この氷結はどこかおかしい9
「どの建築物も氷でできていますね? ユーグラシアの建築物とはまるで違う……」
「ま、氷の国だしぃ、当然なわけ」
「町の様相は昔来たときとあまり変わりませんね」
ユーナの家が壊れたとき、ユーナも氷で家を作ったけれど、それと似たようなものね。
……あら、そう言えばユーナの家ってどうして壊れたのだっけ?
まだ、記憶が戻らない。
無理に思い出そうとすると頭が痛むし……。
『くすくす、思い出したいの?』
「ユーキ? まさか、頭が痛くなるのって……」
『私の仕業じゃ無いわよ。今回はね……』
今回はって……以前はしていたって言っているようなものでしょ?
ユーキ以外に私の中に誰かいるのかしら?
……いや、そう言えばいたような?
これも思い出そうとすると頭痛が起こる。
『くすくすくす、なかなかに強力なものをかけているわね』
「ユーキ、私の中に……」
『それ以上は口に出さないほうがいいわ。あいつに気付かれると私が危険に晒される』
やっぱり、何者かがいるのか。
口に出すとユーキが危険に晒される?
それってどういうこと?
「誰かぁ! いる――?」
「おかしいわけ、天使もいないなんて……」
「まさか、ラグナロクが始まったからウォリアに吸収されたのかな?」
「しかし、半神だったら人間の身体が残るはずですし、無人ということはすでに廃墟となっていたのでは?」
廃墟か、氷でできた建物でこの低気温だ。
老朽化することも無いから、綺麗な状態で保存されているのね?
「もぉう、ヴァナヘイムのころからずっと雑魚神いないじゃない!」
「ユーナさんはたくさん壊したいみたいですね」
「あ、もちろんウルルさんはしっかりと見極めてから壊すつもりよ」
ウルルか……住んでいた町が今は廃墟で誰一人としていない。
ヴァナヘイムに着いたころから感じたことだけれど、私はノーマにはまだ会っていないのよね。
ムスペルヘイムではユーナとニーニャによって町一つは消されたはず。
神族のことだ。
私たちの様子は常に見ていると思ったほうが良い。
ムスペルヘイムでノーマにはどうしようもないことを知り、他国ではラグナログのために戦力の強化を開始したと仮定すると、ヴァナヘイムではすでにノーマがゼフュロスたちウォリアに吸収されていたのかも?
だから、神殿のあった村の中に誰一人いなかったとしたら辻褄が合いそうだ。
ここ、ヨトゥンヘイムでも同じようにノーマたちはすでにウォリアに取り込まれている可能性が高いか?
でも、それなら半神の身体は残されるはずよね?
ヴァナヘイムでも人間の身体は見ていない。
ムスペルヘイムで見たきりだ。
「ま、廃墟なのかただ数が減ったのかわからないし、ウルルの家に行ってみるわけよ」
ルーシィを先頭に付いて行く。
氷の一軒家に氷のマンション、ここは氷神族の住宅地のようだ。
「あ、ラーソンまである」
まさかのコンビニ!?
えっ、神族ってコンビニ使うの!?
「ドリアドの町にも欲しいわけぇ」
「ホスピリパにはありましたものね。コンビニエンスストア」
「コンビニエンスストア? なんですか、それは?」
「24時間でぇ、何でも売っていてぇ……」
中には誰もいないし、商品棚の上にも何もない。
やっぱり、この町は廃墟?
「ここの角を曲がったところがウルルの家なわけ。あー、なつい!」
「本当ですね。何百年ぶりでしょうか?」
「ふふん、ウルルさん! シィの娘で真の女神でタナトス様の天使であるユーナが来てやったわよ!」
バンッ!
ユーナが玄関を無理矢理開ける。
もう、強盗にしか見えないわね。
「ひっ、許してってば! どうか命だけはってば!」
奥の部屋にいるのは髪が雪のように白い女性……いや、氷神族だ。
「うるっち、久しぶりぃ!」
「どうも、ウルルさん。ご無沙汰しております」
あの女性がウルル?
いや、そんなことより町に誰一人としていなかったのに、どうしてウルルはここにいるのか……私は離れておいたほうが良さそうね。
「えっ? ルーシィとニーニャってば!?」
「そうなわけ。うるっち、この町なにかあったわけ?」
「ルーシィさん! 私も紹介してよ!」
「金色の髪って? それにシィに似ているってば……まさか、ユーナちゃん?」
シィとユーナを知っている?
やはり、ウルル本人なのだろう。
問題は敵かそうでないか。
敵でなくてもノーマであればウォリアの餌になるだけ。
どちらにしても、ここで壊しておく必要はあるか?
「そうよ、私が偉大なる真の女神! ユーナ・クロウドよ!」
「うるっち、ヨトゥンヘイムはどうなったわけ? 昔、来たときとまるで違うわけよ」
「それは……スカディの仕業ってば。冬の女神が復活したのってば」
スカディ、ここに来てまた新たな名前か。
でも、その女神がこの国を異常な寒さにしたのなら、そいつこそウォリアなのだろう。
「ウルルさん、他の住人はどこへ行ったのですか?」
「半日前、スカディの命令で氷結道へ集会へ行ったってば。わたしは昨晩、夜ふかししすぎたせいで遅れて……」
「遅刻で怒られるのが嫌だから行かなかった……と?」
「ひっ、そうってば!」
「レベッカはリアのそばにいてあげるわけ。うるっちは昔から人見知りなわけよ」
「えへへ、ルーシィとニーニャは友達ってば。ユーナちゃんはシィのお腹にいたころに会ったってば」
「ねぇ、ウルルさん。ママのこと教えて欲しいの! 私、ママに会ったことなくて……」
ユーナ……そうよね。
ママか……私も何年、両親に会っていないのかな?
やっぱり、この前戻ったときに会っておくべきだった。





