この大地はどこかおかしい3
この冷気だ。
ここにある遺体は永遠に朽ちることも無いのだろう。
「ねぇ、ダーリン。不気味だから浄化してもいい?」
「火葬するの?」
「燃やしても良いけれど……」
そうか、そう言えば欽治君が言っていたわね。
ドリアドの町が勇者軍に襲撃されたあと、住人の遺体をユーナが浄化したって。
「純神の吸収された後に残った氷像はどうします?」
「そんなの叩き壊せばいいじゃない」
純神と半神の扱い違いすぎない!?
でも、純神は何も残らずウォリアに取り込まれてしまうのよね。
この国だけなのだろう。
純神の表面に覆われた氷のせいで不気味な氷像がいくつも残ってしまう。
バキ……ビキビキ……
「う……うぅぅ……」
「ひっ!? 半神の亡骸が動き出した!」
この世界では亡骸を放置するとゾンビ化するのは知っていたけれど、凍結している遺体まで動くのってあり得なくない?
「ふふっ、アイスゾンビさ。そいつらを片付けたら奥に来るといいよ」
「スカディ!」
声が洞窟の奥から聞こえてくる。
やはり罠だったか。
でも、アイスゾンビ?
そんなの闇で一気に溶かしてやるわよ。
「ダークミスト!」
ボワッ!
「だりっち! それは駄目なわけ!」
「えっ!?」
「う……うぐぉぉぉぉ!」
ゾンビなのに走り出した!?
しかも、早い!?
「アンデッドに闇属性は効きません! レベッカさんを見ればわかりませんか!?」
この世界ではライカンもアンデッドの一種。
レベッカが自身をライカン化できるのは、ダークドールもアンデットに属するから変身できるのね。
「はぁぁ!」
ザンッ!
ガキン!
「表面が硬い!?」
レベッカが大剣で物理的に攻撃を加えるが弾き返される。
表面が氷に覆われているだけであんなに硬いはずがない。
「ダーリン、ダークミストを解除して!」
「う、うん」
「うぐぉぉぉ!」
「ファイアーウォール!」
バキン!
ルーシィが火の壁を作り、アイスゾンビの攻撃を防ぐ。
「アンデッドに闇属性は餌を上げるようなものです。今はバフがかかって能力が格段に上昇しています。ダークミストの影響が切れるまで耐えるしかありませんね」
「みんな、ごめん……私、知らなくて……」
「気にしないで。誰だって知らないと間違えるでしょ。私もダークブリザードアローで一気に壊そうと思ってたところだったから!」
「だりっちの弱い魔法で助かったわけ。ユーナの闇氷魔法を当てたときには……」
「一体を倒すだけでかなり消費することになるかもしれません」
そんなに!?
え……それよりもダークミストって弱いほうだったの?
「あははっ、バカだね。君たちがどうして二国も滅ぼせたのかわからないよ」
「はぁぁ! 誰がバカですって! バカって言ったほうがバカなのよ! だから、私たちがバカじゃなくてスカディがバカ! はい、論破!」
いや、それって……論破できていないのでは?
「……バカバカって4回も言った! そっちのほうがバカ確定だろ!」
うわっ、スカディのやつ、無視すると思っていたのにユーナに言われて悔しがっている!?
「そっちも合計4回バカって言ったでしょ! はい、論破!」
だから、論破できていないって!
「はい、そっちが一回バカ増やしたから、僕の勝ちぃ!」
「きぃぃ! そっちも今、バカって言ったから合計5回!」
うわっ、2人ともムキになっている!?
なんて、程度の低い痴話喧嘩なの。
「うぅぅ……」
「エレメントミニガン召喚!」
キィィィン……ズガガガガガ!
「それっ! ファイヤーサイクロン!」
ボォォォゥ!
「どりゃぁぁぁ!」
ザシュッ!
ユーナがスカディと低レベルの喧嘩をしている間に、ルーシィたちがアイスゾンビを次々と倒していく。
ダークミストの影響が切れたため、アイスゾンビの動きは遅くなり足を引きずらせて襲いかかってくるが、この程度では私も簡単に避けれる。
「う……うぅぅ」
「ユーナ!」
ユーナが洞窟の奥に向き、スカディと口喧嘩しているため気がついていない?
「だから、バカなのはあんたのほう……って邪魔ぁ!」
「うぅぅ……うふげぇ!」
ヒュゥゥゥ
ドゴォォォン!
裏拳!?
えっ……アイスゾンビが吹き飛んだ?
「ユーナ、凄いわけ!」
「あれは風龍神の御霊が反応している?」
ユーナが持っているカバンの中から薄緑色の光が漏れ出ている。
「はれっ!? はれれぇ!? 何よこれぇ!」
ユーナが意図せずに御霊が作動した?
そうだ、ユーナの身体は闇属性でできている。
アイスゾンビに当てても効果が無い。
それなのに吹き飛んだのは拳に風属性をまとっているから?
「ルーシィ、あれって……」
「わかんないわけ。でも、これで残りは……」
パァァァン!
ドサッ……ボゥ!
「掃討できたようですね」
「結局、全部燃やしちゃったの?」
「アンデッドは浄化か燃やすかしないと倒せないですからね」
「んにゃ、その前に今のユーナに浄化魔法は使えないわけ」
「どうして?」
「だって、アンデッドと同種だからでしょ?」
「えええ! 汚物の塊であるアンデッドと一緒にしないでよぉ!」
「リア、違いますよ。ユーナはタナトス様の天使であり女神です。そうですよね?」
「そう! それよ! ふふん、レベッカはちゃんとわかってるじゃない!」
私としても天使のほうがいいわ。
ダークドールをアンデットなんて今まで思ったことがなかったし、今回はたまたまアンデッドと戦うことになったから、そう思わされる機会があっただけ。
うん、そういうことにしておこう。
「うん、綺麗にしてくれたようだね。お礼を述べさせてもらうよ」
スカディ、まさかこの部屋の遺体を消し去るために私たちを利用したの?
潔癖症の彼がこの部屋に近付くことは無い。
けれど、遺体はこの冷気で永久に朽ちることがない。
だから、アイスゾンビとして遺体を動かして……やはり神族は下衆ね。





