたいなんですが」
「そうなのかい? 元から効きにくい体質なのかもしれないね」
バフが効きにくい体質って何だよ。
俺だけ弱いままじゃねぇか。
魔族が来たら俺だけ即あふん確定かよ。
冗談じゃないぞ。
「しかし、戦いを望まぬ人々もいるでしょう。そのため、私たちは勇気ある戦士たちを募ります。今日から一週間、それぞれの町や村でクランを結成してください。その後のことはまた後日伝えます」
「ま、腰抜けは引っ込んどけっていうことよ。この後は次のお楽しみに! それじゃあ、バイバ――イ!」
ユーナのせいで兵士が減ったらどうしよう。
それは置いといて、クラン?
ネトゲでよく見る同じ志を持つ集団だよな?
なぜ、それぞれの町で作らせるんだ?
「欽治、今の話は本人たちから聞いているか?」
「はい、この町でもクランリーダーを女神様として作るみたいですよ」
「それじゃ、他の町は納得しないだろ? 誰もがユーナとダリアをリーダーとすることを望むなら余計な混乱とか起きそうなものだが」
「そう言えば、そうですね。なぜなんでしょう?」
いや、俺に聞くなよ。
「欽治はユーナのクランに入るのか?」
「ええ、僕と雪はほぼ無理やり……」
「雪ちゃんまで魔族と戦わせるのか? 心配じゃ無いのか?」
「いえ、雪は強すぎますから一緒にいてくれると逆に安心できます」
「そうか、それならいいが」
「リュージさんも入ってますよ。あと、杏樹さんも」
なん……だ……と!?
冗談じゃない。
俺にはバフが効かないんだぞ。
戦いを望まない人は参加しなくていいんだろう?
俺は足手纏いにしかならないから入らんし戦いもしないぞ。
あと、杏樹がいるのも不安材料でしかない。
「あ、ニーニャさんも入ってます」
よぉし!
かかってこいや!
クソ魔族共ぉぉぉ!
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